可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

↓前回です♪
第百十九段　～愛に属するもの～

★☆★☆

ジョンのにらんだ通り、マシンはフリーズした。

どこでフリーズするかも見当がついていたので

ジョンは慌てなかった。

必要な手順も頭に入っていたし用具もあらかじめそろえておいたから

すぐに水槽からシアンの入った籠を手動で釣り上げて

床におろし、彼を出すと、大急ぎで純水の出るバルブを操作して、

四方から彼にシャワーを浴びせながら、ぬるぬるしている彼の身体を

擦った。

急がなければ、また彼を水槽に漬けなければならなくなる。

ドールの淺知恵だ。

ジョンは苦々しくも思ったが、いじらしくも感じていた。

彼の望み。

子供っぽい策略。

洗ってやりながら、

シアンの嘘のない本当の身体が次第に現れるのを見た。

本物のアルビノなら白いのだろうが、

ドールはどちらかと言うと青白い。

彼らの血液は青いのでそうなるのだが、

そのせいで、生身の人に触れているような気がしない。

擦り過ぎないよう手加減しながら手を動かしていると

シアンが自分の口を指し示した。

すぐに意味が分かって、

ジョンは彼の口からチューブの束をそっと引き抜いてやった。

シアンは胸を一度二度と大きく喘がせて、

すぐに通常の呼吸に戻ったが、

唇の形がチューブが引き抜かれた時のキスの形のままだった。

凍えたような水色の唇が濡れて光っている。

これを見せたかったのか。

これ？

これがドールのテクニック？

シアンの手練手管の幼稚さにうんざりした。

ただ腹立たしいことにその唇はとてつもなくセクシーだった。

ジョンは意地悪な気分になっていたので

それを見ない振りをして尚も彼の身体を擦り続けた。

シアンがもう大丈夫、と言った。

綺麗に落ちたよ。

彼は白い前髪から水のしずくをたらしながら、また言った。

ジョンは彼から離れた。

ドールの全貌を見た。

彼の人間離れした美しい顔と

彼の前面を飾る模様を見た。

毛細血管の悪戯。

一輪の白百合の花だった。

左脚太股から右の頬にかけて、その花特有の

よく手入れされた日本刀で袈裟がけに切りおろしたような茎と

さらに短く切りつけられたような葉と花弁の曲線。

それはそのように刀傷にも見え、

また、手慣れた人間が振り回した鞭の跡のようにも見えた。

シアンは意思の無い標本のようにくるりと回って

全く同じ模様が背中にも在るのを見せてから、正面を再び見せた。

右頬の花の一部は、額から右眉の中央を下りて

そのまま右瞼を縦に切り、そして頬から顎へと下っていて

まるでウォーペイントのようだったので

彼の整い過ぎた顔にエキゾチックな味わいを加えていた。

牧場は多分、

人形たちのこの見かけの美しさに血道を上げたのに違いない。

人間相手だと罪の意識が湧いても、

人形が相手なら平気で何でもできる。

そのために、人型でありながら、

絶対に人ではあり得ない美をドールに与えたのだ。

シアンは非現実的な美しい顔をじっとジョンに向けていた。

ブルーの瞳。そして白目の部分も薄い水色だ。

彼は不安そうにジョンに訊ねた。

『気に入らない？』

え？

なんてことを訊くのだ。

ジョンは素早く首を振った。

『いいえ。いいえ、気に入りました。』

彼は馬鹿みたいな返事を返した。

気に入らないなんて、とんでもない。

気に入り過ぎて恐ろしいほどだ。

ドールがこんなに魅力的だとは思わなかった。

想像以上だ。

ただ、ひとつ気にかかることがあった。

彼の足だ。

左脚の小指が欠損している。

完全主義の牧場が見落とした？

そんなことがあり得るだろうか。

だがとにかく、これがシアンだ。

嘘いつわりない彼の真の姿だ。

『拭いて。』シアンは言った。

ジョンは手順の最後を忘れていた。

ああ、と我に帰り

さっそく、大きなバスタオルで彼を包み、

頭部から顔、顔から胸、胸から背中と丁寧に拭いて行った。

終わると無言で彼を抱えあげて、寝室に向かった。

彼との昨夜の約束を叶えるために。





つづく







↓次回です♪
第百二十一段　～シーディ～


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ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、ペン・シャオペン　William Feng 以上全部同じ人（笑）

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