「殺人者たちの午後」トニー・パーカー著・沢木耕太郎訳・飛鳥新社09年10月刊
殺人者たちの午後私:この本は何かの書評から興味を持ち、図書館に予約して借りた。 ところで、イギリスでは、死刑がない。 殺人をしても最高刑は終身刑だ。 これを英語でlifeという。 正確にはlife imprisonmentだね。 原書の題名は「LIFE AFTER LIFE」である。 LIFEが2つあるが、前者のLIFE は、通常の意味の「人生」とか「生活」の意味。 後者のLIFEは、「終身刑」の意味だね。A氏:そうすると、原題は「終身刑を受けた人のその後の人生」とでもなるのかね。私:そういうことだね。 英語の副題が「Interviews with Twelve Murderers」とある。 12人の殺人者に著者がインタビューしたものだね。 原書は1990年に発行されているが、訳者のノンフィクション作家沢木耕太郎氏の訳が遅れていて、昨年に発行された。 原著者のトニー・パーカーはインタビューのうまい人で、インタビューによる本を出しているが、1996年になくなっているという。A氏:「殺人者たちの午後」という日本訳の題名は意訳だね。私:原書は12人の殺人者のインタビューだが、日本訳は10人だね。 重複したような内容は削除したようだね。 インタビューの焦点は、殺人そのものよりも、殺人後、終身刑を受けた人の生活を中心に質問しているね。 イギリスでは、終身刑となっても、一生、刑務所にいるわけではない。 刑務所内の生活状態を見て、釈放され、一般人と同じ生活をすることができる。 ただし、一生、保護監察官の管理下にある。A氏:転居しても報告し、海外旅行はできないわけか。私:結婚するときは、相手にすべてをうちあける義務がある。 正規の就職には雇い主にすべてを報告する義務がある。 制限は死ぬまで続く。 インタビューを受けた人たちは、老若男女、バラエティがあり、終身刑を受けた後の人生も多様だね。 長い間に、結婚した人もいる。 逆に、自己にこもった人もいる。 それなりに、「生きている」ね。 殺人の動機もさまざまだが、かなり、突発的だね。 テロリストとは違うね。 死刑制度が問題になっている日本だが、死刑を受けなくなった殺人者たちの人生がどうなるのか、という事実をこの本は明確に示唆していると思うね。 インタビュー記事だし、テープレコーダーから原稿にしたのだろうから、すべて会話調で、訳も平易で読みやすかった。A氏:訳者の沢木耕太郎氏も、ノンフィクション作家だが、1960年、日本社会党委員長浅沼稲次郎を刺殺した17歳の少年山口二矢を描いた「テロルの決算」があるね。私:山口少年は、鑑別所で自殺する。 沢木氏は、殺人者にはそれなりの報いがあるべきと考えていたというが、この本を訳して、死刑を宣告された人が、生きていれば、この本に書いてあるような、複雑で濃密な終身刑後の人生があったかもしれないと、複雑な心境をあとがきで書いているね。 俺も、この本を読んでそう思ったね。 人は「何故、それでも生きるのだろうか」という疑問は残るね。