テルマエ・ロマエ
ちょくちょく覗きに行くサイトさんで少し前に「お風呂をうめる」という言葉についてアンケートをとっていた。サイト主さんは私より若い首都圏の女性でこの言葉をご存じなく、けれどお友だち(こちらもたぶん私より若い中部の女性。味噌汁も「うめる」そう)から聞いたのを皮切りに、身近な人に聞きまくったところかなりの率で「使ってる」「知ってる」「聞いたことがある」、というわけで好奇心旺盛な彼女は、自サイトでアンケートを募ったというわけ。「お風呂をうめる」という言葉、知ってますか使ってますか、と。人気サイトさんなので、このクチコミテーマでおわかりの方も多いかも。 ちなみに「うめる」とは、温度が高いものに水を差し入れることで温度を下げること。つまり「お風呂を(水で)うめる」。辞書ではお風呂くらいしか用例が無いらしい。御湯という言い方ではあるが、なんと「紫式部日記」にも用例アリ。あれは学生時代原文でもざっとは読んでいたはずだけれど、気にも留めてなかったなあ。同輩が中宮のためにお湯を用意している描写らしい。まあとりたてて気にならないくらい「うめる」が私にとっては普通に身近な言葉だったということか。と言ってもお風呂関係の言葉であるがゆえに、私自身は家族と親戚の間でしかこの言葉を聞いたことがなく、使うときのニュアンスも含め、これは九州中部の方言であろうと思っていた。 そんなことも含めて私もそのアンケートに回答を寄せていて、先日その結果が発表になった。「どちらかというと女性語で、でもそれは言葉というより概念が男らしくない(お風呂の温度を下げるなんて!)、と男性陣は使わなかったのかも」と回答したのがサイト主さんにはツボだったようで。九州男児はお風呂が少々熱かったからって、水は入れませんからねえ普通。で注記で九州二翼なら(←ファンサイトなのでそのジャンルの話)剛の人はまず使わない、柔の人は使ってもおかしくないと書いたわけ。根っからの自由人は男らしさにこだわったりはしないだろうから。いやもう一人もマッチョとは思ってませんよ、良い意味で古風だけど。彼らの妹達は普通に使う。兄ちゃんの後はうめんと入れんっちゃ! あと味噌汁はうちでは「うめる」は使わなかったけれど、お茶や飲料用の白湯(どちらも「おぶう」と言っていた。お湯のことですね。あ、お風呂も祖母は「おぶう」って言ってた。小さい子へはおぶちゃんとか。でもあの辺は方言というより武家言葉なのかも。小倉藩士の娘)は熱いとうめてもらっていた。お茶の水割り。 で、結果を言えば、九州方言と思っていたのは私の思いこみ、確かに九州ではまだまだ日常的な言葉で、日本でもこの言葉が「生きて」いる地域だとは言えるけれど、「知ってる」「使ったことがある」層は日本全土にちらばっているのだ。私のもう一人の祖母は東京育ちで、親族でもひとり「うめり」とは言わず「ぬるくなさい」と言っていたから東京では言わないのかと思っていたけれど。祖母は養家で公家言葉で育てられたので、その子である我が母の幼少期は「おもうさんおたあさん(父母の呼称)」と豊後弁が混在した愉快なものだったらしい。折角なので亭主殿にも聞いてみると、そう言えば使っていた記憶が…という話に。幼児期を過ごした群馬でのことかな。 アンケートの結果を受けて、サイト主さんは風呂温度の調節が自在にコントロールできるようになって廃れてきたのでは、という説を展開されていた。必要がなければ言葉は使われなくなる。やがてはなくなる。そういうものだ。テルマエ・ロマエ 1価格:714円(税込) ヤマザキマリ エンターブレイン/角川グループパブリック Beam comix さて、今日の本はお風呂つながりということで、巷で話題のこれです。『テルマエ・ロマエ』これがまだ1巻目。次がすごく楽しみな一方で、このネタでは早晩アイディアがなくなってしまうのではとちょっと心配もしたりして。でも近日発売の2巻の予告に「さらにパワーアップし、さらに馬鹿馬鹿しくなって」と書いてあるので大丈夫か。 センスが古いとクビになったスランプ中の古代ローマの風呂設計技師が、気分転換に入った公衆浴場からなぜか現代日本の温泉にタイムスリップ! 再びローマに戻った彼は後ろめたさを抱えながらも、浴場にヴェスヴィオ火山を描いたり(富士山の絵がそう見えた)、冷やした牛乳を風呂上がりのサービスとして出したりして、最新センスの風呂つくりとして一躍時の人に。タイムスリップを重ね、日本の温泉(彼は自分の時代の「平たい顔族」の風呂に迷い込んだものとしか認識していない)の猿真似でしかないことに忸怩たるものをおぼえつつ、見たものを生かしていくうちに、やがては賢帝ハドリアヌスからも招請が…! 基本的に善人しか出てこないし、主人公はとことん気まじめなだけなので、食い足らない人もいるとは思うが、交通事故のリハビリに来ているトラックの運ちゃんの針あとだらけの身体を見て、歴戦の百人隊長とカン違いしちゃうような主人公を、私は嫌いではない。とりあえず温泉好きなら古代ローマの知識がそれほどなくても楽しめます。こっちから入って塩野七生に行ってもいいじゃない。塩野七生『ローマ人の物語』スペシャル・ガイドブック価格:2,100円(税込) 塩野七生/新潮社出版企画部 編 新潮社↓よろしかったら押してください