産地直送【産地直送】岐阜や長野に行くと通りすがりに【産地直送】という野菜や果物の直販店がある。 いかにも安くて新鮮な感じがするのでお土産に買おうという気が起こるのは当然だ。 俺がよく行く中央アルプスの道中にもその直販店が数軒あるのだが 最近はその誘導看板がかなり購買意欲をかき立たせるように書かれている。 今回はその直販店にお叱りを受けるのを覚悟でそのカラクリを暴露しようと思う。 ある時「ああ、桃!」と書かれた看板に吸い寄せられるように一軒の店に寄った。 店といってもテント内に長テーブルが置かれて桃が山積みされているだけの店だ。 その「ああ、桃!」に着くまでにも「ああ、桃!あと500m」「ああ、桃!あと200m」 「ああ、桃!あと50m左側」「ああ、桃!車はここへ!」と執拗な看板があり、 誰もがまるでアリ地獄に落ちるように一度は寄ってしまうだろう。 俺が店の前で車を停めると本を読んでいたおっさんが「いらっしゃい」と声を掛けて来た。 何とおっさんが読んでいたのはドストエフスキーの「罪と罰」である。 こんな片田舎のテントの店の中で「罪と罰」、かっこ良過ぎるじゃないか! 俺は一番安い箱入り桃セットを注文した。するとおっさんは 「兄ちゃん、こいつは客引きのために安くしてんねんけどうまくないで。 こっちの高い桃と食べ比べてみ」と安い桃と高い桃を両方切って試食させてくれた。 牛肉と豚肉の味の違いがイマイチよくわかんねえ俺ですらその違いはわかった。 安い桃はパサパサだが高い桃はジューシーで甘いのだ。もちろん俺は高い桃セットを買った。 買った後に世間話をしていたらおっさんはこの業界のウラ話をしてくれた。 「兄ちゃん、気ィつけた方がええで。この辺は秋になるとマッタケの店が出るけどな、 アレは韓国産や。韓国産のマッタケに香料を注射してあるんや。 こうやって山の近くで売ってるといかにもこの辺の山で採れたように思うやろ? せやけど産地直送って書いてあっても、ここ岐阜県で採れました、って書いてないやろ。 それが言葉のアヤっちゅうねん。勉強になったろ、ほな、おおきに」 おっさんは季節に応じてミカン、スイカ、桃などを売って全国を行商しているそうだ。 自由気ままな商売だけど大変なことも多いんだろうな、とおっさんの店を後にした。 家に帰ってお土産の桃をヨメに見せながら説明をすると 「この質でその値段?高過ぎ!ユーストアの方がもっと安くてモノがいいよ!」とドヤされた。 俺はまんまとおっさんの販売テクニックにひっかかったわけである。(涙) それからというもの、俺は2度と「自称」直販店で果物を買わない。 余談だが現在「ああ、桃!」の看板は更にグレードアップし、ハングル語も併記されている。 上高地観光に来た韓国人団体をも「産地直送」のネタで呑み込んでいるのである。ああ、罪と罰。 |