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行きかふ人も又

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2010.03.30
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カテゴリ:ポーランド映画

 蠍座では、今日から来月12日まで、タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』と並行して、<ナチス強制収容所の記憶>と題し、『パサジェルカ』『夜と霧』の二作品を放映している。
初日の今日はお休みで、さっそく蠍座へ足を運んでみた。


 アウシュビッツ強制収容所を舞台に、女看守リザ(シュロンスカ)と彼女が同性愛的な感情を抱く女囚マルタ(チェピェレフスカ)との精神的な闘いを描いた異色作。
手なづけ屈服させようとする看守に対して毅然とした態度をとる女囚、それによって看守は精神的に追いつめられていく―――。



 映画完成前に、ムンク監督は交通事故で亡くなっている。友人たちが遺志を継ぎ、遺されたスチルを繋いで完成させたのが本作。
戦後、新婚旅行に出た女看守が船内で、かつて囚人だったマルタにそっくりな女に出会うところから、物語は始まる。
スチルに解説がつき、語りが入り、1時間の映画としての体裁を得ているけれど、そのおかげでかえって描かれない部分を想像して、深みが出たという評価も多いようだ。

ガス室も、処刑も、時代背景のなかに普通にあった。怖ろしく描こうとする意図的なものはなくて、リザとマルタの精神的な闘いが前面にある。
近年作られたホロコーストものは幾つも観ているけれど、趣の違いを感じるなぁ。当然だけれど。
『夜と霧』もきっと観ておこうと思った。

リザが、告白という形で、初めて夫に語る過去。
女看守だったころの、マルタという美しい憂いと気高さを持つ、ひとりの囚人の話。
マルタと恋人のつかの間の逢瀬に目をつむり、病に倒れた彼女を献身的に介抱し、無言のなかで交わされた数々の駆け引き、、、。

手元にある本の解説には、“ 同性愛的な感情 ”とあるので、あらすじにはそう書かせてもらったけれど、未完ゆえの曖昧さのなかに半分隠れていた。
リザが最初に告白する内容、それからさらに、彼女の心に飛来する回想、回想が二度繰り返されることで、告白できなかった真実が明らかにされていく展開がよかった。


先日、『朗読者』でも思ったけれど、戦争中、看守側にいた人間が、戦後自ら行った行為について、どう思い、どういう態度をとるべきなのだろう。
ユダヤの人々の苦しみはよく描かれても、看守側にいた者や、ユダヤ人を突き出した人々の苦しみについては、ほとんど考えたことがなかった。
再会したのがマルタなのかどうかは別として、再会という形にすることで、そのどちらの立場からも物語を見つめることができる作品になっていた。

とはいえ、わたしは時々うつらうつらしてしまって、、そんな自分が信じられない気持で帰ってきたのだった、、。
スチルの繋ぎはどう見ても違和感たっぷりであるし、はじめは未完だったのだから、作品としてどうにか成立させた感というのは、残っていて仕方がないのだ。
素晴らしい完成度とは言い難い。それがムリのない正直な感想だと思う。


この映画、いまだソフト化がされていないのだそう。今回フィルムが日本にあるのも、あとわずからしく、「蠍座通信」(蠍座の館主さんが毎月書かれている上映作品の解説やコラムの冊子)で「貴重な機会ですよ」と書かれてあるのを見て、絶対に足を運ぼうと思っていた。
ちなみに『夜と霧』も『パサジェルカ』も、「死ぬまでに観たい映画1001本」に選ばれています。


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監督/ アンジェイ・ムンク
脚本/ ゾフィア・ポスミシュ  アンジェイ・ムンク
撮影/ クシシュトフ・ウイニエウィッチ
音楽/ タデウシュ・バイルド
出演/ アレクサンドラ・シュロンスカ  アンナ・チェピェレフスカ  ヤン・クレチマル

(モノクロ/61分)





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Last updated  2010.03.30 23:13:10
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