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「ブラック・クランズマン」(原題:BlacKkKlansman)は、2018年公開のアメリカの伝記&クライム・サスペンス映画です。ロン・ストールワースの回顧録「ブラック・クランズマン」を原作に、スパイク・リー監督、デンゼル・ワシントンの長男ジョン・デヴィッド・ワシントンが映画初主演、アダム・ドライバーらの共演で、1970年代のアメリカのコロラド・スプリングズでアフリカ系アメリカ人初の市警巡査となったロンが、白人至上主義を掲げる過激派団体クー・クラックス・クラン(KKK)の地方支部への潜入捜査を始め、活動内容や極秘計画を暴く様を描いています。第71回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞、第91回アカデミー賞では、作品、監督、助演男優を含む6つの賞にノミネートされ、脚色賞を受賞した作品です。
「ブラック・クランズマン」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:スパイク・リー 脚本:スパイク・リー/デヴィッド・ラビノウィッツ/ケヴィン・ウィルモット /チャーリー・ワクテル 原作:ロン・ストールワース著「ブラック・クランズマン」 出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン(ロン・ストールワース刑事) アダム・ドライバー(フィリップ・"フリップ"・ジマーマン刑事) トファー・グレイス(デビッド・デューク) コーリー・ホーキンズ(クワメ・トゥーレ) ローラ・ハリアー(パトリス・デュマス) ライアン・エッゴールド(ウォルター・ブリーチウェイ) ヤスペル・ペーコネン(フェリックス・ケンドリックソン) ポール・ウォルター・ハウザー(アイヴァンホー) アシュリー・アトキンソン(コニー・ケンドリックソン) アレック・ボールドウィン(ボーリガード博士/ナレーター - ) ハリー・ベラフォンテ(ジェローム・ターナー) ロバート・ジョン・バーク(ブリッジス署長) マムズ・ダ・スキーマー(ジャッボ) ダマリス・ルイス(オデッタ) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 70年代のコロラド州を舞台に、白人至上主義の秘密結社 KKK への潜入捜査を通じて、現代に通じる人種差別をコメディ要素を交えながらテンポ良くスリリングに描き出し、衝撃的なエンディングが強烈なメッセージを突きつける、娯楽性とメッセージ性がハイレベルで融合した、実話に基づく上質のクライム・サスペンス映画です。 娯楽性とメッセージ性が融合した、実話に基づく上質のクライム・サスペンス映画 奇想天外な実話をパワフルに脚色 アメリカの白人至上主義の秘密結社KKK(クー・クラックス・クラン)をアフリカ系アメリカ人の刑事が潜入捜査するという奇想天外な話ですが、なんと実話に基づいた話です。原作者のロン・ストールワースは、コロラド・スプリングス警察が1978年に初めて採用したアフリカ系アメリカ人の刑事で、かつ警察署創設以来最年少の刑事でした。調査部のデスクでKKKの新聞広告を見た彼は、白人になりすましてメモを送り、電話接触に成功、潜入捜査が始まりました。さすがに肌の色は隠せない為、電話での応対はロン自身、KKKと会うのは同僚の白人刑事と、二人一役の潜入捜査でしたが、それにしても痛快な話です。 後年、警察署を退職したロンは、回顧録「ブラック・クランズマン」を執筆します。ハリウッドはすぐに映画化の権利を獲得、「ゲット・アウト」(2017年)の監督・脚本・製作で知られるジョーダン・ピールが製作に加わり、この話を映画するには彼以外にいないと脚本をスパイク・リー監督に持ち込みます。ロンとその回顧録について全く知らなかったスパイク・リー監督ですが、奇想天外な実話を見逃すわけにいかないと、
スパイク・リー監督は、舞台を原作の1979年から1972年に移し、1960年代後半のブラック・パワー運動やブラック・イズ・ビューティフル運動の影響を受けた当時の典型的なアフリカ系アメリカ人像の描き出すとともに、KKKが支持したであろうリチャード・ニクソンの大統領選に重ね合わせています。現代的でトレンディなドラマにしたかったというスパイク・リー監督は、本作の為に原作には登場しない架空の女性パトリスを創造、娯楽作品としての魅力を大きく高める一方で、白人至上主義や極右団体が台頭する現在をなぞりながら、今日に通じる気違いじみた世界を時にコミカルに、時にシリアスに描き出しています。 また、これはもちろん本作の脚本にはなかったことですが、撮影開始直前の2017年8月にシャーロッツヴィルに集結した白人至上主義者や極右団体を巡ってこれに反発する勢力との衝突が起き、犠牲者が出てしまいます。