「落日の剣-----真実のアーサー王の物語 上・下巻 」2 ローズマリ・サトクリフ
上巻 若き戦士の物語下巻 王の苦悩と悲劇訳:山本 史郎、山本 泰子 2002年11月 原書房よりエクスカリバーや、魔術師マーリンが活躍する神話的「アーサー王物語」ではなく、実際のアーサー王の姿を豊かな想像力と物語性で時代背景とともに見事に再現。若き勇士の躍進から滅亡までを詩情豊かに描く。 (内容紹介(「MARC」データベース)より)字数制限のため、1からの続きになっています。1の冒頭にレビューがありますが、注意書き以降は後の自分のための粗筋となります。2は続きですので、当然ですが全てネタバレとなります。ご注意ください。さて、悲劇の連鎖の下巻です。まず、格別に寒さの厳しい冬、越冬のための砦での火災。食料貯蔵庫が焼け、春の補給部隊が来るまでの食料が不足。救援を呼びたくとも、雪に閉ざされた砦から街まで行く術もない有り様です。少ない食料を分け合っている中、信頼する大隊長エリックが数日分の食料を持って出奔。エリックの部隊員は他部隊から罵られ争いも起きますが、やがて争う気力も尽きて、病人や餓死者も続出。ほんの少し寒さが緩んだと感じられたある日、アルトスは救援の使者を出します。使者は街まで行き着くことはできないだろう、しかしこのままでは全員死ぬしかない、という究極の判断でした。死を覚悟したアルトスは不思議なほど穏やかな気持ちで、その夜初めてグエンフマラと交わることができます。翌日、使者が救援部隊を連れて帰ってきます。実は、逃げたと思われていたエリックは命がけで街まで行き着き、救援を呼んでいたのです。救援部隊隊長の「もう少し暖かくなるまで無理だと言ったんだが、頼んできた者に死なれては 断ることもできない」のセリフに泣きました。(T_T)そしてこの1度の交わりにより、グエンフマラは妊娠。しかし、アルトスと共に砦に移動する途中、2ヶ月も早く出産が始まってしまいます。大嵐の中、川が氾濫しとても砦に行き着けそうにない状態で、陣痛の始まってしまったグエンフマラを抱えて、アルトスが思い出したのは「黒い矮人」の村。「あんな村に行ったら子供は無事でいられない」と嫌がるグエンフマラを宥めて村に向かい、村の女達の手を借りて無事に女の子を出産します。娘を可愛がるアルトス。しかし病気がちの娘が3歳の時、アルトスが戦の真っ最中にグエンフマラから危篤だという使いが来る。戦陣を離れられないアルトスは、戦に勝利した後に宮殿に駆け付けますが、1時間前に娘は死亡。グエンフマラは、娘が死んだのはアルトスのせいだと言い出します。出産後、すぐに動かしたら死んでしまうからとグエンフマラを「黒い矮人」の村に預けて、アルトスは部隊を率いて先に砦に入りました。3日後に迎えに行ったのですが、その間に村人の呪い(まじない)により、娘の命は死にかけていた部族の子供の命に移されてしまった、だから3年しか生きられなかった、と言うのです。アルトスがグエンフマラと娘を一緒に砦に連れて行っていれば、娘は死ななかった。そのことが許せないので、今は自分に触らないで欲しい。今後も触られてもいいと思えるようになるかどうかはわからない、と。グエンフマラを愛しているアルトスはすごくショックを受けます。それでなくても娘を亡くして悲しいのに、この仕打ち。グエンフマラは自分の部族の言い伝えに縛られていて、「黒い矮人」の呪いを信じているからなんだけど、あんまりだと思う。そもそも嵐の中で早産した時に女性がグエンフマラ1人しかいなかったのは、本来一緒に付いてくる筈の乳母が怪我をして、出発が遅れたからなんです。アルトスは、乳母と一緒に後から来るようにと言ったのに、一緒に行きたいと言い張って聞かなかったのはグエンフマラ。アルトスを愛し、アルトスだけが自分の頼りと思っていた節のあるグエンフマラ。いつも一緒にいたいという気持ちはわかるけど、我慢がないと思うし、「私は大丈夫」と言い続けて、実際大丈夫じゃなかったわけなのに、自分の非は考えないの?と思いました。二重の失意の中で、娘の葬儀を行うアルトス。葬儀の後、1人で歩いているアルトスを待ち受ける若い男。なんとそれはイゲルナの息子・メドラウトだったのです。悲劇の種がやってきた!!! Σ( ̄□ ̄;)メドラウトはアルトスの体力・知性とイゲルナの恨み・憎しみを受け継いだ、頭が回るのに歪んだ性格の持ち主です。騎士団に入隊し、頭角を現して、周囲の若手の人望を集めていく。