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カテゴリ:映画
「ダンケルク」 (原題:Dunkirk) は、2017年公開のイギリス・オランダ・フランス・アメリカ合作の戦争映画です。第二次世界大戦のダンケルク大撤退の史実に基づき、クリストファー・ノーラン監督・脚本、トム・ハーディ、マーク・ライランスら出演で、1940年、フランスの海岸でドイツ軍に包囲されたイギリス、フランス軍の兵士約40万人を860隻の船舶で救出した史上最大の救出作戦を、陸、海、空の視点からスリリングに描いています。第90回アカデミー賞で作品賞、監督賞など8部門にノミネートされ、録音賞、音響編集賞、編集賞を受賞した作品です。
「ダンケルク」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:クリストファー・ノーラン 脚本:クリストファー・ノーラン 出演:フィン・ホワイトヘッド(トミー、英国陸軍二等兵) ハリー・スタイルズ(アレックス、英国陸軍「高地連隊」の二等兵) アナイリン・バーナード(ギブソン、トミーと行動を共にする無口な兵士) ケネス・ブラナー(ボルトン海軍中佐、 防波堤で撤退作戦の指揮を執る海軍将校) ジェームズ・ダーシー(ウィナント陸軍大佐、ボルトンと共に作戦を見守る陸軍将校) マーク・ライランス(ミスター・ドーソン、小型船の船長。ピーターの父親) トム・グリン=カーニー(ピーター、ミスター・ドーソンの息子) バリー・コーガン(ジョージ、 ミスター・ドーソンに同行する青年) キリアン・マーフィー(謎の英国兵、ミスター・ドーソンに救出された英国兵) マイケル・ケイン(英国空軍隊長(声のみ)、ファリアとコリンズを指揮) トム・ハーディ(ファリア、 英国空軍スピットファイアのパイロット) ジャック・ロウデン(コリンズ、英国空軍、スピットファイアのパイロット) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 史実に基づく大撤退のスペクタクルを陸海空、それぞれの現場から三層の構造で描き、無名の兵士たちが直面する厳しい現実で雪だるま式に緊張感を高め、兵卒や一般市民たちのヒロイズムで締めくくる、稀有で質の高い戦争映画です。 史実に基づく大撤退を緊張感たっぷりに描いた稀有な戦争映画 撤退を描いた稀有な戦争映画 同じくフランスの海岸を舞台にした20世紀の名作戦争映画に、スティーヴン・スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」(1998年)があります。この作品の冒頭、オマハビーチにおけるノルマンディー上陸作戦を描く20分間の戦闘シーンは圧巻で、敵の砲火の雨の中、上陸部隊の兵士たちが次々に倒れていき、死者の数は全編を通じて255にも上ります。兵士の手足が吹き飛ぶ、内臓が飛び出る、炎に包まれて爆死する、海水が血の色に染まるなど、ハンディカメラによるドキュメンタリーのような戦場の現実を、戦争写真家ロバート・キャパが捉えたノルマンディー上陸作戦の報道写真を彷彿とさせる、色飽和度を抑えた現実感のある映像で生々しく描き出し、戦争映画のあり方を変えた歴史に残る戦闘シーンと言われています。 この「プライベート・ライアン」のノルマンディ上陸作戦や、最近の例で言えば、メル・ギブソン監督の「ハクソー・リッジ」(2016年)の前田高地の戦闘など、最終的に勝利に繋がる攻撃は意気が上がるものですが、本作に描かれているような撤退は基本的に意気が下がるもので、映画に描くのが難しくなります。クリストファー・ノーラン監督は、
