テーマ:好きなクラシック(2283)
カテゴリ:クラシック
「敬意を払う」ということ
826Asukaさんのスター・ウォーズ演奏がきっかけで、彼女の動画サイトをちょくちょく拝見したりコメントしたりしているのですが、これはどこのサイトでもそうですが、時にしたり顔でその演奏を揶揄したり貶したりする書き込みもあるわけです。 大半はよくある雑音レベルの投稿で相手にすることもないのですが、中にはそのまま放っておけない内容のものもある。しかしそうした中味に反駁すれば、たちまち相手の土俵に乗ることになり、他人の庭でその持ち主とは関係のない論争を仕掛けるという、はなはだ無粋な仕儀となるわけです。 そこで私としては、引き続き彼女の演奏をなごやかに楽しみたいので、あちらのコメントで気になった事柄については、こちらで解消することにします。とはいえ、一つ一つの事例を挙げてどうのこうの言うのもこれまた大人気ないし、ここではもう少し全般的かつポジな話にしてみたいと思っています。 揶揄する投稿で今のところ一番多いのは「あれくらいの演奏なら、他にも大勢弾ける人がいる」というもので、中には彼女よりずうっと以前から(要は小さい時から)SWを弾いていたとか、音大生やプロならもっと上手い(あたりまえでしょう)といった類のものです。 小さい時から云々というのは、彼女を「天才」と喧伝する投稿に対するやっかみなのですが、これは前にも言いましたが、八歳ごろから十四歳くらいというのは、ヒトの持ち味だの個性が、多少の時間差や違いはあっても、大人に向って「爆発的に開花する時期」にあたり、ヴァイオリンとかピアノあるいは野球やサッカーのような世界では、ちょくちょく見られる現象で、それ自体はそんなに大騒ぎすることではない。 そうではなくて、Asukaさん(と、その御一家)の手柄というのは、そのエレクトーンによるSW演奏で、今どきの電子楽器の現状を「一瞬にして、一般世間に周知させた」、という一点に尽きるのではないか。もちろんその裏には、ものすごい練習と熱心な指導があったはずですが、これもまたエレクトーンに限らず、「子供~教室」ではよく見られる光景でしょう。ではそうした数多くのご家庭と、彼女たちを結果的に差別化しているのは何なのだろう、というのが目下私が思案しているところです。 「他にも弾ける人が…」とか「技術はこの歳なら普通…」というなら、ではなぜその人たちは今まで「エレクトーンを世間に周知させられなかったのか」という問いに答えることが出来ない。と、こういう言い方をすると、必ず「そりゃ、タイミングがよかったのさ」だの「外国メディアが取り上げたからね」といった声が返って来そうですが、たぶんそうではないだろうというのが私の見立てで、その秘密は間違いなく動画の中味そのものにあると思っているのです。 で、結論から言ってしまうと、それはたぶん作曲家や編曲者、そして聴き手(要はすべての他者)に対する「深い敬意」が、音楽作りを介してそこから感じられる、ということなのだと思う。早い話、これだけ丁寧な演奏をきれいなパッケージで差し出されたら、誰だって背筋を正して聴かざるを得ないじゃないですか。 あまり言いたくはないけど、動画サイトにアップされるエレクトーン演奏の大半は(残念ながらプロの方も含めて)、「これも弾けます、あれも弾けます」みたいな、さながらスーパーの特売所の観を呈していて、作品発表の姿勢としては、はなはだ雑な感じがする(全部を観たわけじゃないけど)。そういう空気感というのは、ドアが開いた瞬間何となく分るもので、そうなると必要な時以外は「二度と来るまい」と、たいていの聴き手は思ってしまうのではないか? Asukaさんの動画が面白いのは、遊び心満載の画像作りが丁寧な包装紙をなしていて、大いに演奏を引き立てているのですが、肝心なのは、その演奏じたいは「画像を必要としていない」ということです。つまり画像なしで聴いても彼女の音楽は充分楽しめる。ごく専門的な技術の指摘や注文は、当然あってしかるべしですが、ミスタッチに類することは、エレクトーンに限らずプロの演奏家でも、けっこうあること。真の演奏家はそれでも「聴き手に音楽を届けてしまえる」人たちなのです。 動画サイト全般で残念なのは、作り手側(この場合は演奏者)に「ここは、こんなものだろう」というような、「一丁上がり」的感覚が漂っていることで、要はそこには「周囲に対する敬意」も「自身に対する矜持」も感じられない。周囲に対して「敬意を払う」というのは、気兼ねとか謙遜とはまったく違う。自身をキチンと扱ってもらうために、要は自身の「矜持」を保つためにそうするのです(言っておきますが、どこぞ?の政治家のように、上から目線で傲然と振る舞うことは、ここから先も我が身の「矜持」を保つことにはならないのですよ)。 高い敬意を払って演奏されたら、そういう取り扱いを受けた作曲者や編曲者は、よりいっそう高い作品造りを目指さざるを得ない。同じことは受け手である私たちも背筋を正して聴くことを迫られる。デパートに行くときとスーパーとでは、多少気分を変えるでしょう。昔は女の人なら服装まで変えたんじゃないか(まあ古いですが!)。 いずれにしても、それは結果的に演奏者にプラスに働くのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[クラシック] カテゴリの最新記事
やっと巡り会えた、この話をありがとうございます。なぜ何度も聞きたくなるのか納得できました。
(2019.06.25 00:10:44)
三年ほど前に826asukaさんのことを知り、何だか誘われるようにして、音楽全般のことを、長々といささか興奮気味にしゃべっています。
またいつでもコメントください。 (2019.06.26 01:56:13)
再びおじゃまします。
826askaさんのYouTube動画《ショウ・ミー・ユア・ファイアートラック》のコメントを読んで、読みたかったのはこれだ、と思ったら貴方のコメントでした。 彼女の演奏を聴くと映像が浮かぶことが多いのですが、彼女の年齢でそんなイメージで演奏できるのか?と頭の中をモヤモヤが巡っていました。それで、これは きっと作曲者のイメージを彼女が譜面を通して伝えてるからなのかと思ってみました。 あなたのコメントを読んでスッキリしました。ありがとうございました。 #良いと思った気持ちに忠実に従って、彼女の演奏会に足を運びました。 (2019.08.02 01:26:16)
cocolateさんへ
私自身、彼女の演奏に刺激されて、「音楽の本質とは、結局何だろう?」みたいなごく素朴な疑問を、ずうっと手持ちのつたない知識と経験を総動員して、ちょっとずつ考えています。 それにしても、生演奏に行けてラッキーでしたね。またその様子もお知らせください。 (2019.08.07 09:36:48) |
|