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NOVELS ROOM

part4

―7th Spirit ~part4~―



「リースは人間だ。」

俺は耳を疑った。聞き違いなんじゃないかと思った。
まさか、死神の中で一番強いと思われている、あの子供のリースが人間だなんて。しかし、そんな事実、絶対に信じない。

「は、はは・・・冗談はやめろよ。リースが人間なわけないだろ?現にあいつは、自分で死神だって・・・、」
「そう、死神。でも人間なんだ。」

何がどうなっているのかさっぱりだ。
確かに、今まで非現実的な事が起こってきたが、この件に関しては、一番信じられない話しだ。
死神だけど人間?意味がわからない。俺の頭の中は、混沌として状況すら掴めなくなっていた。

「つまり、やつの名前はリースではない。本当の名前は・・・」

―ドスッ・・・

嫌な音が聞こえた。目の前で起こっている状況がわからない。
何故、フランシスの胸から、刃物が突き出ているんだ?

「僕の部下は、余計な事を言うやつが多いなぁ・・・。」

聞いたことのある声。そして、得体の知れない殺気。
正しくそれは、リースだった。フランシスから刃物を勢いよく抜き取り、地面に向かって落ちるフランシスを無視して、俺に近付いてくる。
リースが足を止める。場所は、俺から1mもない位置だった。

「3時間振りかな。結構頑張ってるね。そんなに頑張るの、キミで2人目だよ。フフフ・・・だったら僕を楽しませるぐらい強くなってよね。真相を話すのは、その後だよ・・・フフフフ・・・アハハハハ!」

リースは、最後にそう笑ってから姿を消した。俺は、リースの威圧に負け、何も言い返す事が出来なかった。
しかし、気になる言葉があった。

『そんなに頑張るの、キミで2人目だよ。』

俺で2人目・・・俺の他にも、魂を集める試練を受けた人がいるということになる。だが、一体、誰だったのだろうか・・・。
って、そんな事考えている場合じゃなかった!
地面に向かって落ちたフランシスのもとに降り立つ。

「フランシス!大丈夫か!?」
「・・・だ・・・大じょ・・・グホァ・・・。」

明らかに大丈夫じゃない。普通に死にそうだ。
フランシスに両手を翳し、念じる。黄金の光がフランシス全体を包む。

「・・・な・・何故・・・ぼ・・くを・・たすけ・・・る・・・?」
「何故かって?目の前で死にそうになってるやつを放っておける訳無いからだ。」

ただ、目の前で誰かが死ぬところを見たくないだけだ。
それが本当の理由なのかもしれない。
しかし、以前も言ったような気がするが、遠距離で(俺の見えない位置)ならば、誰が死のうと構わない。
少し残酷だな、俺。

「もう・・・いい・・・。」
「何がだよ。まだ傷、治ってないだろ?」
「・・・いいん・・だ・・・僕・・は・・・死を・・・かく・・ご・・し・・・たの・・・だから・・・。」

死を覚悟した?何でだ?
まさか、リースの秘密をしゃべれば、殺されるって事なのか?
しかし、殺されるほど重要な秘密なのだろうか。確かに、リースが人間というのはまだ確認してないわけだし、真実かどうかわからない。それが真実だとすれば・・・リースにとって、バレたくない秘密なのかもしれないな。

「だから・・・最期・・に・・・言って・・・おこう・・・彼も・・キミと・・同じ・・・、」

―ズシャァアアアン!!

言い終わる前に、突然赤い極太の雷がフランシスに落ちた。
フランシスは、苦しみの声を上げて、そのまま跡形もなく消滅した。つまり、フランシスは・・・

俺は、落ちる直前に離れてしまい、フランシスの傷を、完全に治してやることが出来なかった。
そして、目の前でフランシスが消滅したことにより、俺の体は動かなくなった。いや、動かそうとはしなかった。
あまりにも突然過ぎて、何も状況が掴めない。周りが見えない。

