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灯台

灯台

ロルカの沼

             すまし
水の上 蓮の上で 蛙はお悧巧さん――

息を殺して凝っと、鏡像を覗き込んでいる・・

「限りなき円、寄る辺なき星の戸を開けてもいたたまれなき!」

忘れ去られた告白の ひなたの匂い

そしてオリーヴいろの誘惑に 

しろい天使の翅――


  僕が青春と 言うと

  やっと去っていく・・・



    でも後には吸殻が残る

    時代との別れなんて 別に

    構いやしないが――



    お前は残った・・


  ざわざわ、・・・ざわ、ざわ、ざわ、

  昼間から騒がしい周囲、一日風の強い日、

  しかしとりたてて甘い匂いのする、

  小麦色の風がどこからともなく、・・・

  葉影へと、茎のそのまた茎へとただようていると、

  夜のあまい露まで酸っぱくなる

  沈黙――



蓮の葉は、細く響きていづくまでも透りて、

蛙自身のきみどり色の姿をして、

(憧れながら近づいた

近代的な建物に圧倒されたのと同じ感情で!)

また、酸素ボンベでもあるじょうに、無我夢中で、

嗅いだ、呼吸した、地よりつたはる野の香りに

木の実の殻の裂くる想い・・


  波のうねりの深い、酒色

  早く衰えそうな 夢に

  草は雪のように輝き――



   ...墓の穴深くまで......垂れ...

   ......静かに...かたまって......

   ...そして静かに......消えてった...




    ((( ぽたン )))



    ・・・それは銀紙のような沼の色のなかで

 ・・・・・・・・・雲と流れて雨と降る 見返り柳

       ・・・・・・鏡に映る我顔――



    ・・・・・・ふるめかしい石碑のように

 ・・・・・・・・・・・・筆の彩。枯淡。

       ・・・むごんで築き上げられた歴史と


 ふかい洞穴をしらせた―――

   水が揺れる・・・



  記憶の断層へと拡散してゆく波状エナメルは

  やくざな気韻。心浮立たせる鐘の音もなし、笛の音もなし、

  唄もなし――伝播され、・・・絶え間なく揺れ、笑まふも果敢ない、

  浮き世の・・・セイタカアワダチソウの繁みに、

  シラノ・ド・ベルジュラックの純愛劇 が――

  かくれんぼをする・・・


    蛾がばたつくリズムで

    犬が草のにおいをつけるよ・・

    背中に地面をこすりつけて――



 世界の果てまでも、気を滅入らせるような

 ランプの明かりに

 腹を立てて揺らして

 骨まで揺れそうな人生の嘘も揺らした・・


    お前は残った・・


  ざわざわ、・・・ざわ、ざわ、ざわ、


  と音のする度、サトウキビ畑、小麦畑、稲穂の青い道・・

  ジワリジワリと隠してくれる、袖を濡らした、玉菊の落つる・・

  また霧がみち、夏の峠や、雪の路、あるいは時雨に思ひ馳せる頃・・

  心のなかにあいた穴へと――



    くだかれた理想がここによみがえる

    ―――夜よ、シンバルをうち鳴らせ!


      (げろげろげろ、ぐえつ、ぐえつ、ぐえっぷ、

      ぎるぎるぎい、・・・げえげえげ。




    ((( たぷン )))



    ・・・それは破れた窓で生まれた、夢路

 ・・・・・・・・・柵にやさしき小羊も眠るべく、無味無臭の科学の知恵を絞るそう・・

       ・・・・・・吸い込まれていく――停止まで・・・の・・



    ・・・・・・かすかな かすかな 焦り

 ・・・・・・・・・・・・重き鍬を疲れさせ、汚すための、苛立ち

       ・・・からだの中を通り抜けるたび


 水があふれだす―――

   水が揺れる・・・




     岩の上のトカゲのように休みながら

     死と快楽が纏わりつく仮にの姿に

     さらば!・・

     だのに蛇はあきらめもせず追って来る

     時間切れ――


       (砂漠という事実と寂寥という事実は釣り合う

          ――どんな夜でも・・


       ウォルト・ディズニーのアニメだったら
       ジラフ
       麒麟になれるかな・・


    首を長くして、首を長くして・・

    ああ長くならない、

    足も伸びない、

    と、ため息ばっかりが大きくなる、

    もっと、人のいきれた熱が強くなる・・


      ははは ははは ははは――


  風がうごけば誘惑の笑みをうかべる蛙・・

  その蛙を見ながら思う、波打ち際では魚の後ろ

  地上では、蛇に怯え――

  どこまでも 沈んでいくような 伏し目・・

  ・・・染込んでいく水の音色、

  はるかな遠い土地の記憶、

  しずかなみどりの原野、・・・



 ゆれる鏡が自在なるまるい月を

 うかべれば、一つが二つになる、・・・

 亜細亜の火は内より燃えて
 
 自らの衷に気宇壮大な愛の廣大無邊は成立する――



    そう こどもがつぶやく ロルカのあの詩

    ―――夜よ、シンバルをうち鳴らせ!


