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カテゴリ:硬派
しまった。
泣いてしまった。 「小早川伸木の恋」を一気に読み終えるつもりだった。 でも、僕は所々頁をめくる手を止めざるを得なかった。 第5巻の76頁には涙腺が緩んでしまった。 気がつけば涙が頬を伝っていた。 ものがたりの内容はそんなにお涙頂戴なお話でもない。 きっと、1年前の僕なら涙を流してはいなかっただろう。 ただ、もうすぐ30歳に差し掛かる僕はこのものがたりの、人々のもつ営みの当たり前さと、その地獄を近くに感じる。 -当たり前であることの地獄- 自分ではどうしようもない自分自身といってしまえばいいのだろうか。 傷つけるつもりはなくとも、傷つけてしまうこと。 自分以外にはなれないこと。 「小早川伸木の恋」はみな、僕らが理解できる人間達だ。 まともな人間が総てまともではないし、まともでない人間がすべてまともでないわけでもない。 ちょと、カナさんが浮世離れしているけど、オカシナ人間ではない。 誰もが、誰かに共感できる漫画だと思う。 主人公の小早川は誠実であるがゆえに、妻を裏切ってしまう。 妻の妙子は愛を求めるが故に、嫉妬に狂い愛そのものを壊してしまう。 竹林の軽薄さだって、人を救う嘘を繰り出すかわいらしさになってしまう。 美村教授は俗物であるが、その底知れない俗物であるが故の向上心が人をひきつける。 ちなみに、僕はこういう美村教授みたいな人物は登場人物としては大好きだ。 現実生活では嫌だけど。 つまりは、根源的な悪人が出てこない。 作者の柴門ふみさんはどの登場人物にも愛情を注いでるんじゃないかって思う。 実は悪人が出てこないものがたりって、すごぉく作りにくい。 ドラマとしての盛り上がりに欠けるからだ。 でも、柴門ふみさんは悪役と主人公の対立じゃなくって、主人公の心にある弱さと強さ、知恵と純情の葛藤を描くことでものがたりを作っている。 そして、その葛藤を超える基準はなんなのか、答えも提示している。 僕が涙を流してしまったのは、その提示された答えに対してでもあり、また、小早川の生き方に共感したからだ。 きっと、こういう丁寧な漫画って数年後に読み返すと、また、感想が違うのかもしれない。 そして、一生涯に連れ添ってくれるものがたりがあることは、素晴らしいことだと、思うのだ。 「Age,35」と、「あすなろ白書」も読み返そうかな? 泣いちゃうかな? なお、この話は小早川伸木さんの恋がメインであるけど、ちょこちょこ、脇役の恋もサイドストーリーで挿入されている。 この中では「師長の恋」がとっても面白かった。 この添田師長さん、とおってもカッコイイです。 ※もっと、「なんだかなー」なら『目次・◎ものがたり(映画、音楽、文学、本)』まで お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年03月04日 23時25分28秒
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