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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2012/04/24
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カテゴリ:生活

 台所に興味がある。
 食べものが生まれる場所だから……でもあるけれど、ひとが、ものを考える場所だからでもある。
 そこで働くひとは、手もとを見ながら(そして、たまにふとそこから目を逸らしながら)、考える。その日あったことも考えるし、ずーっと前にあったことも考える。まだ起こらないことについて思いめぐらしたり、起こりっこないようなことを想像したりもする。
 考えがこんがらかると、妙においしくないものができ上がったりして、困惑する。おいしくならなかった理由を、つくった本人は、わかる。
 あのとき浮かんだ妄想が、過分な辛みを加えさせたな、とか。辛い記憶が、混ぜこむべきでない材料を混ぜこませたな、とわかるのである。そうとうにいい線いっていた食べもののさいごのさいごに、あとから「入れなければよかった」と後悔するようなものを投げこんだときなどは、もう、二度といらないことは考えないことにしよう、料理に集中しようと誓う。
 また、いらないことを考えることを知っていながら、ちかっと誓う。



 今朝、わたしは5時に台所で働いていた。
 日曜日の、静かな朝だった。昼過ぎから雨になるとラジオは告げていたけれど、雨になるのは夕刻だろうという気がした。台所の窓から見える空が、そう思わせた。
 日曜日の早い時刻から何をしていたかというと、ソフトテニスの試合に出かける三女の弁当づくりだ。とにかく鶏のから揚げの好きなひとなので、朝の早(はよ)からじゅうっと揚げものをしている。静かな朝の揚げものは、楽器を奏でるように愉快だ。最初に1分半ほど揚げて引き上げる。5分くらいおいて、また1分揚げる。
 映画「南極料理人」(*)を観ていて(大好きな映画である)、「堺雅人」(大好きな俳優である)演ずる南極観測隊員・西村淳(調理担当)が、鶏のから揚げは二度揚げしなくてはいけないと一度ならず云うのを聞いてからの、二度揚げ。二度も揚げたら、油っぽさが増すように思えたのだけれどさにあらず。途中数分置くあいだになかまで火が通るらしく、さいごに1分揚げるときはからりといい色になってくれるというわけだった。



 おむすび3個。
 鶏のから揚げ、レモン添え。
 にら入りの卵焼き。
 茹でたブロッコリとカリフラワー(軸に白味噌を塗る)。
 焼きそら豆。
 にんじんグラッセ(花型)。
 りんごうさぎ。



 今朝も考えた。何を?
 自分が、説明的過ぎるということ。
 世のなか、誤解が前提になっていると思うあまり、あらかじめくどくどと説明してしまう。そうすることによって、経験の味わいが損なわれる。へんてこりんな予告篇でも見せられるようなことになって、実際にその場に立ったひとを興ざめさせてしまうのだ。ひとを興ざめさせたことで、自分も興ざめする。
 あとから、それもずーっとあとから、ああ、あのときの「あれ」はそういうことだったのかもしれないなあと心づくというくらいで、いい。
 そんなことを、りんごの皮をうさぎの耳のようにうすくそぎ切りし、ちょっと持ち上げながら考えていた。



 ——ひととひとのあいだに、ことばはそうたくさん要らないのかもしれないなあ。誤解されたって、かまわないじゃない。いつか、どこかで、それがも解けるもよし。解けないままも、まあまあよし。



*「南極料理人」2009年公開(日本)
 監督・脚本 沖田修一
 原作『面白南極料理人』(西村淳)
 南極観測隊員・西村淳は、南極大陸のドームふじ観測拠点の調理担当。
 越冬する隊員8人分の食事を用意するのが仕事だった。



Photo_2



台所の窓辺の小景です。
三葉とクレソンの、根っこの水栽培。
となりの小さいビーカー(ティーバッグの容器)には、
ドレッシングやたれの残りを入れています。
すぐ使いきってしまえるように。







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最終更新日  2012/04/24 10:00:00 AM
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