      (げろげろげろ、ぐえつ、ぐえつ、ぐえっぷ、

      ぎるぎるぎい、・・・げえげえげ。



  ざわざわ、・・・ざわ、ざわ、ざわ、

  ほうれん草のように蒸れてぐんなりとしてる、めんどう臭そうな草たち、

  どこか、熱帯地方の匂いが蘇れば、

  梟でも、翡翠でもあらわれそうな、・・・風がまたどこからともなく、・・・

  サティの歌を、ベエトベンのあの歌を、ショパンを、モツアルトを、

  蘇らせる頃――いつか割れてしまった水風船の、水が、ない、

  庭さきの、あさがおがない・・空を仰がずにはいられなかった!

  仕事も趣味も、生きがいも、ああ、やれライフサイクル!

  やれライフワアク!

  沈黙せよ、地上に生きる半端ものども――




    ざわざわ、・・・ざわ、ざわ、ざわ――
  

 叩き落ちて、きりすぎて、、きりすぎて、、、

 ・・・ひとみをかくしていた前髪、

 花壇へ、、あの人のいる放課後へ、、、・・・

 「蛙さん、蛙さん、蛙さん・・・」



     独居房・・

     ああ陽の光よ

     月の光よ

     恵み深いならきざはしを、

     地上にまで降ろしてくれ




       地上は霧

       あるいは、まだ洪水の中・・




  わたしの膝、・・・あなたの体温を覚えてる、

  あなたの癖っ毛をおぼえてる、

  浴衣に、かんざしに、下駄に、馬子にも衣装で、でも、

  あなたが圧しつけた重みで浴衣の生地はつぶれて、

  清きよろこびに養われながら、微笑むあの日、

  その花の甘い香 と厚意と信頼に――

  いまも、、いまもあの祭りの日のまま、、、・・・



    知らなかったの? 夢見る大地にはおぼろな墓地がある

    知らなかったの? 恋を知らない子供よ――天国と地獄・・



    そう こどもがつぶやく ロルカのあの詩

    ―――夜よ、シンバルをうち鳴らせ!


      (げろげろげろ、ぐえつ、ぐえつ、ぐえっぷ、

      ぎるぎるぎい、・・・げえげえげ。



  ざわざわ、・・・ざわ、ざわ、ざわ、

  ――希ひ且つ求めよ!・・・天国と地獄には寶匣がある。

  海賊船も、いつか幽霊船になったのだ。

  到底、手が届かないミノタウロスの孤独を知りて惑星の孤独よ・・

  文明の混凝土、四角い枠で、あの鉄くさい匂いで、
 
  便利という名、より快適にというイメージで切り取られた思い込みのなかで、

  ほうせんかのあかい紅が爆発する!

  謙虚なる従順なる神の前――刻々と更けてゆく夜に人が敬遠するもの!

  流れの上に流れ、炬火はうつり、愛の使徒たらん決意を沈潜させ、

  げに、流れの下に流れているもの! 逆立て、あるいは突き刺し、

  ましまくもの! カオス・・混乱と難聴、ああ 火の如く氷のごとく――

  きらきら光る、淋しさに堪へずして、永遠なる魂の輝き!と・・




    ・・・はじける赤いくち紅。
  
    ではない。した唇に鉄が染込む。・・・



      水より上りくる黒き掌よ

      偶像よ

      偽りなき真実よ・・


        ――ひとり小さな灯をともして


        外は暗い、夕暮れのあと

        僕は 繭のなか

        君も 暗闇のなか、洞窟の中


   ――心細い動物の絵を揺らすんだろう・・


    そう こどもがつぶやく ロルカのあの詩

    ―――夜よ、シンバルをうち鳴らせ!


      (げろげろげろ、ぐえつ、ぐえつ、ぐえっぷ、

      ぎるぎるぎい、・・・げえげえげ。



  ざわざわ、・・・ざわ、ざわ、ざわ、

  ――しかしひとたび見ゆれば魂は癒える!・・そこに力は湧く!・・

  愛の泉よ・・・永遠なるものによりすがる夜半、

  それでもなお、放恣!・・わが衷よりほとばしれ。亀裂となり、

  癇高い音を聞かせろ!――眠りは幼年のひと頃の砂糖菓子・・

  蛍よ、なまめかしい空想の美女の首の傾げよ、

  もつれあう天上のひと時を見せよ・・いま巨像なき物質社会の視神経に、

  魂の最も崇高なるもの! こよなくうるわしい魔力によって、

  はてしなくさむざむとひろがれ!・・

  蛙よ、――近頃になって漸くお前の醜さが美しさとわかってきた、

  僕も蛙か?・・蛙よ――老いることのそれより外に仕方が無い、

  蛙よ――ああ、何かにつけて冷や水をぶっかけられたという顔をしている、

  蛙よ、こんなメロディは聞いたことがないか?



    そう こどもがつぶやく ロルカのあの詩

    ―――夜よ、シンバルをうち鳴らせ!


      (げろげろげろ、ぐえつ、ぐえつ、ぐえっぷ、

      ぎるぎるぎい、・・・げえげえげ。




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