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NOVELS ROOM

第3話

第3話 

こんな妖しい貸し倉庫なのに。周囲知らない人達なのに…もっとも連れ込んだのは自分だし、ここは自分たちの臨時のアジトなので…ボクがあれこれ言う筋合いではないのだが…

「いやぁ…驚きましたよ。まさかアレックスさんが、女の子をナンパしてくるなんて、予想外ですよ」

 スミスが茶化す。それは違うぞ! 近寄ってきたのはあの女…ティオの方だし、勝手についてきたのだ…と、自分の失態で連れて来る羽目になったのだから、反論などできる訳が無い。
黙って俯く。

「そうかお嬢さん。私はガル、ガル爺で通っているよ。あちらの黒人はスミス。キミを連れて来た坊やはアレックスだ。よろしく」

 ティオをソファーに座らせ、ガルは簡単に挨拶を済ませる。皆本名かどうかも分からない名前を使っているため、変に偽名を名乗ると反応できない。そのためコードネームをうち明けた。

「よろしくねティオさん。スミスです、女の子は大歓迎だよ」

 スミスのテンションが妙に高い。今はそんな挨拶をしている場合じゃ無いだろう、などと言える立場じゃ無いので、黙っている。

「よろしくです。で、ここは何をやっている会社なんですか?」

 ズバリ確信を聞いてくる。しつこく付きまとわれて、逃げるに逃げれず、しかも間の悪い事にアジト近く。警察に通報されれば厄介極まりない。結局仲間に助けを求めたボクは負け犬だ。

「うむ…うちの若い者の態度が悪くて失礼したね。何せまだ半人前で、未熟者だから、許してやって欲しい」
「うぐぅ…」 呻くが、反論できない。

何て様だ。たかが少女一人にからまれて、仲間に助けを求めるなんて…
 そんなボクの憂鬱など興味ないように、ガルはティオの問いかけに答える。

「ああ、私らは運送会社なんだよ。個人通販のね。ここには配達待ちの荷物などが置かれてるんだ、個人の所有物だからみだりに触らない様にね」

 ガルナイスだ! ガルが指す、木箱やダンボールの中には、実は危険物や違法物などが大量に入っている。それらを触らせないように、且つ職業の説明に結び付けるとは、初めて尊敬してみてもいい。

「アレックスには新規契約探しの外回りを頼んでいたんだが、サボって公園で休んでいたのを気まずく思ったんだろう。下っ端なんてカッコいい役柄じゃ無いからな」
「ぬぅ…」

 ボクを下っ端扱い…いつか後悔させてやる。

「大丈夫だよ、私は縁の下の力持ちって好きだよ」

 ティオが優しそうに…微笑むなぁ! 誰の所為で縁の下になったと思ってるんだ…ちなみにただの逆恨みなのは分かっているから、口には出さない。

「そう言う訳で、君が望むような会社では無くて、済まないね…まぁ折角だからお茶でも飲んで休んでいきなさい。配達に出るのは正午からだから」

 そう言って、ガルは席を立った。正にこれから書類でも整理するかといった様子で…演技派だ。

「アレックス。彼女にお茶」
 ガルがボクに名指しで頼む。
「何故ボクが…」
「下っ端。お茶」
「ボクは…」
「お荷物」
「…麦茶でいいか?」

 …くそ…何時かきっと。

「へぇ…じゃあ周辺の国を転々と?」
「そうなんですよ。私達、会社を持たない業者でして。大元から来る仕事を、各町でまとめて請けて、拠点でしばらく活動した後、次の場所へって感じで移動してます。実はこの町に来たのも先週でして、会社の名前を知らないのも無理は無いですよ」

 確かに、任務によって活動拠点を変えるし、大元から依頼も来る。任務が全て終了するまで、この拠点に居るのも事実だが、スミスは言葉こそ置き換えているが、ベラベラとティオに、組織の構成などを話していた。ボクは心配になって、奥で本当に書類整理しているガルに尋ねた。

「ガル…スミスの奴。言わなくてもいい事をベラベラと…」
「嘘をつくなら、七割ほど真実を混ぜるのがいいのさ。任せて置け、あいつ、口は軽いが頭は悪くない…漏れて困るような事は言わないさ…」

