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カテゴリ:小説
「アナタこの間あたしと20も歳が違うって言ったでしょう?」
「そうだったかな」 杏は相変わらず週に2日僕の部屋へ通って来る。 「言ったわよ。アナタあたしが愛と同い歳だってこと忘れちゃったの?」 愛と言うのは僕の以前の恋人で、杏の友人でも有った。 「忘れていたかもしれない」 僕は灰皿代わりのコーラの空き缶にラッキーストライクの灰を落としながら言った。 「結構冷たい人だったのね」 僕は答える代わりに煙を宙に向かって吐き出した。 「愛のことも忘れちゃったの?」 「忘れるはずがない」 僕は間髪を入れずに答えた。少し声が荒かったかもしれない。 「彼女のことは忘れられるわけがないよ」 「もし忘れられるのなら、毎晩不眠症に悩んだりはしない」 「でも今はエリスさんに恋してるわけね?」 「何故そう思うんだ?」 「エリスさんのことが気になって、それで胃に穴が空くほどお酒を飲んだんでしょう?」 「だから何で僕がエリスに恋すると、胃に穴が空くほど酒を飲まなきゃいけないんだ? だいたい何時僕がエリスに恋をしたと言った?」 僕はいつになく強い口調になっていた。 あまりにも的を射ていたからだ。 「アナタはあんな無茶な飲み方したこと無かったじゃない? 何時も落ち着いていて月を見ながらゆっくり飲んでた。それがエリスさんに遭ってから急にあんな飲みかたになって」 僕は黙っていた。 「あたし今日で24歳になったのよ。知らなかったでしょう?」 杏は話題を変えた。 「今日?」 「そう、今日が誕生日なの。一緒に祝ってくれない?」 「ああ、ワインとキャンドルとケーキを買いに行こう」 「ううん。そう言うのじゃなくていいの。もっと簡単なことでいいの」 「どんなこと?」 「キスして」 大きな目を、一際大きく見開いて 杏は僕の目を見つめた。 吸い込まれそうな瞳だった。そして圧倒的な瞳だった。 僕は理性を無くして、杏の唇に自分のそれを重ねた。 「……」 僕らは唇を離した。 「あたしアナタのこと好きよ。アナタはどう思ってるのかしら?」 今更ながらも、はっきりと告白されて僕はたじろいだ。 「僕も好きだよ」 そう言う以外にない。事実僕は彼女が好きだった。友人として。 しかもこの前の突然のキッス以来、僕の恋心は揺れていたのだから。 「でも誤解しないで欲しい。君のことは大切な、とても大切な友人だと思ってる。 僕は君を失いたくない。だからはっきり言って恋人にはなれないよ。 今のキッスはプレゼントだからね」 僕は慌てて弁解した。自分の本心に嘘をついて。 「愛とは付き合ってたくせに、あたしじゃダメなの?同じ17歳違いじゃない」 「そう言う問題じゃなくてね…」 「やっぱりエリスさんね」 杏は断定的に言った。 「あたし諦めないから。愛よりアナタを愛してみせる。それにエリスさんよりもね」 そう言うと杏は立ちあがり、ドアの方へ歩いていく。 ミュールを履きドアを開け、去り際に振り向いて。 「プレゼントをありがとう」 と少し意地の悪い顔で言った。 カチリとドアが閉まった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/05/26 10:18:08 PM
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