031334 ランダム
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ひたすら本を読む少年の小説コミュニティ






―僕の中には君がいて君の中には僕がいる―





「唯心論かしら?」

と彼女は言った。

「そうだよ」

と僕は言った。


一つ傘の下、僕らは並んで歩いた。

突然降り出した雨はあたりを一瞬にして闇に変え、体にねっとりと染み付くような湿気をもたらす。

道を照らす灯りは淡い光を綿のように放出している。

しかしそれはすぐに雨に滲む。

雨は強くもなく、弱くもなかった。

周りの音を静かにふき取り、自らの誕生の音を地面に打ち付けていた。

僕らはおそらく宛ても無く雨の道を歩いていた。

おそらくと言うのは、今や僕らにはそれを明確に確証付ける記憶も記録も物証も何もないからだ。

この「時」の事を反芻することができるのは、この「時」より少なからず先の「時」である。

しかし、それらと同時に、もしくはそれらと連動して僕らの過去は動いている。

いや、それが言えるのは過去だけではなく未来もであろう。

時間と言うのは液体のようなものだ。

何処にでも流れ込む。

「過去」
「現在」
「未来」

何故僕らはそれらを「点」で区切ってしまうのだろう。

時間と言うものを意識できるのは部分でしかない。

断片化した時間は流れない。

流動。




「雨、長いわね」

と彼女は言った。

「それでも流しきれないんだよ、僕たちを。」

と僕は言った。



雨音は窓に当たる度に弾けて消える。

光は時間が経過するごとに確実に侵食される。

街には車のライトが溢れる。

どこを照らすのでもない、ただの道標。

人のニオいがからみついた風が意味も無く漂う。

何故か僕にはわからない、でもそれは雨と共に激しく踊っている。

タノシソウ。

高層ビルの真下で蠢く僕ら。

形を成さない笑いはもう止めよう。

僕らにとって裸のまま死ぬ事が唯一の報い。

子供は欲望の塊だ。

大人は欲望の塊だ。

では大人でも子供でもない僕らは一体なんなんだ。

同じ生物だとしたら、僕らはどの服を着ればいいのだろう。

服を着なければいい。

あなたにはできますか?

アナタニハデキマスカ?





「雨が止んだわ。」

と彼女は言った。

「止まっただけさ。」

と僕は言った。



ベッドから窓を見る。



始動。







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