「ミャー。」

元の姿に戻っている平次郎の声で、ようやく我にかえる。
そして、俺は・・・

「ぅ・・・うわぁあああぁぁああ!!」



―0時30分―

ふと腕時計をみると、あれから15分もたっていた。
まだ、立ち上がれない。
ちょっと残酷な俺でも、あんなの、受け入れる事なんて出来ない。
目から涙が次々と溢れ、地面に滴り落ちる。
だが、分かっていた。いつまで泣いてても、らちがあかない事ぐらい。しかし、涙が止まらない。
小学生時代の俺に泣くなといっておきながら、自分はまだ涙が止まらないでいる。何て情けないんだ。

すると、心配そうに見ていた平次郎が、流れてくる涙をなめてくれた。

「平次郎・・・俺を慰めてくれてるのか?」
「ミャー。」
「・・・ありがとう・・・。そうだよな。いつまでも泣いてちゃいけないよな・・・。俺には時間がないわけだし・・・。」

しかし、まだ動けない。体がいうことをきかない。
目の前で、フランシスがあの赤い極太の雷により、消え失せてしまったのだ。無理もない。
何故、敵であったフランシスの為に、涙を流したのか・・・大概読者はそう思うだろう。
あいつは、気障でなんかムカつくけど、花が好きだし憎めないやつだった。同じ花好き同士、仲良くなれるんじゃないかと思っていた。なのに・・・

だー!また涙が!!
この際、フランシスの事は忘れ・・る事は出来ないから・・・

屋上に飛び、花壇に一礼をする。
フランシスの好きそうな花を一輪優しく抜き取り、芝生に降りる。そして、そこに植え直す。
しかし、何ていい場所なんだ。何故なら、ここの場所は、芝生広場の隣に花壇があるのだ。
この場所なら踏まれることもないし、フランシスも淋しくはないだろう。

0時40分。
そろそろ、次なる目的地に行かなければならない。

「フランシス、俺、もう行くからな。」

そう言いってから、俺は飛び立つ。
白い薔薇に似た花が、風で揺らぐのを確認しながら。


しかし、次は検討がつかない。
この調子で行けば、後は中学校か高校なんだろうけど・・・本当にあっているかどうか判らない。
時間がないんだ。一か八か、行ってみるしかない。

しかし、小学校から中学校までは、距離がある。変身した平次郎に乗ったとしても、10分や20分でつける距離ではない。
こういうときに、青い猫型ロボットの道具があったら、どんなに楽だろうか・・・。ま、実在しないから、そんな事は無理なんだけどな。

そういえば、さっき取り込んだ魂のカケラは、俺にどんな能力を授けただろうか?まさか、何もないとかそんなオチはないだろうな?
とにかく、発動させたいわけだが、どうやるのかさっぱりだ。まぁ、今まで勝手に発動してくれたわけだし、仕方ないのだが。
とにかく、精神を集中してみる。

・・・・・・。

無理だ。何も発動してくれやしない。
やはり、何もないのだろうか・・・。

「はぁ・・・気分的に、ワープを期待していたんだけどなぁ・・・。」

思わず言葉がこぼれる。
さっきは、青い猫型ロボットがどうのこうのいってたわけだし、ワープとかも考えるのは当然だろ。

と、思考を巡らしていると、突然体が光出す。そして、眩しいほどに光り、その光りが消えた途端、俺は、中学の裏門にいた。
・・・結局、ワープだったって事か・・・。武器だったら、次戦うとき少しは楽になると思ったんだが、仕方ない・・・。

とにかく、タイムロスなしで中学校に着いたわけだ。これは好都合だ。
しかし、夜な訳だし、当然ながら扉は閉まっている。ま、こんなものは飛び越えればいいわけだ。

20~30cmは軽くあるだろう段差(?)に足をかけ、約130cmの門を飛び越え、中に入る。平次郎は下からくぐって入ってきた。
見える景色(というか範囲?)は、右手方向に体育器具庫がある。ま、あるのは当然だろ。
その奥には、テニスコートがある。体育の授業で、ドッジボールをやったとき、「避けの達人」と称号付けられたのを覚えている。それだけ、俺は俊敏だったって事だよな。

左手方向には、陸上で使う砂場と、高い鉄棒。
そして、裏門に最も近い、50mプール。泳いで1往復すれば、すぐに100mを泳いだことになる。意外と楽である。小学生の頃は2往復だったからな。
そういえば、プールのすぐ横は竹やぶだったから、いろんな虫がきたっけ。・・・といっても記憶にあるのは、スズメバチなんだが・・・。男子の馬鹿どもが、スズメバチにプールの水をかけまくってたな。あれで、誰も刺されなかったのが、今でも不思議で仕方ないと思う。

