11.11.結局俺は、藤江さんの提案した嘘の報告書を作成して貰うことにした。 帰りが遅いのはファミレスでバイトをしていたから・下着を洗濯に出さないのは思春期によくある事例で、羞恥心から自分で洗うようにした、と言いわけを作り上げた。 そして証拠写真が必要だからとビニールに包まれた服を渡された。 「何ですか、これ」 「ファミレスの制服」 この用意周到さに舌を巻いた。 「さあ、さっさと着替えろよ」 「何処で?」 「ここ」 藤江さんが俺のベルトに手をかけた。 「止めてください、自分で脱ぎますよ!」 「あ、そう。潔いね」 藤江さんは俺を見て微笑むと、社長に向き直り「社長、ここは撮影に使いますので場所を変えて下さい」とスコーンを皿ごと持上げた。 偉そうな素振りに見えるが、社長は納得して藤江さんに付き従う。 (上下関係がおかしくないか?) 「蒼空、ぼんやりしないで早く着替えろ」 藤江さんが笑顔で片手を振ってからかうので、意地になり素早く着替えた。 しかし何処か、おかしい。しっくりとこない。 白いシャツはいいとしてボトムがジーンズ、おまけにギャルソンエプロンもつけるなんて、こんな制服があるのか? 「藤江さん! 俺を騙していませんか」 「きみがお母さんを騙すのだろう? 店を特定できる制服ではまずいから私なりに考えてあげたのに、反抗するな。ま、そんなところも可愛いと思えてきたけど」 「はあ?」 最後の言葉は聞き違いだろう。 「藤江さん、早く写真を撮って下さいよ」 しかし藤江さんは顎を撫でながら納得がいかない様子だ。 「似合わないねえ。……シャツのボタンを、全部とめているせいだな? さ、外せ。第二まで外していい。鎖骨がちら見する程度が良さそうだ」 「……何の為の撮影か、今一度聞いても良いですか!」 「そう熱り立つな。可愛い顔が台無しだ。 怒り狂いながら接客業をしているのかと、お母さんが別の意味で心労を重ねるぞ」 大人の掌の上で転がされている。 太刀打ちできる言葉や腕力も無い。それに分が悪いのはどう考えても俺だ。 藤江さんの指示どおりに制服を乱し、応接室と給湯室で撮影された。 こんな眉唾ものの写真で、母が納得するだろうか。嘘だと見抜かれる気がする。 「蒼空のお母さんは独身時、オフィスで働いていたそうだね」 藤江さんは俺の知らないことを話す。 「私達は依頼主のことも調べるのだよ。円滑な取引を行う為に身辺調査と言うべきか」 「それが、何か」 「この写真が嘘だとばれたら私に連絡しろ」 「ばれるのが前提ですか?」 「勘がいいね。この写真だとオフィスでバイトをしているとしか見えないから。しかも、大抵のオフィスは高校生を雇わないし」 「苛立つ大人だ!」 弄ばれた気がする。母に心配させたくなくて、嘘の報告書を依頼したのは藤江さんの計算どおりかと疑う。 母が嘘の報告書に騙されてくれればいいが、安易に信じるだろうか。 あの写真は疑惑を増すばかりで、何の解決にもならない気がする。 俺は服を着替えると、何となく自分の腰を撫でた。彼女とのセックスよりも自慰よりも、半端の無い強さの藤枝さんの口での処理を思い出して、体が疼くのだ。 大人は凄いなと変なところで感心した。 それに同性だからか、感じるツボを押さえていて、気持がよくて、涎をたらしそうだった。 しかもあんな声を出したのは初めてだ。 (恥かしい。でも充実感は否めないな) 藤江さんの姿が見当たらないので社長に挨拶をして駅に向かった。 すぐ電車に乗れたが、間違えて学校の近くの駅で降りてしまった。 取り乱していたのだろうか。 藤江さんのことばかり考えて、初めて会った場所に来てしまった。 このまま帰る気にもなれない。 時計を見ると十五時だ。街をぶらぶら歩いて心を落ち着かせよう。あ、店があるか。 12話に続きます。 ジャンル別一覧
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