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2024.03.18
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カテゴリ:読書


最近は、『三体』の影響か、日本にも中華SFが流行っているように思う。
といっても、『鋼鉄紅女』の著者、シーラン・ジェイ・ジャオは中国生まれではあるけれど5歳のころカナダに移住しているし、中国人作家ではないのだが、『鋼鉄紅女』は中国っぽい世界観なので、とりあえず中華SFということで話をすすめる。
ネタバレもガンガンしているくので、その点了承ください。


鋼鉄紅女 (ハヤカワ文庫SF) [ シーラン・ジェイ・ジャオ ]

さて、『鋼鉄紅女』を一言でいえば、「女性主人公が巨大ロボに乗って巨大異星人と戦う」ということになる。
巨大ロボといえば日本アニメでよく見るものであるが、著者は『新世紀エヴァンゲリオン』やら『進撃の巨人』といった日本のアニメを見ているそうなので、日本アニメの影響も入っているのだろう。
そして主人公は武則天である。といっても、あの歴史上の女帝・武則天本人ではない。
本作の仕掛けとして、登場人物名が中国の歴史上の人物から取られていて、武則天が姉のカタキとして命を狙ってるキャラとして楊広が、巨大ロボ朱雀のパイロットとして李世民が、また軍師として司馬懿や諸葛亮が出てくる。
どことなく性格や出自がオリジナルとは似ている部分はあるが、特に関係はないというべきか。


新世紀エヴァンゲリオン(5) 墓標 (Kadokawa Comics A) [ 貞本義行 ]

総評として、面白いことは面白い。
それは、本作が英国SF協会賞等、複数の賞をもらっていることからも分かるだろう。
だが、巨大ロボアニメに慣れ切った日本人向けかと言うと、さほどの新奇性はなく、普通かもしれない。

確かに、「女性主人公が巨大ロボに乗る」というのは珍しいかもしれない。ただ、女性主人公が巨大ロボのパイロットになるというのは、『クロスアンジュ』なんかがまさにそうだ。そして、本作に遅れる形にいなるが、『機動戦士ガンダム水星の魔女』も同じく女性主人公が巨大ロボに搭乗する。
主人公ではないものの、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイやアスカも女性パイロットである。
なので、「女性主人公が巨大ロボに乗る」というのはさほどの新奇性がない。


クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Blu-ray BOX(初回生産限定版)【Blu-ray】 [ 水樹奈々 ]

次に、「巨大ロボは男女のペアで搭乗しなければならない」という点である。
しかも、女性側の霊圧が低い場合、死亡してしまう使い捨てになるので、楊広や李世民といった強い霊圧を持つエースパイロットは女性を使い捨てにしているというのだ。使い捨てにされず、生き残れる女性は作中でも朱元璋のパートナーである馬秀英や、楊堅のパートナーである独孤伽羅などに限定される。
男女パートナー設定は少し珍しいかもしれないが、『コードギアス』なんかを見ていると主人公であるルルーシュは、パートナーのCCといっしょに巨大ロボに搭乗しているし、レンジャーものの特撮なんかだと5人で巨大ロボに乗っている。探せばもっとあるかもしれない。
よって、「少女パイロット使い捨て」という部分はともかく、「巨大ロボに男女ペアで乗る」というのも、さほどの新奇性はない。

世界観も、終盤にどんでん返しの真実が出てくるけれど、これもどこかで見たことはある。
異星人だと思っていた怪物は、実はもともと主人公たちの星の原住民というべきものであり、人類こそが植民のため地球からやってきた侵略者だったというのだ。
このへんも『猿の惑星』と似通っていて、さほどの新奇性を感じられないのかもしれない。

先に新奇性を否定してしまったけれど、やはり外国人作家なので感性は大きく日本人と違っていて、そこに面白さはあったと思う。
特に感じたのが主人公である武則天の強烈なフェニミズム思想であろうか。
まず、武則天は親に纏足をされ、満足に走り回ったりできない。常時、足の痛みに耐えなければならないし、纏足をしていない異民族や、同じ漢族でも纏足をしていない馬秀英なんかをうらやんでいたりする。
そして、先ほど僕が新奇性を否定しきれなかった「エースパイロットが少女パイロットを使い捨てにしている」という設定である。
この点について、武則天は激しい怒りを感じている。
いや、武則天の怒りは社会そのものである。弟は跡継ぎとして大事にされる一方、姉は死ぬと分かっていながら妾女パイロットとして親に売られてしまい、自身も親に使い捨ての妾女パイロットとして売られてしまう。
そして、自分の母や祖母は、父だったり祖父なんかに隷属させられており、暴力を振るわれていても反抗すらできない。
ある意味で纏足というのは、2019年ころに日本でもはやったKuToo運動(女性にハイヒールを強制することの是非)を思い出させる。

武則天はこういった男性優位の社会に反抗し、普通は使い捨てになるところ、逆に巨大ロボ「九尾狐」のパイロット楊広を死なせて生き残り、「鉄寡婦」の異名を得る。
そして、異民族の血を引き、父と兄弟を殺した「鉄魔」の李世民とコンビを組んで巨大ロボ「朱雀」に搭乗するのだ。
最終的に、武則天は史上最高の霊圧を持つ伝説のパイロット、秦政と巨大ロボ「黄龍」に乗ってクーデターを起こすことになる。
個人的に、秦政というキャラは非常に面白かった。この秦政は最強のキャラであったあのだが、花痘という病気になってしまい、治療法が見つかるまで200年以上も冬眠していたのだ。「いつか復活する英雄」というと、アーサー王を感じさせるよね。

ある意味で、武則天が次々とパートナーである男性パイロットを乗り換えているのは、歴史上の武則天にもあった性的な奔放を表しているのかもしれない。
実際、歴史上の楊広李世民なんかも、使い捨てにするように女性を扱っていたのかもしれない。それでも彼らは英雄である。それがゆえに、英雄でなくなるわけでもない。
武則天も、女が同じことをしても問題はない。それでも彼女は英雄なのだ。
…というか、作中で武則天の恋人である高易之が登場するが、キャラが弱いんだよ。なかなか武則天に釣り合う男がいないのだ。


鋼鉄紅女 (ハヤカワ文庫SF) [ シーラン・ジェイ・ジャオ ]





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最終更新日  2024.03.18 13:26:15
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