50mぐらい歩いて、運動場を眺める。
どうも小学生の頃より狭く感じる。1週200mというのは全く変わらないのだが、どうしても狭く感じてしまう。
そうか、中学校になると、子供と大人の中間より下の位置になるわけだから、遊具などという子供じみた物がないから、こんなにも狭く感じてしまうのか。
しかしそのかわり、体育館が広い。いや、広く感じるだけなのかもしれない。
ホントは小学校の体育館とあまり面積は変わらず、中学生になって初めて体育館を訪れたときに、目の錯覚か何かで広く感じてしまったに違いない。

そんな事を考えながらも、体育館のほうに足を運ぶ。
体育館は、校舎の裏にあり、その左隣には柔道部と卓球部が使う小屋のような物があり、さらにその先は技術室がある。
体育館の前には、3つの水道が設置されている。当たり前だがな。

中に入る時は、体育館シューズに履き変えなければいけなかった。それが嫌で、何度素足でこようとしたか・・・。しかし、中1の頃は真面目にやってたからそんな事はなかったのだが、中2になってから、そうしようとしたけど、先生が厳しい人だったから、絶対に素足で来る事はなかった。
中3も中2と同じ先生だったなぁ~・・・。厳しかったけど、優しくて、俺の大好きな先生だった。その先生のおかげで、いろんな出来事に何度救われた事だろうか。

いい思い出の記憶もあれば、思い出したくもない、忌まわしい記憶だってある。

中1の時は酷かった。
入学式が終わって、次の日から既に俺へのいじめが始まっていた。俺が何したっていうんだ。
奴らを殴りたかった。だけど、ダメだった。暴力なんかで解決するものか。奴らが何を言おうが、俺から手を出したら終わりだ。そういう思考ばかりしていて、結局は1人。
だけど、俺だって男だ。手を出さずにはいられない。

俺がはじめて相手に手を出したときは、正直言って、ほとんど覚えていない。
気付けば、片手に椅子を持ってて、目の前に倒れているやつは、頭から血を流していた。
人から聞いた話では、俺は極度に怯えていて、突然走り出したらしい。それで、ふと校内を散歩していた校長にぶつかったにも関わらず、そのまま逃げようとしたそうだ。まぁ、その校長に捕まったみたいだが。
それで、捕まった後、校長の胸の中で「ごめんなさい」と繰り返し言いながら、泣いていたそうだ。

それからというもの、俺は保健室登校ということになったんだ。もちろん、授業に遅れないため、勉強はした。
だけど、そこからの記憶が、全くと言っていいほど覚えていない。勉強していたのはわかるんだけど、他に何をしていたのかさっぱり・・・。記憶を呼び起こそうにも、浮かび上がってくるのは、中2に上がったときからのみ。
たぶん、あの時の光景がそうとうショックだったのかもしれないんじゃないかと、俺は思う。

・・・おっと、こんな事を語るためにここに来たんじゃなかった。
体育館を後にして、先に進む・・・が、

「いたわよいたわよ!魂のカケラ見付けたのよ~!」

どこかで聞いた事があるような言い方が、上の方から聞こえてきた。しかも、また子供のような声。リースより年下といったところだろうか。
聞こえたほうに顔を向けると、体育館の屋根に、小さな少女が座っていた。やはり子供だった。おそらく彼女も、死神なんだろう。武器を持っている形跡は見られないが、黒いフード付きマントを付けているのは確かだ。
フードをかぶったら、リースと間違えそうだ。いや、あいつは多大なる殺気が漂っているわけだし、間違えることはないか。

「やるわよやるわよ!あんたなんか、そっこー地獄に落としてやるのよ~!」

そういって、屋根から飛び降りてきた・・・が、

「あぅっ!」

着地失敗。
スタッと降りたつもりが、そのまま前に転んでしまったのだ。やっぱり子供だな。
転んだ少女に手を差し延べると、その手を弾かれてしまった。

「あんたの助けなんかいらないのよ~!」

あぁ、そうですか。
ゆっくりと立ち上がり、俺を睨む。全然怖くない。むしろ可愛いぐらいだ。
しかし、ここは待ってくれ。まさか、こんな弱そうな少女と戦うというのか?話が違いすぎる。
こういう場合、段々戦う相手が強くなってくるんじゃないか?例えばポ○モ○みたいに。
そもそも、こんな小さな子供相手に手をあげるなんて、出来るわけがない。

