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2022年09月28日
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木村尚貴 2022年9月28日 10時00分(朝日新聞デジタル)

ドイツ出身の現代アートの巨匠ゲルハルト・リヒター(90)が祖国の負の歴史と向き合って描いた4枚の抽象画の大作が、日本で初公開されている。
厚い絵の具の下に隠されているのは、ナチス強制収容所での蛮行を撮影した写真の模写。
「ビルケナウ」と名付けられた作品は、ロシアによるウクライナ侵攻の終わりが見えない今、戦争の醜さや人類の暗部を考えさせ、多くの人を引きつけている。

人の背丈以上あるその作品は、東京・竹橋の東京国立近代美術館で開催中の大規模個展で展示されている。
来場者は12万人超。会場には20~40代の姿が目立つ。オンラインでのチケット購入者では、約55%を占めている。

作品を鑑賞した都内の中学校教諭、山崎由佳さん(37)は「絵から不穏な音が聞こえてくるような怖さを感じた。写真では伝えきれない、戦争の真実を表現したのかもと思った」。
SNSでは「戦争を再生産し続ける人間への怒りを感じた」などと、作品テーマと世界情勢を重ね合わせた投稿も相次ぐ。

作品の元になった4枚の写真は、アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所で、虐殺された人たちの遺体処理を担った囚人「ゾンダーコマンド」の一人が隠し撮りしたとされる。
ゾンダーコマンドが極限状態の中で試みた撮影は、多数の遺体が焼かれる様子や、ガス室に送られるとおぼしき裸の群衆などを写している。
協力者を通じて外の世界に持ち出された、ユダヤ人虐殺を直接に示す数少ない写真だ。

リヒターにとって、その歴史は「負い目」だった。過去の本紙のインタビューでは「一つのイデオロギーに支配されるのが怖いのです。ひどいものを見てきたから」と吐露している。
克服への表現を試みては、適切な方法が見つからず、挫折を繰り返していた。

この写真を分析した本の存在を知ったのは、2000年代。この出会いによって、独自の「アブストラクト・ペインティング」という技法で芸術に昇華させるすべを得た。
4枚の写真それぞれを別々のキャンバスに投影して精密に模写。その上から何層もの絵の具を塗り重ねたり削ったりして、元の絵を覆い隠して最終的に抽象画に仕立てた。
2014年に完成。80歳を超えていた。

作品は、当初「抽象画」というタイトルで展覧会で披露され、その後、見る者をはっきり誘導するように「ビルケナウ」と名付けられた。
アウシュビッツを芸術としてどう表現できるのかという、戦後ドイツで問われてきた議論に対してのリヒターの答えだ。

展覧会に関わった愛知・豊田市美術館の鈴木俊晴学芸員は、作品では「描く」行為と「削り取る」行為が同時に行われていることに注目し
「私たちは戦争の被害者と同時に加害者にもなりうる、あるいは歴史を記録することは、同時に別の何かを忘却し消すことでもある。そうした表裏一体のありようを示唆しているのではないか」と話す。

ウクライナ侵攻から7カ月。ハルキウ州の要衝イジュームでは集団墓地が見つかり、民間人の犠牲が明らかになっている。
遺体には処刑の痕跡があったという。リヒターの言う「ひどいもの」が21世紀も繰り返されている。

リヒターにメールで尋ねるとこう回答があった。

「(ウクライナ現政権を『ネオナチズム』と批判する)プーチン(ロシア大統領)の行動は、ネオナチよりひどい。それは恐るべき人間の性質であり、一定の間隔をおいて現れては私たちを支配する。ビルケナウ連作は、私たちの内なるこの暗黒面を克服しようとする努力の一つだ」

陰鬱(いんうつ)な絵の中に、希望を見いだす手掛かりが潜むことを巨匠は示唆している。(木村尚貴


東京会場は10月2日まで、10月15日から豊田市美術館へ巡回する。詳細は展覧会ホームページ(https://richter.exhibit.jp/別ウインドウで開きます)


〈ゲルハルト・リヒター〉
ドイツ東部、ドレスデン出身。旧東独の社会主義体制下で壁画家として活動したが、ベルリンの壁建設直前に西ドイツに移住した。
絵画のほか、ガラス、鏡など多彩な素材を使って「見る」ことの原理や、イメージの成立条件を問い直す作品で世界的に評価。
ウクライナ侵攻を厳しく批判し、販売に資するための作品を支援団体に寄贈している。





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最終更新日  2022年10月13日 18時23分16秒



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