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「油売りのおじさん」 昭和一桁、私が小学生だった頃、 朝からお得意回りをすませた行商のおじさんとおばさんが、 毎日お昼時になると、帰り道、私の家に、 立ち寄って一休みして帰って行った。 宇野さんというおじさんは小さい車に油じみた木箱を積んでいた。 何の油を売っていたのか、 私の家では買ったことがないので分からないが、 多分食用油と思うが、どんなお得意さんが買っていたのか分からない。 その頃父は、店のカウンターの奥を仕事場にして、 紳士服の仕立てをしていたので、仕事の手を休めずに、 宇野さんたちの話し相手をしていた.時の話題が一通り終わると、 彼のおきまりの「金満家」鴻池の話が出る。 「大阪の鴻池では一日何億、ごうせいだねえ、大将」 というぐあいである。 子供の私には何の話か分からないが、一流の財閥の一日の 取引する金額が庶民の暮らしとけた外れだと言いたいようだった。 彼は話の合間に煙草をキセルに詰めて、おいしそうに味わっている。 彼にとって一仕事済ませての一服は至福の時なのだろう。 カウンターの上にお客用の煙草盆を置いてある。 小さい四角の木箱の中に陶器の小さい火鉢と竹筒が入っている。 彼は一服吸うとキセルに詰めた煙草のかすをとるため、 火鉢に叩きつける。竹筒も叩く。 キセルの金具のところがカチンカチンとあたる。 私は火鉢や竹筒が壊れるのではないかと、はらはらする。 私は、かなり高齢らしい彼が嫌いではないが、 この煙草を吸うときは憎らしく思っていた。 もう一つ困ることは、丁度昼食の時間にたちよって、 話が盛り上がったりして、父が食事に立ち上がれなくなる。 温かい昼食を用意して待っている母はいらいらしている。 そんな時私は教えられたおまじないをすることになる。 箒を逆さにして、手拭いで頬かむりさせて踊らせた後、立てかけておく。 このおまじないが効果があったかどうか記憶にないが、 ときどき面白がって試していた。 このおまじないは母も祖母から教えて貰ったのだろう。 昔の人たちは普段気持ちにゆとりがあったのか、貧しいながらも、 工夫を凝らして、日常の生活を楽しんでいたようだ。 人々は日常の暮らしをより豊かにより便利に暮らし良く、 あらゆる英知を駆使して進歩させてきたと自負しているけれど、 素朴な昔の貧しくとも、自然の恵みを受けた幸せな暮らしも、 羨ましいと思うこのごろである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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