「その様子だと、まだ4つ目のカケラは見付けてないわけね?」
「そ、そうだけど?」
「じゃ、どちらが先に見付けられるか勝負なのよ~!」

あ、戦うんじゃないんだ。安心安心。

「とりあえず名乗らせてもらうのよ!アタシはリリィ!こう見えて、天才少女と言われてるのよ?」

自慢か!
しかし、「そっこー地獄に落とす」とか言っていたが、戦って戦闘不能にするしか出来ないんじゃないのか?ま、このリリィと名乗った少女と戦う気は、これっぽっちもないがな。

「で、キミは、俺の魂のカケラがどこにあるのか判ってるのか?」
「当たり前なのよ!」
「ずるいな。勝負になんねぇじゃんか。」
「あんたを地獄に落とすのは、リースちゃんの命令なのよ!だから、絶対に遂行させるのよ!」

おいおい、言ってる事全然違うじゃないか。
リースは確か「楽しませるぐらいになるまで強くなれ」的な事を言ったはずだぞ?情報がいってないのか?
・・・いや、リースの事だ。自分が楽しむから、仲間には何も知らせてないんだ。そうだ、そうに違いない。
とにかく、リリィの言ったことに対して、空返事をしておいた。
しかし・・・

「やっぱり最初からわかってるとか、ずるくいか?ここは正々堂々と勝負するのが礼儀ってもんだろ?」
「何言ってるのよ。これはハンデなのよ?」

どこがだ。

「アタシはこのセンサーで見つける。あんたは自力。平等なハンデでしょ?」

だからどこがだ。

「それじゃ、魂のカケラ探し、始めるのよ~!」
「待て。」

飛び去ろうとする、リリィの肩を押さえる。そしてまた転ぶ。
「何すんのよ!」と、リリィはこちらを睨み付けるが、ツンデレ娘が見せるような表情になっていた。ツンデレに興味はないが、これは可愛い表情だと俺は思う。

ふと、横に目をやると、センサーが落ちていた。しかも壊れてる。再起不能かもしれないぐらい壊れている。
詳しくいえば、画面パネルは正直いってヒビだらけ。小さなネジや、細かい部品が飛び散っている。ただ転んだだけなのに、ここまで壊れるとは、余程の精密機器だった事がうかがえる。

「あぁ!!アタシのセンサーがぁ!!どうしてくれるのよ!?」
「どうしようもこうしようも、まさかそんな風になるとは思わなかったしなぁ・・・。」

とか頭をかきながら言っておいて、実は内心安心している。これで、ハンデなしに勝負が出来るからだ。

「ふんだ!センサーがなくても、あたしの勘は鋭いのよ~!見ときなさいよ~!!」

リリィはそういってすぐに目の前から姿を消した。
「感が鋭い」か。周りから言われるからじゃなく、きっと自称だろうな。自称の時って、案外そうじゃない事が多いんだよなぁ。

とにかく、こっちも探さないといけないわけだが、見当がつかない。こうして、裏庭方面を歩いたとしても、姿や気配がまるでない。
もう、これは校舎の中にいるとしか考えられない。しかし、今まで外にいたり、屋上の出入口が閉まってなかったりしてたわけだが、今回は違う。完璧にすべての鍵は閉まっている。中に入る術はない。

「はぁ・・・どうしたらい・・うわぁ!」

「どうしたらいいんだ」という前に、校舎側のほうから誰かに引っ張られた。
気付けば、俺は校舎の中にいた。

「おいおい、『何で校舎の中に!?』みたいな顔してんだよ。」

聞いたことのある声。横をみると、白い長髪のヴァリスがいた。
いつの間にかいる平次郎は、威嚇体制だ。

「ちょ、お前!何で!?」
「声がでけぇよ、馬鹿!!」

俺の声の大きさを遮ろうとした、お前のほうも声が大きいと思うが。
とにかく、ヴァリスにもう一度、何故ここにいるのかと尋ねた。

「そんなの、借りを返しにきたんだよ。」
「借り?まさか!」
「違ぇ~よ、ばーか!」

声がでかい。
とにかく、ヴァリスが何の借りを返しにきたというと、どうやら俺がヴァリスの体を治してやったから、それのお返しをしたいだとか・・・。別にそんな事してくれなくてもいいのに。