この映画に取り掛かる前に、スタッフと一緒にいくつか映画を観ました。その一本が「プライベート・ライアン」。スピルバーグとは親しくしていて、とても美しいフィルムを貸してくれたんです。強烈な体験でした。映画のパワーは公開時から少しも衰えていない。ものすごく恐ろしくてスクリーンを見ることさえ困難でした。 時間軸の異なるレイヤーを並行して描く ノーラン監督といえば、「メメント」( 2000年)、「プレステージ」(2006年)、「インセプション」(2010年)、「インターステラー」(2014年)と、時間軸の異なる層を並行して描くことを得意としますが、実は本作にもこのマジックが使われています。何気なく観ている見逃してしまいそうですが、実は本作は。海岸は一週間、海上は一日、飛行機は一時間と、それぞれ時間の縮尺が異なる三つのレイヤーを描いており、これらをサスペンスが雪だるま式に膨らんでいくように繋いで構成された、非常に実験的な作品なのです。 この映画は3つの視点から描かれています。空(飛行機)、陸(浜辺)、海(海軍による撤退)です。前線の兵士たちは、異なる時間軸上で出来事を経験しています。陸上では、一週間も足止めを空兵士もいます。海上では、せいぜいで一日の出来事です。イギリスからダンケルクまでスピットファイアで飛べば、燃料にして一時間分の距離です。本作で陸、海、空の話をひとつに纏めるには、これらの異なった時間軸を持つ層を、融合させなければなりませんでした。話自体はとてもシンプルなのですが、実はとても複雑な構造を持っているのです。(クリストファー・ノーラン監督)このマジックを一部の評論家は紛らわしいと批判しますが、論理的な同時性を犠牲に感覚(緊張感)の連続性を重視したこの大胆な試みは、評価されてしかるべきものでしょう。 本作では、
リアリティと緊張感の演出
このようなリアリティ溢れる制作デザイン、撮影、録音に加えて、音響効果やサウンドトラックがさらに本作の緊迫感を高めています。例えば、ドイツ空軍の急降下爆撃ユンカース Ju 87 の空爆を受けるシーンでは、「ジェリコのラッパ」と呼ばれるこの機の主脚根本に設置された風圧駆動のサイレンによる威嚇音を効果音として再現、空爆の緊張感を演出しています。また、サウンドトラックに時計がチクタクと鳴るものがありますが、これはノーラン監督が自身の懐中時計の音を録音、サウンドトラックのハンス・ジマーと音響や効果音のデザイナーに渡したもので、こうした配慮を元に本作は緊迫感あふれる映像、音響効果、音楽がこれまでにないほど緊密に融合した作品となっています。(動画クリップ(YouTube)の項を参照) イギリス人にとってのダンケルクの戦い イギリス軍はダンケルクの戦いで約3万人の兵員を捕虜として失い、戦車や火砲、トラック等の重装備の大半の放棄を強いられ、数十万の兵士はほぼ丸腰で帰還、深刻な兵器不足となります。フランス軍はダンケルク撤退以後は雪崩を打ったように崩壊、ドイツ軍はパリを占領し、フランスはついに降伏します。短期的見れば負け戦ですが、ヨットや貨物船、漁船、遊覧船および王立救命艇協会の救命艇など、民間の船が緊急徴用され、兵を浜から沖で待つ大型船へ運んだこの小さな船たちが起こした奇跡は、イギリス国民の心に深く刻まれ、大いに士気を高め、今でも特別な思いが残っているといいます。ノーラン監督は、こうした国民の士気や無事帰還した兵卒たちのヒロイズムで、緊張感に満ちた本作を巧みに結んでいます。 多くのイギリス人がそうであるように、私もこの物語を聞いて育ちました。イギリス人はダンケルクの戦いを、神話やおとぎ話のように捉えています。そして深く知れば知るほど、シンプルな神話である以上に、リアルな人間たちの物語に感動させらます。 ノーラン監督作品を支える人々 第90回アカデミー賞で作品賞、監督賞など8部門にノミネートされ、録音賞、音響編集賞、編集賞を受賞した本作ですが、過去のノーラン作品のアカデミー賞受賞歴を見てみると、美術、撮影、編集、音響編集、録音、作曲といった部門が強いことがわかります。 ノーラン監督作品のアカデミー賞受賞歴(◯:受賞、△ノミネート)
これらの部門のキーマンは、
ノーラン監督作品を支えるキャスト・スタッフ