恐ろしい展開です。そしてアンブロシウス王の死。アンブロシウス王は病気で、冬が明けたら来るであろうサクソンとの大戦まで自分が生きられないであろうことを知っています。次の後継者としてアルトスを指名したいのですが、そのためには元老会の合議にかけなければなりませんが、アルトスの母が身分の低い女性のため、同意が得られない。そこでアルトスに「自分は後継者の指名をしないまま突然死するから、その後の王位を奪い取れ。 そなたにはその実力があるし、そうしないと国が滅ぶ」と言うのです。そしてその言葉通り、翌日の鹿狩りで王は命を落とします。狩りのシーンがすごかった。狩りの時、誰かが「とどめは私が刺す」と宣言したら、他の人は手を出してはいけないというルールがあるそうです。そして追い詰められた鹿というのは凶暴で「猪を追ったら医者を呼べ、鹿を追ったら棺桶を用意しろ」という格言があるらしい。前日まで病のために一人では馬にも乗れない状態であった王は、自らの決意を実行するため、太陽の最後の輝きに似た力を発揮して、病を感じさせない溌剌とした様子で、アルトス達と共に狩りに出ます。発見した立派な雄鹿を馬で追いかけ、猟犬達が追い詰めたところで、王は「とどめは私が!」と叫び、馬から飛び降りナイフ1つで鹿に向かっていく。王は鹿を倒しますが、鹿の角に内蔵をずたずたに破られて即死。満足した様子の王の最期に涙です。(T_T)元老会で後継者問題が話し合われますが、いま国内で後継者争いをしたらサクソン軍に付け込まれて国が滅ぶ、というアルトスの提言で後継者問題は保留。その言葉通り、サクソン人との大会戦が行われます。アルトスはこの戦いに勝利し、兵士達によって皇帝に選ばれます。実質的に国の最高責任者になるわけです。しかしこの戦いにより、多くのものを失います。戦に加わっていた愛犬カバル、アルトスの太刀持ちであるフラビアンの父親である老アクイラ。アルトスの腹心の部下&右腕で、親友でもあるベドウィルも重症を負います。ベドウィルの回復を願って、アルトスは妻グエンフマラに看病を任せる。その結果、ベドウィルとグエンフマラは愛し合ってしまうのです。その事実をメドラウトによって知らされ、失意の底でアルトスは2人を追放。グエンフマラと共にアルトスの下に来た100人の騎馬隊(の生き残り)もアルトスから去っていきます。感情を殺して、ひたすら国のための政治に没等するアルトス。しかし、疫病が流行したある年にアルトスも疫病にかかってしまいます。その情報をひそかにメドラウトがサクソン人に流し、サクソン人が再び攻めてきます。戦いは、ベドウィルと並ぶアルトスの部下ケイが率いて、何とか追い払いますが、完全な勝利は得られず。そこから数年の間に、騎士団の中にもメドラウト派が生まれ、協力してきた諸豪族達の結束も弱まって、次第に衰退の気配を見せていくブリテン国。そしてアルトスの遠征中、遂にメドラウトが裏切り、サクソン人と共に攻め入ってきます。2倍の数の敵に当たらねばならず、死を覚悟した決戦前夜、「誰と共に死ぬかということに無頓着ではいられない」とベドウィルが戻ってきます。喜びの涙で友を迎えるアルトス。翌日、跡継ぎと決めたコンスタンティンが戦場に到着するまで守り切らねばと、死に物狂いで戦うブリテン軍。決着を付け元凶を断つために、アルトスはメドラウト隊をおびき寄せます。最後の激闘の前に、騎士団に向かいアルトスは、皇帝としてでなく友として「これから逝く国で思い出すということが許されるなら、私がそなたたちを愛していた ことを忘れないで欲しい。またそなたたちが私を愛していたことも思い出して欲しい」と語りかけます。「アルトス様。よい思い出でいっぱいです」と答える騎士。もう涙、涙ですよ。(T_T)そして両隊の激突。メドラウトの一撃によりアルトスは致命傷を受けますが、次の瞬間にメドラウトの首を斬って命を絶つ。大将の死によりメドラウト隊は総崩れになり、ブリテン軍は優位を取り戻し、援軍のコンスタンティンが間に合ってぎりぎりの勝利を得るのです。最後は静かな修道院で、ベドウィルに見守られながら死を待つアルトス。強いブリテンを作るために、戦いに捧げ尽くした人生。イゲルナの呪いに縛られ、妻を失い、子供に恵まれず、大切な命を多く亡くして、それでも充足の内に死んでいけるアルトスは幸せだったんだろうかと思ってしまう。これが王の資質であり、王の孤独であるということ?悲劇だったけど魅力的な内容で、読んで良かったです。