カテゴリ:東北
今月17日、奥州市の黒石寺で蘇民祭が開催された。夜中に裸の男たちが蘇民袋を争奪する奇祭として知られ、争奪戦はコロナ禍を経て4年ぶりの開催なのだが、住民高齢化と後継者不足を理由に、今回を最後に千年以上の歴史に幕をおろしたことが、あちこちで報道されている。 産経新聞ニュースでは、16年ぶりに祭に来たという花巻市の佐藤真さん(53)が記事に出ている。この方が、2008年に掲示が拒否されて話題になったポスターのモデルだった人だという。記事には、当時のポスターも示されている。 河北新報でも最近、蘇民祭に関する記述がだいぶあった。 ●2月18日 一面記事 蘇民祭/有終の肉弾戦 ●2月16日 河北春秋 (大要 長岡京跡で蘇民将来之子孫者と書かれた木札がみつかった。蘇民将来は疫病神から家族を守ろうとした庶民信仰。千年以上の歴史を誇り日本三大裸祭りに名を連ねる黒石寺蘇民祭が、あす開かれる。苦渋の決断だったろうが、復活を信じたい。) ●2月15日 とうほく・総合面 ほっとタイム 歴史の終わりに万感/蘇民祭撮り続けた88歳写真家 (大要 奥州市のアマチュア写真家佐々木稔さん。1955年ころ黒石寺蘇民祭に初めて行き、以来通い続けた。闇の中で男たちが揉み合う泥臭さが魅力だった。佐々木さんの作品は祭りのポスターに毎年のように採用。2008年JR東日本が掲載拒否したポスターの写真も佐々木さんが撮った。) ●2月11日-14日 社会面「炎消ゆ 惜別 黒石寺蘇民祭」 (11日 上 決断 高齢化にあらがえず) 大要 黒石寺住職の藤波大吾さんは12月5日、淡々と開催終了を説明。黒石地区は人口900人、高齢化率50%超。祭りの中核を担う檀家は9軒に減り、70代80代中心に10人ほど。祭りの準備は1か月以上かかり、寺と檀家しかできない部分がある。開催1週間前から精進潔斎は家族全員に課されるため、女性は入浴できず、子どもは給食を食べられず弁当を持たせる。 藤波さんは言う。祭りは信仰の手段であって目的ではない。担う人や家族は伝統の核だから、無理やり変えてまで蘇民祭を続ける必要はない。 蘇民祭は、疫病除けの神と信仰された牛頭天王の化身をもてなし、その力を授かった伝説上の人物蘇民将来を祭る。厳寒の川で身を清め、火の粉を浴びる荒行は深い信心の証し。蘇民袋争奪戦の後、袋は細断され災い除けとして参拝客に配られる。 (12日 中 尊重 真剣なら参加拒まず) 大要 花巻市の会社員で4児の父、佐藤真治さん(53)(おだずま注:産経記事とお名前が異なる)は2008年のポスターのモデルだった。祭りに懸ける真摯な姿を撮ってくれたとわだかまりはないが、テレビコメンテーターに、下劣、威圧的、女性の敵とまで言われたことを悲しげに振り返る。 その年取材陣は10倍の170人に達して森厳な祭りの美は損なわれた。自分がいたら取材のぶら下がりが続くと、当時37歳の佐藤さんは14歳から毎年参加した祭りから身を引いた。 今回の祭りには、新宿二丁目のゲイの人たちも蘇民祭に参加する。黒石寺住職は、精進潔斎して感謝の気持ちあれば誰でも問題ないとする。保存協力会青年部長は、裸が見にくいとかゲイが気持ち悪いとかは、体験してから言ってくれ。過酷な祭りに真剣な思いで参加するなら誰でも歓迎されると言う。 (14日 下 模索 議論重ね難局打開へ) 大要 1月28日金ケ崎町の長岡蘇民祭が行われた。祭は1989年に農協青年部が企画したのが始まりで、地元有志の実行委員会で運営。寺、檀家、信者が中核を担う他の蘇民祭より人材確保や資金調達が容易だ。 岩手県内の蘇民祭は、黒石寺に限らず担い手の高齢化と人手不足で廃絶や中止が相次ぐ。明治以降、ピークは県南部中心に20ケ所で実施されたが近年は10ケ所ほどに半減。石鳥谷の光勝寺も800年以上続く五大尊蘇民祭を今年打ち切った。黒石寺の廃止発表の数日後の決定だった。 蘇民祭はこれまでも廃絶の危機に瀕したことがある。戦後混乱期には3回の中止。1971年には参加者を殴りつけた暴力団員が逮捕される事件。寺主体の祭りは終わるが、地元住民の保存協力会では、場所を変えて蘇民袋争奪戦を続けられないかと思案する。 ■関連する過去の記事(黒石寺蘇民祭) 奥州市の蘇民祭ポスター掲載拒否を考える(08年1月10日) ■関連する過去の記事(地域と感染症など) 仙台藩の飢饉と金勝寺、徳泉寺、願行寺(2023年09月08日) 感染症と人類の歴史(2023年08月15日) 水の森公園の叢塚と供養塔(2023年08月03日) 仙台とコレラ流行の歴史(2022年9月19日) 芋峠(2021年8月9日) 芋峠(仙台市)と感染症(2020年11月28日) 鈴木重雄と唐桑町(2016年6月19日) 宮城の民間医療伝承(2011年9月4日) 明治のコレラ大流行と仙台市立榴岡病院(10年9月3日) ■関連する過去の記事(疫病や感染症に関する民俗) 世界に誇る東北の郷土芸能(西馬音内盆踊り、鬼剣舞など)(2022年12月14日) 疫病と向き合う東北の民俗伝承(2022年6月8日) 民俗信仰と東北(2022年6月4日)=黒石寺蘇民祭など 鬼剣舞と念仏踊りを考える(2022年6月2日) 魔よけと東北を考える(08年2月10日) ■関連する過去の記事(奇祭など。ほかにも過去記事ありそうですが) ついに見た!米川の水かぶり(2023年02月09日) 中新田火伏せの虎舞(2013年4月29日) ハンコタンナと覆面風俗(2015年2月1日) 塩竈の「ざっとな」(2011年2月27日) 奇祭 鶴岡化けもの祭(2011年1月3日) 民俗信仰と東北(2022年6月4日)(弘前市鬼沢) 岩木山信仰とモヤ山(2022年5月30日) ■関連する過去の記事(来訪神などに関するもの) 西馬音内の盆踊り(2012年8月5日) ナマハゲやスネカの起源と神(鬼)の両義性(2022年5月29日) 秋田美人を考える(再)(2022年5月11日) 日本三大美人と秋田(2016年1月31日) 小野小町(2011年7月23日) 秘密結社とナマハゲ(2011年6月4日) 海の民、山の民(2010年12月25日) 秋田美人を考える(2010年12月23日) 秋田ナマハゲは秘密結社か 再論(2010年5月20日) なまはげと東北人の記憶を考える(10年4月27日) 秋田なまはげは秘密結社か(07年8月13日) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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