 そういうもんだろうか…ボクは、話すのには慣れていないし、変にボロを出さないとも限らないので、会話の枠から離れる。

「フッ…若いな」

 ガルはボクの態度を見て、微笑む。うるせぇな…放っておいてくれ。

「さてと、お嬢さん。うちの仕事は理解できたかい? そろそろ仕事に入るから、家の近くまで送っていくよ」

 ガルは車の鍵を手に、ティオに近づいた。ここで、大人しく帰せば、ボク達の秘密は守られたまま、ティオも無事元の日常に帰れるだろう。

「はい…あ、ありがとうございます」
「時に…キミは私たちが探偵や便利屋だった場合、どんな依頼をしようとしたんだい?」

 出かける荷物を整えて、ガルが何気なく聞く。ティオは、少し表情を険しくして…

「あのぉ…さっき話した通り、両親が事故で、今は一人暮らしなんですけど…最近回りに妖しい人影を見る様になったんです…それで、怖くなって、頼りになれそうな人を…」

 ガルは窓に軽く目をやって、ボクに仕事用の一式の入った荷物を投げ渡す。

「だとは思ったよ。アレックス、汚名返上してこい。お嬢様は俺達で守ってやる」

 窓の外…妖しく動く人影達にはボクも気付いていた。既に手には、特注ナイフを装備済みだ。

「尾行された事も、帳消しにしてくれるんだよな?」
「生きて帰ってきたら、お嬢さんの問題に、俺たちを巻き込んだ事も無しにしてやる」
 その言葉を聞いて、ボクは、敵が動き出す前に、窓から外に飛び出して言った・
「ガル…感謝するぜ」

 腕を一閃。安い貸し倉庫の窓は、枠ごと砕け、襲撃準備をしていた襲撃者の出鼻を挫いた。さて、ガル爺がティオを連れて逃げ切るまで、盛大に暴れてやるか。

「そして、今日もボクに贄を与えたもう天にも感謝だ…」

 ボクに睨まれた生贄たちは、まだ、自分の状況を理解していないようだ。ボクに武器を構えようなんて、自分たちの立場を理解していない…さぁ…正しい導きをしてやろう。

 砕ける武器、バランスを崩した人間、飛び散る血液、踏み込んだ地面。全てを視界に納めて、ボクは行動を終了する。戦いは、一瞬ですらなかった。実力差のありすぎる勝負。もはや戦闘とすら称せない、ただの強者の蹂躙。両腕のナイフを一振りし、血を拭う動作の後に、遅まきに倒れる襲撃者…弱すぎて話にならない。ボクの渇望はこの程度で満たされはしない…

「ああ…主よ…ボクは、まだ不足しております」

 言葉を終えると共に、速やかに建物の影に緊急回避する。ボクの元居た足場に、衝撃と共に爆発。

「まだ居たのか…なら……ボクを満たしてくれ…」

 ボクに炸薬弾を打ち込んだのは、巨漢の男。ガルよりも体は大きく、無駄な筋肉。モヒカンみたいな頭頂部の髪を、前髪のように顔の前にたらした奇抜な奴。カノン砲から、全身に銃器弾薬を抱えて、大声を張り上げる。

「女を連れ込んだのは分かってるぞぉ! 大人しく差し出せば粉微塵は勘弁してやる! 抵抗、無視はバットエンドだ!!」

 うるさい奴だ…武器の調子確認。体調確認。状況確認。敵目視確認。敵戦力把握。現状戦闘力把握。よし、行ける。
 素早く、物陰から飛び出る。敵が銃器を構える前に、ボクは弧を描いて加速する。背後で爆発音。爆風を利用してさらに加速。地面を蹴る足に力を入れて加速。前傾姿勢になってさらに加速、とにかく加速。加速。加速。
 勢いに乗って、走り抜ける角度を鋭角に。加速に乗って強襲する。

「うぐおぉおおお!」

 斬られてもうるさい奴だ。斬り付けた胸元を見て…浅い…思う以上に効果が無い。

「ぐ…ふうぅぅう…大したこたぁねぇなぁ!」

 フンッ…大口を叩いていられるのも今の内だ。今度はもっと鋭く加速する。暫撃が軽いなら、もっと勢いをつける。もっと高速に…

「…ボクの天に召せ…」

 一太刀。斬り付けと同時に地面を蹴り、切り上げる。横に一閃。飛び越え着地と同時に切り下ろす。地面に足が付いたら、それを軸足に落下速度のまま回転斬り。突き刺しとともに距離をとる。さぁ、死のフルコース。お味は如何かな?

