天の欠片に時の切れ切れ
「石田君、誕生日おめでとう!」嬉しい言葉である。羨ましい言葉である。でも何故か冷や汗をかく当人と級友一同。若干名除く。「あ、ありがとう井上さん」「はい、これプレゼント!」そう言って織姫がかばんから取り出したのは、御馴染み「ひまわりソーイング」の紙袋で、何処となくほっとした空気が流れた。……これで中身が手作りだった日には、目も当てられないが。「石田君、今度はパッチワークやるって言ってたから、端切れを買ってきたの」「ありがとう、助かるよ」友人の祝い事のたびに、そのハイセンスで周囲をパニックに陥れてきた彼女にしては、信じられないほど尋常な贈り物だ。明日は雪が降るかもしれない。「啓吾、肩たたき券って……」「うっせー、金がなかったんだよ!それに眼鏡かけてる奴って、肩が凝るっていうじゃん!」別に凝ってないけど。まあ水色と一護に突っ込まれている程度で十分に思えるので、石田はありがたく頂くことにした。水色が寄越したのは某レストランの招待券。当然出所を聞かれたが軽くかわす。チャドは、「チャド、一月間違ってる」「え?」「瑠璃は十二月の誕生石」「……」物が指輪だけに一瞬寒々しい空気が流れたが、「関係ない」「え?」簡潔すぎる弁明に、水色が目を丸くする。「魔除けだ」「……ああ、プロポーズじゃなかったんだ。ごめんね、余計なこと言って」その一言こそ余計だ。全て計算済みで言っているからたちが悪い。「綺麗だね。ありがとう」「「青い石」とか、「天の欠片」とか言うらしい」「ああ、わかる気がするよ」濃い青の中に、ほのかに金色が輝いている。「そういえば黒崎、お祝いかわりに夕飯に呼んでくれるって話だけど」「ああ、たまにゃ人の作った飯を食うのもいいだろ。言っとくけど、うちの遊子の飯は結構旨いぜ」「期待してるよ」確かに、黒崎遊子は頑張った。黒崎夏梨も地味に頑張った。頑張ったのだが、石田親子がぎすぎすと会話を交わし、それを黒崎父が全力で混ぜっ返したその晩の献立がなんだったか、兄は正直全く覚えていない。