「でも、そんな事していいのか?リースに殺されるんじゃねぇの?」
「安心しな。あんな威圧やら殺気やら持っててさらに、死神の中で一番強いといっても、所詮はガキだからさ。校舎に入っちまえば、気配なんざわかんねぇよ。」
「ホントかよ・・・。」
「死神の俺が言ってるんだ。間違いはない。」

お前が死神だから信じられないんだが。
だが、ヴァリスがどうされようが俺には関係ない事だ。この件に関しては、無視の方向にしておこう。

はてさて、ヴァリスは借りを返しにきたって言ったわけだが、一体何をしてくれるのであろうか。
ヴァリスの話に寄れば、リリィはマジで勘がいいらしい。しかし、その勘を特定するのに、時間がかかる。そこの隙を縫って先に見付ければ、こちら側が勝ちとなる。
だが、場所がわからなければどうにもならな・・・そうか、その場所をヴァリスが教えてくれるのか。これは頼もしい。

「とりあえず、お前がよく行った場所を言ってくれ。」
「保健室。」
「いやいやいやいや、お前ふざけるな。真面目に答えろよ。」
「俺はいつだって真面目だ。」

いや、ただ一度だけ言ってみたかっただけだ。
まぁ、よく行っていた場所は、保健室で間違いはないんだが、他にどこに行っていたのだろうか。中1の時の記憶がまるでないし、かといって、中2の時の記憶からならあるとしても、記憶が所々欠けてたりして正直覚えてないというか・・・。

そういえば、俺、部活は何入ってたっけ・・・。
そんな風に思っていると、自然と体は動いてきた。ヴァリスがいることも忘れて、階段をのぼりだす。「おい、待てよ!」とヴァリスの声がしたような気がするが、気のせいだろうと思うぐらいに無視を突き通す。
そして、着いたところは美術室。もちろん、鍵は閉まっている。とにかく、ここに着いたということは、俺が美術部に入っていたって事だ。
だが、着いたといっても、ここにいるとは確証できない。

「美術室・・・正解だ。」

後から来たヴァリスが、突然そう言い出した。
何だ、「正解」って。

どういう事なのかと聞くと、魂のカケラはこの中にいるんだとか。
しかし、信じられない。ヴァリスが、例え借りを返すために、俺に手助けするとしても、相手は死神。何をするか、判ったもんじゃない。
もしかして、罠だったりして。

「おい、何だよその顔は。」
「べーつーにー。」

信じたくはないが、一応信じておこう。

そういえば、どうやって中に入ったっけ、俺。確か、ヴァリスに引っ張られて・・・

「うわぁ!!」
「うわぁあ!!何だよ!!?」
「壁擦り抜けた!!!」
「今頃かよ!!」

よくよく考えたら、いや、考えなくても、この会話は非常にうるさい。しかも、誰もいないから、声が響いてさらにうるさい。
まぁ、霊感が強くなければ、この会話は絶対に聞かれないだろう。だが、リリィに気付かれたのかも知れないと感じ取った俺達は、ハッとなり二人揃って人差し指を立て、それを唇に近づけ「シー」のポーズをとった。平次郎までもが、そのポーズのような事をする。
やっぱり天才猫は、一般の猫より一味も二味も違う。ま、今は能力を持った猫だが。

「とにかく、中に入るぞ。」

鍵の閉まっている、美術室の扉に向かって歩いていく。体は扉を擦り抜け、簡単に美術室の中にはいることができた。勿論だが、夜なので中は真っ暗だ。しかし、ここで電気なんてつけたら、怪奇現象この上ない。この中学校に七不思議なるものが出来るだろう。
とにかく、辺りを見回すが、魂のカケラらしき姿はどこにも見当たらない。やはり、罠だったのだろうか?
いや、さすがにそれはないだろう。ここまできておいて、罠でしたーだなんてたまったもんじゃない。

