その14(10話)131【あの世~やんごとなきおかたの場合】 そのむかし、とある国で、 いとやんごとなきおかたが老衰で身罷(みまか)われると── 乱交パーティー会場にいた。 よく見ると御先祖様ばかり。 天智、天武、持統……聖武……。 祖父やら甥やら姪やら……。 もうむちゃくちゃでごじゃりまする。 --------------------------------------------------- 132 【自転と引力~せいやんすサイエンス】 「ぼくたちは相思相愛だね。お互いひかれあってる」 「そうかなあ。ねえ、あたしのどこが好き?」 「すべてだ」 「あら、あたしの一面しか見てないくせに」 「そ、そんなことないよ」 「うそつき。さよなら」 女は去り、男は全身涙に濡れた。 出演:女……月 男……地球 涙……海 --------------------------------------------------- 133 【七瀬、たびたび】 みなさん、知ってるでしょう? 筒井康隆さんの七瀬シリーズ。 『家族八景』『七瀬、ふたたび』『エディプスの恋人』の3部作。 じつは、あれ、4部作だったのです。 『七瀬~』と『エディプス~』のあいだに『七瀬、たびたび』があったのです。 本人から聞いたので本当です。 どんな話か知りたいでしょう。 教えちゃう。 ほんのさわりだけど。 こんな感じ。 七瀬は恋人の雅治とベッドで睦言を交わしていた。 ふたりはおなじ超能力者だ。 「おれたち、出会ってもう1年か」 「そうね、1年なんてあっというまね」 それからふたりは抱きあった。 よく飽きないなあってくらい抱きあった。 やがて疲れて眠り、目覚め、おなじ朝日をみた。 窓外の景色がすこし変わったような気がする。 それもそのはず、ふたりが出会ってから200年あまり経っていた。 なぜって? 七瀬が「あっ」というごとに1年先にタイムワープしたから。 --------------------------------------------------- 134 【あの世~日蓮の場合】 「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」 日蓮上人がお題目を唱えながら入滅すると── 「お、きたか」 閻魔様がいた。 「そーれ、じゃんけん、ぽん! あ、あと出し。ずるい。あんたの負け。 地獄行きぃ~!」 ~言わずもがなの補足~ 日蓮は、「ただひたすらお題目を唱えることにより 成仏できる」と説いた。 --------------------------------------------------- 135 【あの世~チャミ子の場合】 チャミ子がガス自殺すると── ローマのコロッセウムのような 競技場のド真ん中に突っ立っていた。 わいわい、がやがや、うるさい。 よくみると、観覧席は先人たちで埋め尽くされていた。 芥川龍之介、太宰治、川端康成、三島由紀夫、有島武郎、 金子みすゞ、江藤淳、田宮二郎、沖雅也、岡田有希子、 沖田浩之、可愛かずみ、松宮一彦、木下弘、甲斐智枝美、 近衛文麿、新井将敬、松岡利勝、井上大輔、桂三木助、 矢川澄子、戸川京子、古尾谷雅人、森村桂、佐藤真、 伊丹十三、犬丸りん、中島らも、川田亜子、…… 「それでは、みなさん」すぐよこにポール牧がいて、 指パッチンをしながらクルっと一回転した。 「いっせいに得点カードをあげてください。 どうぞ~。 8点6点6点4点9点2点5点2点2点1点3点……」 死にざまを採点しているらしい。 合計点の計算がたいへんそうだ。 --------------------------------------------------- 136 【‘ニッポン人’の定義】 なんの行列か分からないが、とりあえず並んでみる人種。 --------------------------------------------------- 137 【梅雨が……】 7月初旬。 じめじめしていた。 日が差しているのに雨がしとしと降っていた。 公園に若いカップルがいた。 傘も差さずに歩いていた。 女がとつぜん立ち止まり、叫んだ。 「もうまったくー、はっきりしないんだからー」 すると、ゴロゴロっと雷が鳴って、梅雨があけた。 自分のことを言われたとおもった空が、発奮したのだ。 --------------------------------------------------- 138 【あの世~宮本武蔵の場合】 正保2(1645)年5月19日、門弟らに見守られながら、 武蔵が62年の生涯に幕を下ろすと── 「遅いぞ、武蔵! オリャアアア」 佐々木小次郎がいきなり斬りかかってきた。 「小次郎、敗れたり! ダアアア」 勝負はあっけなくついた。 武蔵は再び勝った。 「む、無念……」 「ふふふふふ。あまいぞ、小次郎。こんなこともあろうかとおもってな」 武蔵の手には、7尺余りの卒塔婆が握られていた。 --------------------------------------------------- 139 【‘ニッポン人’の定義2】 ラクして願いをかなえたい人々をターゲットにして、 ラクして儲けようとする人種。 --------------------------------------------------- 140 【あの世~鉄矢の場合】 武田鉄矢が赤いきつねを喉に詰まらせて 窒息死すると── ドンと背中をど突かれた。 「な、なんばしようとお」 ふりむくと、坂本龍馬がいた。 「おぬし、なんで勝手に使こうたんじゃ。 海援隊は俺の専売特許じゃきに」 意外とみみっちい。 |