フィン・ホワイトヘッド(トミー、英国陸軍二等兵) フィン・ホワイトヘッド(1997年〜)は、ロンドン出身のイギリスの俳優。アルバイトしながらオーディションを受けている最中に本作に抜擢される。 ハリー・スタイルズ(アレックス、英国陸軍「高地連隊」の二等兵) ハリー・スタイルズ(1994年〜)は、イングランド出身のイギリスの歌手。イギリスのボーイズグループ、ワン・ダイレクションのメンバー。本作に抜擢され、俳優デビュー。 ケネス・ブラナー(ボルトン海軍中佐、 防波堤で撤退作戦の指揮を執る海軍将校) ケネス・ブラナー(1960年〜)は、イギリスの俳優・映画監督・脚本家・プロデューサー。「ローレンス・オリヴィエの再来」と呼ばれ、シェイクスピア劇の俳優として著名。「愛と死の間で (1991年)、「から騒ぎ 」(1993年)、「ハムレット」(1996年)、「リチャードを探して」(1996年)、「裸足の1500マイル」(2002年)、「ハリー・ポッターと秘密の部屋 」(2002年)、「マリリン 7日間の恋」(2011年)などに出演している。 マーク・ライランス(ミスター・ドーソン、小型船の船長。ピーターの父親) マーク・ライランス(1960年〜)は、イギリスのの俳優、舞台演出家、劇作家。イギリスで生まれ、子ども時代をアメリカで過ごす。ロンドンの王立演劇学校を卒業、舞主に舞台でキャリアを重ね、95年から10年間、シェイクスピア・グローブ座の芸術監督を務める。2015年までにローレンス・オリビエ賞を二度、トニー賞を三度受賞、映画では「ブリッジ・オブ・スパイ」(2016年)で、アカデミー助演男優賞を受賞している。2017年にナイトに叙勲されている。 キリアン・マーフィー(謎の英国兵、ミスター・ドーソンに救出された英国兵) キリアン・マーフィー(1976年〜)は、アイルランド出身の俳優。独特な青い瞳の持ち主として知られ、英語、アイルランド語、フランス語、ゲール語を話す。1996年から地方の劇団に参加、舞台で主役を演じ注目を集める。1990年代後半~2000年代前半にかけてアイルランドやイギリスの映画、舞台などで活動。主役に抜擢されたイギリス映画「28日後…」のヒットとにより国際的に名前が知られるようになり、「コールド・ マウンテン」(2003年)でハリウッド映画に進出。本作、「ダークナイト」三部作(2005年〜2012年)、カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作の「麦の穂をゆらす風」(2006年)で一気に評価を高める。 トム・ハーディ(ファリア、 英国空軍スピットファイアのパイロット) トム・ハーディ(1977年〜)はロンドン出身のイギリスの俳優。父は広告作家・コメディ作家、母は画家。演劇を学び、映画「ブラックホーク・ダウン」(2001年)でハリウッドデビュー、舞台俳優としても活動し、2004年に舞台でローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされる。「インセプション」(2010年)で国際的に名を知られ、「ダークナイト ライジング」(2012年)で悪役のベインに抜擢される。「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」(2013年)、及び「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)で主役を務める。「レヴェナント: 蘇えりし者」(2016年)でも悪役を演じ、アカデミー助演男優賞にノミネートされる。役によって別人かと思うほど印象が変わる、役作りの幅の広い俳優である。 【サウンドトラック】 「ダンケルク」のサウンドトラックCD(楽天市場)
【動画クリップ】 【撮影地(グーグルマップ)】
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Last updated
2018年03月29日 05時00分05秒
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