手のきれいなひとが好きだ。
きれいと云っても、つるつるぴかぴかの意味ではない。ええと、なんだろう……。所作のきれいなこと(それはたしかに大事だ)。
それに、よく働く手であること(それはもっと大事だと思える)。
手のきれいなのは、文字通りの「きれい」ではない、とたしかにわたしは考えている。
けれど、のび切った爪を指につけている手や、何年も手入れをしていないくたびれた手は、いくら所作がきれいで、働き者であっても、「きれい」の範疇に加えるわけにはいかない。
そう発表した上で、おそるおそる白状するけれど、のびた爪にぎょっとしたり、自分の手ががさがさなのに気がついて急いでポケットにつっこんで隠したり。それが、最近のわたしである。
きれいな手が好きなわたしの手が、きれいでないのは……。わたしが、使い放題使うだけ使って、「ありがとう」も云わず、クリームもすりこんでやらない暴君だからだ。暴君。……よく云った。
これはいけないと思い、ハンドクリームをつけようとした。友人がプレゼントしてくれた、ものすごく効き目があって、いい香りのする(チェリーブロッサムだった)ハンドクリームのフタをとって、指ですくいとろうとした。
が、「待てよ」と思う。わたしはじきに台所に入り、料理をする身だ。それなのに、手にこれをすりこんだらどうなるだろう。まず、石けんでごしごし手を洗う。ハンドクリームを洗い流すのはもったいないし、それに、洗ったあと、塗ったものと、その香りが調理に障るのではないだろうか。それは困る。
だから就寝前にすりこめばいいというわけなのに、つい仕損なう。まことにまことに、感謝知らず(自分の手への)だ。
そういえば、以前、「柚子のタネを焼酎につけたものを手にすりこめばいいですよ」とか、「わたしは料理に使うオリーブオイルを手に塗っています」とおしえてもらったことがある。そんなありがたい助言を忘れて、ことしもまたもや暴君になっているなんて。がさがさの手で、過ごしているなんて。
一昨日は台所で働きながらオリーブオイルをすりこみ、昨日はごま油を塗った。なかなかいい具合で、しわしわよれよれがさがさの手が、女っぷりを上げている。……ような気がする。きょうは、一昨日、柚子のタネを小さな空き瓶に入れ、焼酎を注いだもの(※)をすりこもうと思う。
ありがとう、手よ。
※柚子のタネのハンドオイル、ほんとうはひと月ほどおくと、有効成分が出てくるそうです。でも、そんなことにかまわず、どんどん使っています。タネは洗わず、そのまま小瓶に入れています。
友人が、プレゼントしてくれたへちまです。
夏のあいだ、グリーンカーテンとしても活躍し、
たくさんの「実」をつけてたのしませてくれたそうです。
わたしは、これで(てのひらに収まる大きさにカットして)
食器を洗うことにしました。
へちまも、
ハンドオイル(柚子のタネ+焼酎、オリーブオイル、ごま油などの)も、
台所を変えてくれています。
……うれしい。