「フリーター、家を買う。」 有川 浩
2009年8月 幻冬舎文庫より「母さん死ぬな―」へなちょこ25歳がいざ一念発起!?崩壊しかかった家族の再生と「カッコ悪すぎな俺」の成長を描く、勇気と希望の結晶。 (「BOOK」データベースより)2010年10月から放映された、嵐の二宮和也が主演のドラマの原作です。二宮くんは好きだから興味があったんですが、ドラマはどうせつまらないだろうと原作を読むことに。11月に図書館の予約を入れたけど、人気で待ち人数が多く今になりました。作者は有川浩という名前だから男性かと思っていたら「ひろ」という読みで女性なんですね。そう言われれば、終盤あたり女性っぽい内容かも。主人公は「武 誠治」。大学卒業後、新卒で就職したものの会社に馴染めず、3ヶ月で退職。その後、短期のアルバイトを繰り返しながら25歳くらいまでダラダラと自堕落なフリーター生活をしていますが、母親が重度の鬱病を発症したことから一念発起して就職、家の購入を目指すという話。何となく軽いノリの話だと思っていたので、いきなり鬱病で家庭内が大揉めしたことにビックリ。しかし、主人公が心を入れ替えて努力し始めるところからはトントン拍子のサクセスストーリー。周囲の登場人物達も人情味あふれる人々が多く、気分良くさらっと読める話でした。【送料無料】フリーター、家を買う。価格:1,470円(税込、送料別)以下、ネタバレとなりますのでご注意ください。母・寿美子が鬱病を発症する理由がスゴかった。一家丸ごと近所の村八分状態のイジメによるものだったんです。飼っている猫を怪我させられたり、誠治のオモチャを盗まれたり、子供会のキャンプで誠治と姉・亜矢子を山の中で置き去りにして迷子にさせようとしたり。理由が、住宅街の中で誠治の家だけが会社の借り上げの社宅で、他の人達は高額なローンに苦労しているのに、家賃3万円で楽をしていること。言わなければわからないそんな理由を、引っ越してきた当初の親睦会で酒癖の悪い父・誠一が言いふらしてしまった挙げ句、べろんべろんに酔っ払って、ご近所さんに家まで運んでもらったこと。その後も、その酒癖のせいで近所に迷惑をかけることがあったから変人扱いされていたっていうんですが、「変人扱い」はともかく、そんなことで新興住宅地で地域ぐるみの積極的なイジメとかに発展する?ちょっとビックリな設定でした。「いや、最近はそういうのが普通なんですよー」とか言われたら、更にビックリだけど。20年間も続いたそのイジメに加えて、息子がフリーターであることの心配、家庭内(父親vs息子)の不和、ペットロス、ただ一人の理解者であった娘(主人公の姉)・亜矢子が結婚して遠方住まいなどが重なって鬱病を発症。駆け付けた亜矢子にどやしつけられて、主人公が目を覚ます。自分のダメっぷりを自覚し、断られながらも再就職を目指し始めます。と言っても就職活動は難航。お金も必要だと思った誠治は、金額のいい夜間の土方のバイトを始めます。きつい労働で長く続くバイトがいない中、誠治は働き続け、仲間の現場作業員のおじさん達に可愛がられるようになっていく。そして、とうとうその社長に認められ、正社員としてそこで働くことになるのです。その会社・大悦土木は、土木関係の中堅会社に孫請けとして使われている子会社なんですが、親族会社で身内ばかり優遇しているダメダメな親会社から、将来的には独立したい。土木関係の実力は充分ありますが、会社としてやっていくなら営業・経理部門も力を付けていかなくてはと考え、その要員としての採用です。採用されてからの誠治は、過去の工事データをPCにインプットして分析、作業効率の改善を提案したり、倉庫を使いやすく整えたり。社長の要望で、更に2人の素晴らしい人材を採用したり。あまりに優秀で、会社未経験の普通のフリーターという設定にしてはできすぎな感もありました。まあ、元々優秀でやる気がなかっただけなのを全開にしたんだっていう見方もあるけど。この辺は好き好きかなあ。失敗・成功を繰り返していくより、もう後半なんだから一挙に成功体験だけで気持ちよくクライマックスを目指すっていうの、実際読んでいて楽しかったですし。誠治が採用した2人のうち、1人は現場監督志望の千葉真奈美(26歳)。面接で40kgのセメントをかついだ強者で、真面目で頭のいい女の子。もう1人は、「大いなるバカ」豊川哲平(25歳)。大学卒業してから2年間バンド活動、自分はメジャーデビューするつもりだったのに仲間達にそんな気はなくバンドは解散。バイトを始めたらバイト先で好きな子ができてしまい、1年間そのバイトを続けていたのにその子が止めてしまったので、「いかん、就職活動せねば」と応募してきたという人です。愛嬌があって、人の心をつかむのがうまい天然の愛されキャラ。どちらも有力な戦力となっていくのです。そして最終章では、誠治と真奈美の恋愛模様も入ってきます。奥手で真面目な2人を豊川が見守る、という構図なんですが、真奈美を指して「こんな質実剛健な恋する女の子は初めて見た」と評したりするのが笑えました。豊川がいなかったら、恋愛も重くて面白みに欠けただろうと思いますが、楽しく読める軽さに仕上がっていました。面白かったと言えば面白かった。けど次にこの作者の本をまた読むかと言ったら微妙。テレビで紹介されていた『県庁おもてなし課』が気にはなっているんですけど。