【再】アリ・クモ・カマキリ・オケラ
暑い。汗だくだ。カバンには化粧品とパンフレットが詰まっている。夕方だというのに、一日のノルマの一割も売っていない。セールス販売など、自分には向かないとつくづく思う。とはいうものの、足は自然にお客さんをさがしている。むこうの角の家の玄関ポーチに、しゃがんで遊んでいる子供が見える。あそこなら若い奥さんがいそうだ。「ぼくぅ、ママいるかなっ──」少年の手もとを見て、息を飲んだ。ポーチの石段にたくさんの虫──アリ、クモ、カマキリなど──が、きれいに並べられている。動かないところをみると、死んでいるのだろう。「ぼく、それ、そうするの?」しゃがみ込みながら訊ねる。少年はこちらを見てニッと笑った。汗をぬぐったせいだろうか、ほおにいくすじもの泥んこの跡があった。「おじちゃん、見てな」少年はそれらの死骸をかき集めると、両手ですくい、おにぎりでも握るようにギュッギュッと固めはじめた。時々こちらにむける目が、ぞっとするほど冷やかだ。無邪気な残虐性とでもいうのだろうか。三十秒ほどそうしていた。やがて、「えい!」地面に落とした物体を見て、危うく吐きそうなり、あわててくちをおさえた。少年の足もとで、こぶし大の生ゴミのようなものが、もぞもぞとうごめいていた。「アリクモカマキリオケラ虫っていうんだ」それは、たくさんの虫が不規則に合成されて出来上がった、なんとも言いようのない、グロテスクな生き物だった。「お客さんきゃい~ん?」うしろで調子っぱずれの奇妙な声。「あっ、ミケポチテツゆう子おばちゃん」---------------------------------------ジャンル:ホラー、怪談筆者コメント:にゃんだかへんだわん