山の迷宮【山の迷宮】GW中に岐阜と長野の県境にあるそこそこハードな山に登って来た。 寝袋とロウソクを持って単独行の避難小屋泊である。 いくつもの滝が流れ落ちる渓谷の間を歩き、岩をよじ登り残雪の上を歩いた。 深い雪が残る樹林帯はまさに迷路のようでルートを見つけるのに苦労した。 山歩きをしたことのある人はご存知だと思うが、積雪期の登山道の目印は 赤やピンクのリボンが木の枝に縛られているのが常である。 そのリボンを辿りながら山頂を目指すのだが、この時期は少々厄介だ。 誤ってスノーブリッジの上を歩こうものならズボリと雪にはまってしまう。 それに加えて先行者の雪上のかすかな足跡を当てにして足元を見て歩くので、 頭上の枝に付けられたリボンを見逃してしまうことが多いのだ。そして迷う。 今回もその樹林帯の迷路の中で撤退していく登山者が多かったようだ。 登山をやっている人達から見れば俺は酷い装備だ。 緊急時に使える携帯電話を持ってないし時計もコンパスも地図もない。 遭難でもしたらそれこそ「何という無防備!山を甘く見るな」と叱られる。 持っているのは2日分の食糧、寝袋、ロウソク、雨具、そして動物的勘だけだ。 気象の変化や森の中の方位はこの動物的勘が物を言う場合が多い。 それにしても今回の樹林帯の迷宮ぶりはすごかった。そして楽しかった。 「ん?この道筋は違う」と自分の勘が感じたら元の場所まで戻ってみる。 そして樹林帯の中のリボンを探し出すのだ。これはかなり示唆深かったぞ。 たとえば日常で困難な場面に出くわした時、一歩戻って状況を解析する。 或いは腹が立った時にカッとせずに一旦気を静めるために立ち止まってみる。 今回の樹林帯の難解な迷路はそういう精神面の訓練をさせてくれた気がする。 さて、独りぼっちの避難小屋では陽が沈んだらやることはない。 今回のっぴきならない理由でシェイクスピアの「ハムレット」を持って行ったが 明るさの理由で半分ぐらいまでしか読むことができなかった。 しかも夕方に本を広げたまま昼寝をしてしまい(これも考えてみれば贅沢な時間だ) 夜8時に寝袋に入ってもなかなか寝付けず、ハッと起きたらまだ夜10時。 なんだ、2時間しか寝てないじゃん、と仕方なく真夜中の散歩に出て 満月の明かりの山中をまるで獣か死霊のように彷徨い歩いたのであった。 翌朝の朝焼けは見事な色彩で、宇宙の奇跡を堪能して下山した。 山好きな中高年オヤジや40年前は山ガールだったが現在はヤマンバ同然という人達、 これからの山シーズンをぜひ楽しんでいただきたい。 山で遭難したら捜索費用がスゲエかかるぜ。 登山は金のかからん趣味だが、最期に金がかかっちゃ残された家族は迷惑だからな。 |