美術室の中は、通常の教室にある机より面積が広い。どのくらいといえば、大きめのスケッチブックが置けるぐらい。左右の壁側に水道が設置してあり、壁には美術の授業で製作したであろう作品が飾られている。
残念ながら、俺の作品は飾られていない。別にどうでもいいが。

ま、それはいいとして・・・

「いないじゃないかよ。」
「あ、あれ?」

「あれ?」じゃねぇよ。
ここに来て、いるとか言っておきながらいないとなると、あとは自分の記憶に頼るしかないのだが、やはり、何も思い出せない。
しかし、時間がない。時計をみると1時5分。何と言うタイムロス。
とにかく、無理にでも記憶を引っ張り出さなくては・・・!

とりあえず、俺は美術部に入っていたわけだが、何をしていたのだろうか。確か、毎年夏になると、写生大会なるものに出てたっけ。3年間賞をとったのは言うまでもないが。

う~ん、違う。この記憶じゃない・・・。
じゃぁ・・・

そういいながら、左の方へ歩いていく。そして左にみえる扉に向き、中に入っていく。
そこは、美術準備室。足の踏み場はあるものの、その幅は結構狭い。何故なら、準備室というものなので、部屋は通常の教室の三分の一か、四分の一ぐらいしかない。そんな部屋に、所狭しと道具やらが置かれているんだ。足場が狭くなるのも、無理はない。

その奥の方――つまり、廊下側にある小さな椅子に、中学時代の俺がいた。こちらの方を向き、いかにも「待ちくたびれた」というような顔をしていた。
そんな俺に、「待たせたな」というような顔で返事をする。
中学時代の俺の横にはキャンバスがあり、一枚の絵が飾られていた。ほぼ中心に描かれた、一輪の花――薄ピンク色のスイートピー。その絵は、どことなく淋しい雰囲気を漂わせていた。

「覚えてないか?俺は、このスイートピーを描いて、とあるコンクールで最優秀賞をとったんだ。」

目の前にいる俺はそう呟く。そのおかげで思い出せた。
このスイートピーを描いて、どこかのコンクールに出したらたまたまとってしまったんだ。とるつもりはなかったが。
しかし、この絵を描いたということは、何かきっかけがあって、忘れていたはずの彼女の事を思い出したのかも知れない。
確か、職員玄関にあったんだっけ?

そんな思考を読み取ったのか、中学時代の俺はため息をついた。
なんだ。違うのか。

「あのなぁ・・・ホントに覚えてな・・・」
「あー!!」

聞き覚えのある声が妨害してきた。振り向く一同。
そこには、リリィの姿が。
どうやら、俺達が先に見付けたから怒っているようだ。何だかまずい展開になりそうだ。
しかし、今頃思ったのだが、何となくヴァリスに似ている。まぁ、そんなのはどうでもいいか。

「てめぇは、そいつ連れて逃げろ。リリィの事はオレに任せな。そして、次の目的地に行くんだぞ。」

ヴァリスは突然そう言い出した。同時に、本当に借り(恩返しのような気もするが)を返してくれるんだなと思った。

「ヴァリス、ありがとな。恩返しみたいでよかったぜ。」
「そんなのいいから、さっさと逃げやがれ。」

最後に「死ぬなよ」と声をかけ、廊下側の壁にある扉を、中学時代の俺と擦り抜け、その場をヴァリスに任せ逃げた。もちろん、平次郎も一緒だ。
そして校庭に飛び出し、変身をした平次郎に飛び乗り、そのまま次の目的地――高校へと向かった。



「どういうつもりなのよ。そこをどきなさいよ!まさかあいつに味方するの?」
「味方?オレはあいつに借りを返しただけだ。」
「嘘よ!お兄ちゃんは裏切るつもりなのよ!」
「そうだとしたら?」
「リースちゃんに言い付けるのよ~!!」
「言い付けてみな。リースにこのオレを殺すことは、絶対に無理だからな。」


そう、リースを助けたのも、死神にしてやったのも、このオレなんだからな。


―現在時刻 1時20分 タイムリミットまで 後2時間40分―


続・・・


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