パスタメーカーでつくる手打ちうどん+手作りオレンジリキュール
ドイツに来る前にしばらく住んでいた、山梨県の富士山ろくの地域では、ほうとうでも知られるように、「好物はうどん」という方がたくさんいました。うどんやそばは軽い昼食に食べるもの、という誤った固定観念をいだいていた私は、近所の方が夕食にもうどんやほうとうを食べるのに、引越したての頃はびっくりしたものです。わが家の台所から、見えるお向かいのお宅では、奥さんがしょっちゅううどんを手打ちする姿が見られ、あるときご主人が私に「うどんはいくら食べても飽きないんですよ。私たちにとってはご馳走なのです」と説明してくださいました。そこで、私は奥さんに「うどんの作り方とケーキとバターロールの焼き方の交換をしましょうよ」と持ちかけました。向上心の旺盛なこの奥さんは、すぐにケーキ・バターロールづくりをマスターしてしまい、「こんなの焼きましたけど、どうぞ」とできたてをよく持ってきてくださるようになりました。できばえは完璧。奥さんから「うどん、作ってみましたか」と聞かれた私は、「うっ」と答えにつまりました。パンをこねるのは面倒でないのに、うどんをこねるのはどこか気が進まず、麺棒で伸ばしたり、細く切る作業は、不器用な私の能力にはあまりあったので、一度トライしただけで、やめていたのです(太さがまちまちのスイトンのような代物になったので、やる気なくしたの)。そして月日はどんどん過ぎゆき・・・。ドイツでもアジア食品店に韓国製や日本製のうどんや蕎麦の乾麺や湯で麺が売られています。でも、これらはおいしくないし高いしで、買いません。ラーメンも同様。日本のような生めんにはほとんど出会えません。そうなると、なおさら食べたくなるもの。ついにラーメンづくりのために、パスタメーカーを買いました。本来はイタリアンパスタ用ですが、これでラーメンもできます。といっても、実際に作ったのはほんの一、二回。できるとわかったとたんにやる気がなくなったのです。うどんも何回かつくったのですが、これまでは茹で方が悪かったのか、おつゆを真剣につくらなかったためか、また食べたいなーと思うほどのうどんはできませんでした。そして今日。外は雪もようで寒そうです。とつぜんうどんが食べたくなりました。もちろん乾麺はありません。でも粉ならあります。パン焼き用に30キロも有機栽培の様々な粉を取り寄せたばかりですから。そこで、ネットで見つけたレシピにしたがって、小麦粉+塩+水をこね、足で踏み、レシピが命じるとおり、本当にベッドの中に寝かせ(羽根布団でくるみましたよ!)ました。そして、ここ二、三年は使ってなかったパスタメーカーを取り出して掃除をし、フェットチーネを作るのと同じ要領で、今回はあせらず慎重に事を進めて、きしめん状のうどんを伸ばし、日本からもってきた自慢の「はかせ鍋」で十分ゆでました。はかせ鍋で茹で上がった手作りうどん posted by (C)solar08汁ですが、こうなったらこちらも本格的に行こうじゃないの。削り節を使わないで、鰹節を自分で削って。十年以上も前に日本から持ち帰ったままの、化石化した鰹節がついに使おうというわけです。取り出してみると、虫もつかず、かびも生えていません。ただ、同じ棚に置いてあった、マダガスカルで買ったバニラビーンズの香りがうつったような感じですが、これは気のせいなのかな。さらに棚の奥から、これも日本から持ち帰った「鰹節削り器」をとり出しました。二十年前に死んだ父の手製です。上部にかんなをはめて、削った鰹節が落ちるようにした木箱。くぎを一本も使わずに仕上げてあります。箱の蓋の裏には、墨で「昭和五〇年 月 日、xxx作」と自分の名前まで書いてあるところを見ると、相当の自信作だったのでしょう。石のように固くなった鰹節をおそるおそるかんなの歯に当ててみると、ちゃんと削れます。子どもの頃、お正月が近づくと、祖母や母から、お雑煮の出汁とりのために鰹節削りの仕事を命じられたことを思い出しました。もうずっとしていなかった作業です。削りあがった鰹節に昆布も加えて、本格的な出汁をとりました。ぴかままさん自作の味醂(ぴかままさん、またもDanke!)とキッコーマン醤油を煮立て、そこに出汁をそそぎました。わが家には油揚げなどという上等なものはないし、わざわざ天カスや天ぷらを作るのも面倒なので、かけの汁には、ちょうどあったポロネギを入れて煮込んだだけです。だから、なんとも質素なかけうどんとなったわけですが。ポロネギと刻みネギ・七味だけのかけうどん posted by (C)solar08これがねえ、ほーんとにおいしかったの!うどんには適度にコシがあって、汁もふだん出汁の元の粉でつくるのとは大違い。見た目には悪いけれど、私にとってはそんじょそこらのヨーロッパ飯いおりずーっとおいしかった。私が作ったとは信じられない出来でした。やっぱり、手をかけると、食事はおいしくできるんですねえ。幸せな一瞬を今日は味わえました。ところで鰹節削り器を出したときに、奥にどこから来たのか、ブラジル産のスピリッツのビンを見つけました。実は最近、オレンジピールのレシピを探してい中で、オレンジリキュールのレシピに行き当たったりました。つくり方はとても簡単。無農薬のオレンジ二個の皮をすりおろして、200mlぐらいのホワイトリカーに砂糖といっしょにつけておくだけ。私はホワイトリカーの代りに、果実のスピリッツとラム酒を混ぜたのですが、オレンジの香りがなんともいえず素敵で、ケーキやアイスクリームをより豪華な味にするには最適です。再発見したブラジル産スピリッツでも、オレンジリキュールを作ってみようと思っています。ちなみに、最近こちらの新聞に、オレンジの皮をきざんで数日干してから、グラン・マニエといっしょにミキサーにかけてクリーム状にしてつくるオレンジリキュールが紹介されていました。まだ試していないけれど、これもおいしそう。