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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:イスラエル映画
1967年6月11日、終戦を間近に控えたシナイ砂漠を敗走する4人のエジプト兵。 ひとりは敵弾に倒れ、なおも戦おうとする隊長をハレド(サリム・ドウ)が殺し、ガッサン(スヘル・ハダッド)と二人、武装解除して水も食料もないまま、スエズ運河目指して歩きだすのだった―――。 お世話になっているchappie the gogo!さんから、以前おすすめしていただいた作品です。 期待通りの良質な反戦映画でした。 そこはかとない明るさが、戦争映画であっても親しみを感じさせる良作。 内容やラストが、どこかで観たことのある展開だとしても、製作国の色で捉えるほうの意識も変わります。 20年前の作品ですが、今でも十分な見ごたえでした。 生き残ったエジプト兵たちの、ささやかなロードムービーといっていいのかもしれません。 無茶な攻撃を続ける隊長を殺して、砂漠に孤立する二人の兵士たち。 彼らは過酷な砂漠を、スエズ運河目指して歩き始めるのです。 喉がカラカラで死にそうな彼らが見つけたのは、国連のジープ。 死体が乗っている以外は問題なく、座席の下には酒ビンが転がっているという運の良さ。 すっかり酩酊状態のまま、ジープで砂漠をかっ飛ばす爽快なシーンがシュールです。 何処に敵がいるやもしれない中を、勢いにまかせて運河へ走る! 酔わなければ、まともでなんていられないような、渇きと戦場の恐ろしさ・・・ その恐ろしささえすっ飛ばすほどに、小気味良い展開が魅力でした。 結局、砂にはまってあえなくジープを乗り捨てることとなる二人・・・ そうして再び死にそうな彼らが出会ったのは、運河を目指すイスラエル人兵士たちでした。 この作品は、製作国であるイスラエルが、あえてエジプト兵の目線から戦争を描いています。 敵同士に芽生える友情は、テーマとしては珍しくないけれど、酩酊状態の奇妙で滑稽なエジプト兵士たちに、次第にほだされていく様子など、いたるところで情を感じます。 どんないきさつで酔ったエジプト兵がたった二人歩いているのか・・・彼らを見るイスラエル兵の複雑な気持ちが面白い。 「捕虜にはしない」 そういわれてもしつこく付きまとって、仕方なしに共に過ごす一日。 役者だというハレドがみせる滑稽な芝居は、思いがけないインパクトの残るシーンでした。 翌朝、まだ眠っているふたりを置いて、そっと出発したイスラエル兵士たちが横切ったのは、地雷原のなか。 エジプト語で「地雷注意」の立て札があったのに、その注意書きをイスラエル兵は読めずに進んでしまうのです・・・。 誰が生き、誰が死ぬのか、予想もつかない戦争下の出来事。 弱い立場だった者が、なぜが最後まで生きている。 絶対はない世界で、友情を信じても、武器を捨てても、死ななければならない時がやってくる。 不条理の一言に尽きる結末でした。 短い旅の果ては、やっぱり広大な水。 こちらでは運河でしたが。物語の最後に衝撃と空しさを飲み込む水があることを、意識せずにはいられませんでした。 タイトルの「アバンチ・ポポロ」は進め!人民という意味だそうです。 本編中に流れるこのタイトルで始まる曲がいい。 夕日をバックに行進する姿も、二番煎じといわないで。素直に味のあるシーンと思えます。 製作・監督・脚本 ラフイ・ブカイー 撮影 ヨアヴ・コシュ 音楽 ウリ・オフィル 出演 サリム・ドゥ 、スヘル・ハダッド ツブヤ・ゲルバー お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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