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砂菩に詠む月

砂菩に詠む月

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 くーる31@ 相互リンク 突然のコメント、失礼いたします。 私は…
 殿ヨーク@ こんばんわ 砂さんだー
 王様@ 潮 吹 きジェットw サチにバ イ ブ突っ込んだ状態でジェット…
 お猿@ やっちまったなぁ! http://feti.findeath.net/9fx91h7/ ちょ…
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カテゴリ:小説
 雨だ。
冬の雨ほど心寂しいものはない。そう思う。
まったくただでさえ寒いのに心まで凍えそうだ。
 「せめて雪なら、まだ風流に思えるんだけどな」
そんなことを呟きながらバーの階段をおりる。
一歩ビルを出たときだった。

 「やめてください!」
このビルの裏手だろうか。
女性と思しき声が響いた。叫び声にあと数ミリといった声だ。
歩道に沿ってビルを周ってみると、派手な刺繍のはいったスカジャンをはおり 太いカーゴパンツの裾を 引きずるように腰履きにした若い男たちが3人暗がりに向かって立っていた。
そのガニ股に開いた脚の隙間から、恐らくは黒であろうヒールが見えた。
(やっべーな、あからさまに不審じゃないか。近寄りたくないなぁ)と思ったとき。
男の一人が振り向いた。
いぶかしげにこちらに視線をくれる。
僕は目を合わせないように視線を下げ、そいつの腰の辺りを見ながらタバコを取り出し火を点けた。
もちろん立ち止まったままだ。内心はすぐに立ち去りたかったが。

 「あーん?何見てんだ オッサン!」

こういったときによく聞く台詞を男は臆面なく投げてきた。
(ついてないな)と思いながら。

 「いや、何か大きな声がしたから振り向いただけだ」

言い終わるとほかの2人も体をこちらに向けた。
威圧的な視線を効果的に向けて。それは十分に臨床心理学的に経験をつまれた視線だ。
そのまま初めの1人が一歩踏み出してくる。
(うっわー、この展開は絶対どうやっても同じ結果しかないよなー経験的に)
分かっているのだ。分かっているのだが逃げ出すわけにもいかない。
奴らの向こうには女性がいて、こんな雑居ビルの裏で壁を背にして男に囲まれている。
友好的にお茶に誘われているとはキリスト様でも考えないだろう。

 「オッサン、どけよ!」

先刻の3倍以上の音量だ。
僕は覚悟を決めた。

 「その娘の知り合いだ、上の店で一緒に一杯やることになって……」

 「一人で行けや!!」

その返事は読んでいた。
声が終わる前に僕は、体を動かすことに成功した。
一番近い男まであと一歩の距離。

相手はこういうことに慣れているらしい。すぐにポケットから腕が伸びてきた。
右の拳を外側から僕の左耳の辺りへ振り込んでくる。
僕は相手がポケットから手を出した時点で、すでに諦めていたから避けもしなかった。
 
 ガツン!

奴の拳骨は、ほぼお互いが予想したとおりの部位に見事着弾した。
軽い振動を感じる。体が少しよろめく。
僕は前のめりに足を踏み出していた。
その刹那に僕の体は一気に血流が早まり、毛細血管は開き 痛覚は一時的に感覚を麻痺してしまった。
そこから先はもう何も考えてはいない。
僕は反射的に、そしてがむしゃらに突進していた。

左手は奴の顔をめがけ突き出され、右足が深く踏み込んでいく。
相手は反射的に身を反らす。
僕は右足が着地しきると同時に、体を右に捻り右の拳を握手のように立てたまま、的を定めず中段に突き出す。
奴の腹の辺りに拳が届いた。

普通ならここまでで一発が終わるところだ。
が、そうはならなかった。

立ち木に向かって毎日打ち込み稽古をしていた僕の体は、覚えた動作を終えていなかった。

初めに突き出した左手が体の捻りに応じて引き戻されつつある。
そこから一気に真後ろまで肘を重心に振り出される。
膝は徐々に深く折れ体は完全に右回転となり、踏み込んだ右足を軸に独楽のように半身になるまで回る。
相手に当たった右拳は自分の顔に向け引き付けられ、代わりに肘の骨が相手に突きこまれていく。
右手のひらがが自分のこめかみに添えられたとき、その肘は相手の懐に突き刺さる。

--頂心肘・虎抱頭--(ちょうしんちゅう・こほうとう)

そのイメージを日に数百回描きながら、木の幹にぶつかってきた。
あの若い日のことをまだ、体は覚えていた。

幹よりずいぶんと柔らかな男の体は、僕の体にそれほどの負荷を感じさせなかった。
なので当たったことに気づかず、すぐに後ろに回り終えた左手をバットのように振りながら今度は体を左回転させる。

--弓歩架打--(きゅうほかだ)

本来は後ろ足も前に踏み込みながら左半身になり

--馬歩横打--(まほおうだ)

となるのだが、実戦中に足を踏みかえる余裕はまずない。
よほどの上級者でなければそういった動きはできない。

しかしそれでも効果は十分だった様だ。
左腕が奴に当たると、まるで立てかけた棒を払いのけたように横に

 パタン。

と、倒れてしまった。

それを感じたときに僕は無意識に叫び声を上げていた。

「ウオーーラッ!」

残りの二人は近寄ってこなかった。
幸いだったのは僕だったのか、奴らだったのか。
僕はまだふらつく足加減で奴らに半歩づつ近づいていった。
しかし男たちは2人であるにもかかわらず、僕との間に等距離を保ったまま 弧を描きながら道のほうへ後ずさった。
倒れた奴はまだ起き上がらない。

ここへきてようやく、僕は興奮が冷めてきた。
男たちに向かって
 
「よう、もういいだろ?」

いつもよりずいぶん低い声だったように思う。
男たちは返事こそしなかったが、倒れた仲間を立たせて少しづつ離れていった。
数十秒して、もう普通の声で会話ができないくらいの距離になるとやっと背を向けて歩き出した。
(やれやれ)
行ってくれてホッとした。
僕は壁と壁の角に身を引っ付けて、バッグを胸に抱えたまま 未だ呆然としていた女性に声をかけた。


「大丈夫ですか」

彼女はふるふると髪を震わせたまま、遠巻きに僕を避けるように壁に背をつけて横歩きをした。
そして壁が途切れると何も言わずに慌てて走り出した。
逃げるように。

いや、彼女は逃げたのだ。
野蛮な暴力男から。

だから揉め事は嫌いだ。
と、僕は思う。

痛い思いをしても、いつも結果は同じだから。

漫画みたいに相手をやっつけたらヒーローってわけじゃない。
最初に殴られた部分がようやく痛みだした。
感覚が戻ったのだ。
僕は改めてタバコを取り出し、まだ興奮が残って震える手をなだめながらZIPPOを擦った。
一息吸い込んだタバコの味は、いつもよりもずいぶんと、本当にずいぶんと苦かった。

-FIN-














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Last updated  2007/01/19 01:43:47 PM
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