皮肉なことに、これが本作の社会的な位置づけをより強固なものにしてしまいます。本作の撮影開始後、スパイク・リー監督はシャーロッツヴィルの暴動の犠牲者ヘザー・ヘイヤーの母親に使用許可をもらい、本作のエンディングに事件の記録映像が使用されています。この映像は、当初から現代の人種問題と並行して描かれていた本作の視点にすんなりとフィットし、挿入することの是非に関する議論は全くなかったと言います。カンヌ映画祭審査委員長のケイト・ブランシェットは、「ブラック・クランズマン」はアメリカの危機の本質と喝破しましたが、極右勢力の台頭はアメリカに限った話ではなく、欧州など極右勢力が台頭する国々に共通する危機と言えます。 テロさながらの様相を呈したシャーロッツヴィルの暴動 巧みな構成と随所に埋め込まれた「本物」 本作は、「南部連合をお救いください」という台詞ともに南軍旗が大写しされる名画「風と共に去りぬ」(1939年)の1シーンで始まります。「風と共に去りぬ」は、マーガレット・ミッチェルの長編時代小説を原作に、絶頂にあったアメリカ南部白人たちの貴族文化的な社会が南北戦争という風と共に消えて行く姿を描いたもので、名作でありながら、
冒頭、「風と共に去りぬ」の1カットで大写しされる南軍旗 白人至上主義団体のKKKなどが集会で南軍旗を多用したことから人種差別の象徴的な意味合いが強まり、南北戦争集結から150年も経った今、南軍旗を公的な場所から撤去する動きが南部諸州で広がっている。 続いて、アレック・ボールドウィン扮する架空の白人至上主義者ケネブルー・ボーリガード博士の、記録映像風のクリップが流れます。実は「風と共に去りぬ」やこの記録映像のクリップは、エンディングのシャーロッツヴィルのドキュメント映像と対をなしており、強いメッセージ性を持っています。特に、エンディングに映し出される上下が逆さまのアメリカ国旗は、政治的抗議や心痛の象徴であり、冒頭の南軍旗と強烈な対照をなしています。また、劇中に、
エンディングに映し出される上下が逆さまのアメリカ国旗 エンディングに映し出される上下が逆さまのアメリカ国旗は、政治的抗議や心痛の象徴であり、人種差別の象徴的な意味合いが強い冒頭の南軍旗と強烈な対照をなしている。 因みに、本作には編集段階で削除されたシーンがありません。これは業界では極めて珍しいことですが、インディーズ畑で長く無駄のない作品作りをしてきたスパイク・リー監督ならではの職人技でしょう。 ブラック・パワー/ブラック・イズ・ビューティフル クワメ・トゥーレが本作で言及する「ブラック・パワー」は、1966年にアメリカの学生非暴力調整委員会のストークリー・カーマイケル委員長(クワメ・トゥーレ)が唱え、黒人大衆に浸透した概念です。アフリカ系アメリカ人が白人と平等の立場に立つためには,経済的,社会的権力を獲得しなければならず、そのためには自衛や自己解放のためには暴力をも辞さないという思想でした。民族的回帰運動でもあるこの思想は、その一方で大衆にアフリカ系アメリカ人としての尊厳を自覚させ、「ブラック・イズ・ビューティフル」というスローガンを生み出しました。これは白人的な価値観の下、自ら否定してきたアフリカ系アメリカ人の人種的特徴を逆に「らしさ」として強調し、彼らの民族的アイデンティティーを主張するもので、その表現のひとつとしてアフロ・ヘアーという髪型が生み出されました。ブラック・パワー、ブラック・イズ・ビューティフルという言葉を聞いたことがある人は少なくないと思われますが、本作のクワメ・トゥーレのスピーチやディスコ・ダンスを通してその意味を肌で感じることができます。 クワメ・トゥーレのスピーチ(一部) KWAME TURE: It is time for you to understand that you as The growing Intellectuals of this Country, you must define Beauty for Black People, Now that's Black Power. Is Beauty defined by someone with a Narrow Nose? Thin Lips? White Skin? Hell no. You ain't got none of that. Our Lips are Thick, Our Nose is Broad, Our Hair is Nappy, We are Black and We are Beautiful! 「動画クリップ(YouTube)」の項に挙げた劇中のスピーチは、クワメ・トゥーレが1967年にモルガン州立大学で実際に行った講演から引用、再構成したものと思われますが、我々がよく聞くブラック・パワー、ブラック・イズ・ビューティフル、アフロヘアーという言葉が、実際に何を意味しているのか、このスピーチに端的に濃縮されています。 