1983年(明治26年)『初詣』の登場 鉄道とともに普及した『行事』」30日朝日新聞・「あのとき・それから」欄
私:まだ「初詣」の話題は早すぎるようだが、「初詣」の伝統についてこの記事はふれているね。 A氏:2009年まで公表していた全国の「初詣」の人出によると、正月三が日の全国の神社仏閣の参詣者は9939万人と、のべ人数ではあるが、国民の4分の3以上にあたるんだね。 私:これほどまでに定着した「初詣」だが、ふだん神社にお参りすることがなくても、この日だけは例外で、古来の習慣を守る数少ない伝統行事であると考える人も多いだろう。 俺も、ふだんは神社にお参りすることはないが、正月には、近所の小高い丘の上にある小さな神社に「初詣」をすることがある。 ふだんは無人に近いひっそりしたその神社は、正月三が日は、屋台が出たりして賑やかだね。 A氏:ところが、この新聞記事によると、「元旦に思い思いの寺社にお参りする」という意味での「初詣」は、江戸時代以前には存在しなかったのだという。 私:古くから行われていたのは、大みそかから一家の家長が氏神をまつる神社にこもって新しい年の神様をお迎えする「年ごもり」という習慣だ。 「初詣」はまず、鉄道の発展とともに郊外への散策を兼ねたレジャーとして普及し、都心で例外になったのは1920年に創建された明治神宮。 気軽な娯楽を求めた庶民のニーズに加え、ナショナリズムの高揚とも結びついた「初詣」は「単なる娯楽ではない正しさ」をも獲得し、さらに広く深く普及したという。 A氏:その意味では、「初詣」は明治以降に「創られた伝統」ではあるが、すでに百年以上の歴史があり、現代人にとっては、もう十分に「伝統行事」であるのだろう。 私:この「創られた伝統」という言葉は、イギリスの歴史家E.ホブズボウムらの1983年刊の編著書などで知られるようになった考え方で、長く受け継がれてきたと考えられてきた伝統の多くが、実際には近代に「国民文化」を創出するために発明されたものだと明らかにし、ヨーロッパでは19世紀末から20世紀初めにかけて伝統が「大量生産された」と説いたという。 日本では、大正から昭和の初めに多く誕生したという。 A氏:「初詣」だけでなく神前結婚式も明治に生み出された新しい習慣で、古来のやり方そのものに戻すことが不可能になったからこそ新しい時代に必要とされる形式が生まれたという。 私:作家の原田実氏は、「創られた伝統」には悪質なものもあり、文科省作成の道徳教材にも登場した「江戸しぐさ」は江戸の町人のしぐさから公共マナーを見習おうというものだが、実際の史料からわかる江戸文化とは相いれない内容で、現代人の考えた理想を江戸に投影し創作したものと考えるべきだという。 原田氏は、「いいことだからかまわない」という人もいるが、本当にいいことなら江戸時代から続いたというフィクションの伝統による権威づけは必要ないはずで、虚偽で道徳を教えるのは間違いだと厳しく批判しているね。歴史的な事実は先入観なしで、はっきり認識すべきだね。