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灯台

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2015年02月18日
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  ●となりの国へとつづく道


            勇者の錯乱をまだ知らない人びと。

           モンスターが増えてきている。

           どこもかしこでも――我がもの顔で。

           手綱を引いている馭者台のブロンクス。

           ぱっかぱっか――がたごと・・・。

           車輪が回る、あたらしい争いの火種が生まれる!

           ギラギラ光る逆光線。あたりのざわめきも、

           その、いかめしい静けさも、黒い裸体のまわりに産卵される。

           平和が浮き沈みする、浮標のようだ。

           
    通行証、あたらしい街――
 

           鍛冶場の黒い煙と硫黄のちらつく光の中のように、アリアを見る。

           女という波が、かがやいてひろがるのを想う。


    荘厳な沈黙までもが、不健全に思えるような――


           物売りや、やくざ者。労働者に、神職。

           生き生きとした表情。ここでしか見られない生き方や考え方。
       
           土地の風土。常識。時間の捉え方。

           古い自我が新しい理想によって殻を打ち砕かれてゆく想いがする。

           旅は人の顔や、造作の奥に隠れた意味を探る。


    道路に、くっきりとした影が浮き出ている――


           幾条もの光。装飾性の強いスカーフ。足が怪我しそうな靴。

           ブレスレットにアンクレット。あれフェルト。
                   つむ
           二度とない時間を紡錘のように悲しく憶ふ――・・。

           金魚よろしく目の中で上下しきりにぴくぴくする・・・。

           一重まぶたの大きな眼をして――。


  アリア     「ブロンクスさん、変わりましょうか?

           お疲れでしょう――後ろで、少しはお休みになって下さい・・・」


  ブロンクス   「女性はそんなことなど気にせず。」


           しかし一体自分は何をしているのだ、とブロンクスは思った。

           闇の谷へ潜りたかった。血。躍動する筋肉。暴力。強さへの、

           限りない衝動。それが胸を明るく透かす矢のように、自分を、

           不気味な凸凹にする。賢者エンツィアーンの至言。セルビアの、

           助言。波打ち際の砂の城のような悲しさに、広い額と、高い鼻筋、

           その、無益な気高い調度品のような、荒い魂が、叫んだ。

                     はじら
    だのにアリアの目の向こう側にかくも羞恥う――
        
     
              ――女たちの笑い声がする。

              ――そして男たちから、戦いの気配がしない。


           暴風で吹きあげられた木の葉のような気がして、目覚める。

           俺は泥炭だ。溶岩だ。浮き雲だ。こんな、ぬるい連中とは違う。

           眼窩の奥底から平和に絶望する。否、平和を装った日常に混乱する。

           ――ロバートはいま、闇の谷でどれほど強くなっているだろう。

           賢者エンツィアーンの指導を受けた彼等は、どれほど・・・。

           義勇軍など無用ではないか、と思う。

           こんな奴等に、モンスターと戦う力などあるか――と・・。


    去りゆく背景となったビジタリアン王国――

  
           アリアが自分の気持ちを引こうとして、お茶だの、お菓子だのと、

           構ってくる。家の入り口で主人の帰りを待つ犬や猫のように。

           しかし自分がそれが途轍もなく嫌だった。違う。アリアが嫌なのではない、

           その行為が、そこにおける生活的態度が嫌なのではない。
        
           自分がそれを快い、心地よいと思うことが、嫌なのだ。

           そしてお茶が美味しく、お菓子が甘いということが、嫌なのだ。

           外壁だけ金箔を塗ったそんな自分を騙すようなことが嫌なのだ。

           そういう贅沢を日常と理解する、自分が嫌なのだ。

              ――夜になればテントを作る。

              ――焚火をしながら、皆の安全を守る。


  ブロンクス   「アリア・・・、君はどうして普通に生きようと思わなかった?」


  アリア     「わかりません――でも、人生とはそういうものですわ・・・。」


           一本の毛も残らずむしられるような、この頽廃。

           そしてそれが皮膚へと、内側へとしたたってゆくようなあやうさ。

           病的な理論の鋭利さのために、自分というものが、加速度的に、

           破壊されてゆく。檻の中の論理とは知りながら、そんな自分を、

           気味わるく思う。戯れに身を任せてしまいそうな弱い自分を恥じる。

           寝つけぬまま、剣を振りまわす。タカギが、精が出るねと言う。

           こいつは眠らない。そして、俺の心を完璧に見透かしている。

           タカギに自負と自己満足を見破られながら、話す。夜はいつも、

           タカギと話す。そうしていると、アリアが起きてくる。

           お茶を入れてくれる。女は夜、寝ていればいいのだ、と言いそうになる。

           そのために自分はこうしているのだ、と。だが、何も言わない。

           苛々する。アリアにではない。アリアが来るたびに心が躍るのを、

           感じてしまう、そんな自分がいることを知っている。

           しかしそれがどうしても嫌なのだ。

           

   *





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最終更新日  2015年02月19日 00時19分56秒



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