ジョン・デヴィッド・ワシントン(ロン・ストールワース刑事) ジョン・デヴィッド・ワシントン(1984年〜)は、ロサンゼルス出身のアメリカの元アメリカンフットボール選手、俳優。俳優デンゼル・ワシントンの長男。9歳の時に、父デンゼル主演のスパイク・リー監督の映画「マルコムX」に端役で出演する。フットボールの特待生として学費全額免除で大学に通った後、2012年までプロアメリカンフットボール選手として活躍。引退後、本格的に俳優業を始め、2015年からアメリカンフットボールを題材にしたテレビドラマに出演、本作で主役をを演じて注目される。「Monsters and Men」(2018年)などに出演している。 アダム・ドライバー(フィリップ・"フリップ"・ジマーマン刑事) アダム・ドライバー(1983年〜)は、サンディエゴ出身のアメリカの俳優。TVドラマシリーズ「GIRLS/ガールズ」に主人公の恋人役で出演、2013年〜2015年にエミー賞にノミネートをされる。「リンカーン」(2012年)、「フランシス・ハ」(2012年)、「奇跡の2000マイル」(2013年)、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)、「ヤング・アダルト・ニューヨーク」(2014年)、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)、「沈黙 -サイレンス-」(2016年)、「ミッドナイト・スペシャル」(2016年)、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年)、「マリッジ・ストーリー」(2019年)と高評価の作品に出演し続けている。観察力、対応力に優れ、役になりきって演じるが、自分が出演した映画を観ることはないと言う、分析よりも直感を重視する俳優。本作でアカデミー助演男優賞にノミネートされている。 ローラ・ハリアー(パトリス・デュマス) ローラ・ルース・ハリアー(1990年〜)は、シカゴ出身のアメリカの女優、モデル。2013年にソープオペラへの出演でテレビドラマ・デビュー、「スパイダーマン:ホームカミング」(2017年)のマドンナ役で映画デビューを果たす。 【サウンドトラック】 「ブラック・クランズマン」のサウンドトラックCD(楽天市場)
【動画クリップ(YouTube)】
【関連作品】 「ブラック・クランズマン」の原作本(楽天市場) ロン・ストールワース著「ブラック・クランズマン」 本作に引用されている作品のDVD(楽天市場) 「國民の創生」(1915年) 「風と共に去りぬ」(1939年) スパイク・リー監督xジョン・デヴィッド・ワシントンのコラボ作品(楽天市場) 「マルコムX 」(1992年)監督・脚本・出演 スパイク・リー監督作品のDVD(楽天市場) 「ドゥ・ザ・ライト・シング」(1989年)監督・脚本・製作・出演 「ジャングル・フィーバー」(1991年)監督・脚本・製作・出演 「ゲット・オン・ザ・バス」(1996年)監督・製作総指揮 「ラストゲーム」(1998年)監督・脚本・製作 「キング・オブ・コメディ」(2000年)監督・脚本・製作 「インサイド・マン」(2006年)監督・脚本・製作 「シャイラク」(2015年)監督・脚本・製作、輸入盤、日本語なし ジョン・デヴィッド・ワシントン出演作品のDVD(楽天市場) 「Monsters and Men」(2018年) アダム・ドライバー出演作品のDVD(楽天市場) 「リンカーン」(2012年) 「フランシス・ハ」(2012年) 「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年) 「奇跡の2000マイル」(2013年) 「ヤング・アダルト・ニューヨーク」(2014年) 「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年) 「沈黙 -サイレンス-」(2016年) 「ミッドナイト・スペシャル」(2016年) 「パターソン Paterson」(2016年) 「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年) 「ローガン・ラッキー」(2017年) ローラ・ハリアー出演作品のDVD(Amazon) 「スパイダーマン:ホームカミング」(2017年) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2019年12月04日 05時00分09秒
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