「がはははは!」
「効いて無いだと!?」

 信じられない事に、大男は、明らかに全身暫撃痕だらけで、高らかな笑い声を上げた。

「ふはは…この不死身のヴェンシー・バラッド・ザ・シュタイナー様には、そんなチンケな攻撃など、効かんのさ」

 チンケだと…面白い。その挑発乗ってやる。ボクは足を止め、大男…バラッドに向き直った。

「そうだな…少し全力で相手をしてやろう…来いよ」
「ふはははは…そのちいせぇ体をふっ飛ばしてやるよ!」

 大型のカノン砲をこちらに照準合わせて、重低音と共に弾が装填される。
今だ バラッドがトリガーを引くと共にボクも走り出し、加速を開始する。カノン砲が発射した大型の弾丸を、ボクのナイフがなぞり、交差と共に解体。勢いのまま、カノン砲にナイフをなぞらせ、砲身から、本体までを解体。ついでにバラッドの指を解体。腕から肩にかけて解体。そして通り抜ける。

「ぐぅおおお!」

 末端から、順に解体していけば、どんな頑丈なモノもバラバラだ。

「攻撃は最大の防御って言うがな、武器は最大の弱点って言ってな。大概の自慢の武器は、
弱点を補うために備えるのさ。武器を壊せば自ずと弱点を狙えるのが生物界の掟だ」

 どんなに、頑丈だろうが鈍かろうが、武器を扱う以上、指先は他よりも繊細で敏感なのだろう。

「はぁああああ。それほど痛くはねぇよ。ただ腕が吹っ飛んで驚いただけだ…」

 驚くべき事に、その表情に苦痛や恐怖は浮かんでいない。

「…そうか…感覚削除。痛覚を遮断しているのか…」

 痛みを感じなければ、人は人間以上の力を発揮できる。自分自身の体を省みないなら、驚異的な行動を取る事ができる。死ぬまで戦える相手、長期戦はこっちが不利になる。

「それだけって訳じゃねぇが…そんな所だ。腕が折れようが、腹に穴が開こうが、動く限り戦える。それが不死身のザ・シュタイナーよ」

 物語に出てくる不死身の人造怪物。下らない。ならば、倒れるまで切り刻むだけ。神話の怪物も最後には死んだ。

「恨むなら、痛みで気を失えない自分をな…」

 再び疾走する。生き物を殺すのに効果的な方法は急所を狙うことだ。頭は、頭骸骨で守られている。あの頑丈さ、合金版が埋め込んであっても不思議は無い。
首は…太くて頑丈、ナイフを筋肉で弾く勢い。心臓、厚い胸板で、ナイフが奥まで届くか不安。ならば…

「こんな手は、本来不本意なんだが…いいだろうデカブツ。お前を不死身と認めてやるよ、俺がやるには力不足のようだ」

 バラッドはボクの台詞に気分良くし、ボクを振り仰ぐ。その瞬間を逃さず、ボクは疾駆した。

「やっと諦めたか!」
「いや…やるべき事を思い出しただけさ」

 素早さを生かして、バラッドの正面に飛びつく、バラッドの顔面にナイフを爪のように広げて一閃。

「おおおおおお!!」

 バラッドの両目を潰す。これで、戦力は減少…しかし、永遠と付き合うつもりも毛頭無い。

「先に失礼するよ…ボクには先客があってね」
「逃がすかぁあああああ!!」

 なりふり構わず、銃弾、砲弾を打ち続けるバラッドを放置して、ボクは茂みに身を隠した。勝てないならば、無理に戦う必要は無い。渇望は満たされないが、仕事で無い以上、それほど贄に執着もしていられないのであった・・・


第4話へ続く


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