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カテゴリ:小説
急逝
話すべき相手がもうアナタしかいません。だから私のわがままを許して下さい。 自分から連絡を絶っておきながら突然にメールをしてごめんなさい。 あたしの父が急逝しました。くも膜下出血でした。会社の帰りに、駅の洗面所で倒れたのです。 発見されたのは翌日になってからでした。49歳でした。 あたしは母とも幼いとき死別しています。兄弟もいません。 だからもうあたしには自分を語るべき相手がアナタしか居ないのです。 あたしはこんな身体なので唯一の縁者の、父の母の妹の娘夫婦の所へ行くことになりました。場所は鹿児島です。温暖で養生するには良いところです。 ただもう本当にあたしは一人になってしまいました。 アナタを忘れたことはありませんでした。 父の居る時は忘れようとしていたけれど、忘れられませんでした。 あたしにはアナタの優しい言葉が必要なのだと、今更気づきました。 又以前のように話し相手になってくれませんか? とてもわがままなお願いだとは承知しています。 あたしは嫌な女です。 でももうアナタしか居ないのです。 アナタしか。 返事を待っています。 そして、ごめんなさい。 綾女 このメールが来たのはまだ夏の名残が激しい9月の半ばだった。 僕はそれまでの3月余り、毎夜酒を飲んで過ごした。 一晩で7~8杯のロックグラスを空にしていつも泥酔状態だった。 綾女との連絡をが途絶えた悲しみを紛らせたかったからだ。 おかげで胃をやられてしまい、吐血することもあった。 仕事も休みがちになり、鬱の出ることも多くなっていた。 そんな時は3日3晩ベッドで、ろくに食事も取らず横になっていた。 何もかもが億劫になっていた。生きることさえもだ。 抗鬱剤や精神安定剤の量も3倍近くになっていた。 体重が8キロも落ちゲッソリとしていた。 しかしそれでも、僕はまだ生きていた。 救いだったのは杏の存在だった。 彼女は時々僕のアパートへ足を運び食事の世話をしてくれた。 おかげでなんとか生きていられたのだ。 僕は綾女のメールを読み終えると。 自分の住所と本名を記し、何か有ったら直ぐにここへ連絡するよう彼女の保護者に伝えておくように書いた。 そしてそちらの住所を知らせてくれるよう頼んだ。 僕に出来ることなら何でもするから、以前のように連絡を待っていると書き添え返信ボタンを押した。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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