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カテゴリ:変則書評:『ローマ人の物語』
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塩野七生著『ローマ人の物語』(15) パクス・ロマーナ(中)(新潮文庫) 読破ゲージ: ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ *********************************************************** 健全な「国家」は健全な「家族」の保護と育成なしには成立せず。自制の人・アウグストゥスの少子化対策。多産奨励、倫理遵守、ローマ的「法の精神」を推進。不倫は文化ではない、と。バランス感覚抜群のアウグストゥス、本領発揮の次代。バランス感覚とは、矛盾の中間を確保するため、両極を行き来する永遠の移動行為。然り。後に保守的とされるアウグストゥス、マキャヴェッリはすでに、アウグストゥスの革新性を看破していた。曰く、カエサル一人が革新的なのではなく、カエサルですら、暗殺を免れていたら順当に政策を実現していたかどうか、と。多神教世界のローマでは、アウグストゥスが「霊(ジェニウス)」的存在へと消化して行くことは自然の成り行き。アウグストゥスのパクス・ロマーナは、防衛線の拡充。んなるほど、ガリア征服以降、防衛線は、山でなく河。河ならば対岸が見える。対岸が見えれば敵兵が見える。敵兵が見えないことが、戦場での最大の不安要素という経験知。この時期のパクス・ロマーナ、フロントラインはアグリッパに加え、横恋慕の賜り物、愛妻の連れ子の若武者・ティベリウス&ドゥルースス兄弟が担当。微笑ましき絆の力は、史上初の皇帝廟となる「平和の祭壇(アラ・パチス)」に残る“家族の肖像”が証明。共同体防衛には軍事再編成で臨む。共同体維持は、共同体防衛の義務の履行で成り立つ。あわせて、安全保障(セクリタリス)構想を方針に据え税制改革なども断行。長い防衛線の堅守軍縮で処するは、逆転の発想。数の確保の困難は、防衛力の効率性と質向上で補填。軍制再編成の中でも出色は「近衛軍団」創設。アウグストゥスの「精神」がオクタヴィアヌスなら、その「身体」であったアグリッパ逝く。アグリッパ、無名の人なれど、無学の武人にはあらず。公共建造物や建築にも辣腕発揮、南仏のポン・デュ・ガール(水道橋)は今に遺る傑作。公共の人は、反面私邸の所在も不明、無私の人。真、傑物なり。次いでアウグストゥスの「頭脳」であったマエケナス、逝去。隠密活動のためだけに、公的キャリアをすべて、喜んで投げ出したまたも無私の義人。まさに、アウグストゥスというカエサルの後継者は、オクタヴィアヌス、アグリッパ、マエケナスの共同名義のようであった。今や、アウグストゥスは、アウグストゥスその人、つまりオクタヴィアヌスがひとりで背負わねばならない。我が世の春は、夏を飛び越して激動の晩秋へ。悲願のゲルマニア戦線では、若き希望、ティベリウス&ドゥルースス兄弟が頼みの綱。行政改革では「州」制を導入。以降のローマ帝国は、史上どの国よりも、後のアメリカ合衆国に似ていたのだと。ちなみに、古代ローマの選挙の方法は、アメリカ合衆国の大統領選と似ているとか。どこか、偉大なる父・カエサルを思わせた快活なる期待の弟・ドゥルースス、死す。ローマの死生観は、非宗教的・非哲学的ゆえに健全だったようで、「人間」=「死すべき者」。とはいえ、情けは古今、洋の東西を問わず。ドゥルーススの死は、アウグストゥスに、血縁主義への妄執を植え付ける決定的事件。なに、ティベリウスがいるじゃないか。とはいかないのが、辛いところ。似た気質ゆえの反発か、ドゥルースス、愛弟の死を機に、命令遵守には、老いたりといえどもやはり厳格主義のアウグストゥスの命に背く形で、戦線を引き上げ隠居生活へ。皇帝の懊悩は、一人の父親としての苦悩へと変質してゆく。(了) ローマ人の物語(15) ■「旅から、音楽から、映画から、体験から生死が見える。」 著書です:『何のために生き、死ぬの?』(地湧社)。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/11/22 12:12:04 AM
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