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ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

2.

2.

ふと周りを見渡すと、手錠で繋がれた俺達を散歩中の親子連れが目を丸くして見ている。
声は聞えないが「未成年犯罪か?」と話しているだろう。
良い具合にコンビニが目の前にあるから万引きだと推測されていそうだ。

「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「どうぞ、何でも聞きなさい」

「……今日は本当に日曜日ですよね」
「そうだよ。制服を着ているあたり、きみも曜日感覚がずれているのだな」
 藤江さんは溜息をついた。

「きみのお母さんが息子の挙動に不審を抱いて私達のところに相談に来られてから三日間、きみの行動追跡したお蔭で私の曜日感覚がずれるし、朝夜が逆転したよ。全く、深夜帰りする高校生を尾行するのは楽ではないな」

「母が相談を? 迷惑をお掛けしました」
 謝るべきかわからないが、母絡みだと言うのでとりあえず頭を下げた。

「あれ? 見かけによらず素直そうだな」
 ふっと鼻で笑われて、カチンと来た。警察だろうと、俺は初対面の人に馬鹿にされる覚えはない。

「俺は普通の高校生ですよ、何が『見かけによらず』ですか」
 自慢ではないが持物検査で引っ掛かったこともない、規律を護る一高校生のはずだ。
髪の毛は茶色いが、皆もそうしているし。
襟足は少し……長いが、これは俺に似合う髪形だ。規定すれすれらしいけど。


「日曜日に制服を着ているなんて、普通ではないよ?」


これは言い返せない。しかし負けるものか。
「何度も言いますが、俺は悪いことをしていません。下着を売るのは小遣い稼ぎだ。
売春したわけではないから、罪はない!」
 しかし藤江さんは笑みを浮かべている。

「ひゃあっ」
藤江さんが俺の耳に唇を近づけ、わざと息を吹きかけたのだ。膝の力が抜けそう。
「自分を正当化しても法が定められているから無駄な足掻きだよ。知らなかったと、とぼける気か?」
 そして俺のベルトのバックルを指で突いた。

「履いていた下着を店内で脱いで売るんだろう? それは『児童買春・ポルノ処罰法』によって適正な処罰を受けるよ。売ったきみもそうだけど、斡旋した店主、買った客全てが摘発される。まー、それにしても、かなり高値で取引されていたみたいだねえ、人気者のアオイちゃん?」
 
それを言われると二の句が継げない。
流石、社会の安全や治安を維持する行政機関だ。
藤江さんには全てお見とおしなのか。
誰にも知られないよう細心の注意を払っていたはずが、まさか母が素行を疑って警察に相談するなんて思わなかった。

「今も高価なブランドの下着を履いているのかな? 売らなくちゃいけないもんね」
「そんなことまで知っているんですか」

「いかがわしい店で売るときはブランドの下着なら高値がつくんだろう?しかも一日以上身につけて体臭が残る程、いいらしいね……。何がいいんだか。こうして話しているだけで気分が悪くなってきた」
 
本当に眩暈を起こしたのか、ぐらりとよろける仕草をしたので、今がチャンスと手首を捻り押さえ込んだ。

「いてて!」
 巻きついた鎖が手首に食い込んでいる。
これは痛いだろうな、捻っている俺も正直痛い。
手錠で繋がっているからと力を半減したら意味が無い。
自分も痛くなるのを覚悟して捻っているので俺の手首も鎖のあたる部分が赤く染まり、このままでは充血するだろう。

「子供だと思って甘く見ていたら、これか」
(何だ、まだ余裕なのか?)
 
鎖を掴んで引くと藤江さんの手首の皮膚が引きつりだした。
すると藤江さんの眉間に皺が寄る。

「逃げませんから手錠を外してくださいよ。誰に見られるかわかったものではない、俺は犯罪者ではありませんし!」
 ざまあみろとばかりに言い放ったのに、藤江さんはにやりと笑った。

「犯罪者だよ、蒼空」
「ええっ!」
 藤江さんが力を抜いた。その反動で俺は背中から地面に倒れて腰を強打した。

「いたいー!」
「そんなに可愛い声も出せるのか。流石、子供だ」
 俺の体に馬乗りになっている藤江さんを睨みつけることしかできない。しかし腰が痛くて目尻に涙が浮かんでしまった。

「ようやく屈したか。営業妨害をした事実は大目に見てあげるよ」
 何を思ったのか俺の目尻を指で拭うと、肩を抱き起こしてくれた。

「では、話を聞かせてもらおうかな」
 藤江さんの息が乱れていないと気付いた。
俺はあれだけ暴れたのに、この人には本当に無駄な抵抗だったわけだ。
「学生のきみを思いやって、私の車で来ているから」
 仕方なくついて歩き始めたが手錠が目立つので、すれ違う人が凝視している。
 日曜の朝から卑猥な行為に没頭していると煙たがれているのだろう。
制服を着ている以上、あの学校の生徒だとばれている俺は羞恥心で気が遠くなりそうだ。

3話に続きます。

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