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みなさんこんばんは。円安が急激に進んでいますね。海外旅行に行く人は大変ですね。今日は森川久美さんの漫画を紹介します。

スキャンダルムーンは夜の夢 ヴァレンチーノ・シリーズ1
嘆きのトリスタン ヴァレンチーノ・シリーズ2
森川 久美
竹書房 文庫

​中世イタリアのヴェネツィアの元首は、何と女性だった。一つの国として
まだまとまっていなかったイタリアでは、権力を巡る陰謀や暗殺、そして
恋愛が花盛り。権力者の一人であるヴァレンチーノのまわりでも、
当然事件が巻き起こる。

『少女漫画界に中世ヨーロッパブームを巻き起こした』らしいこの作品を、
リアルタイムでは読まず、この文庫版で初めて読みました。
主人公の男装の麗人という設定、一話でいきなり出てくる女性どうしのキス・
シーンはそのまま宝塚に持っていけるでしょう。
主要メンバーのキャラクターは、繰り返し森川作品で使われて
いるもののバリエーション。
傍役には単純明朗タイプとして、ヴァレンチーノの幼馴染みで画家の
マーカントニオ。
対照的な影のあるタイプとして、謎めいた過去を持つ錬金術師のアエリア。
アエリアとヴァレンチーノを足して二つで割ると、
「南京路に花吹雪」の黄子満に代表される、美しく影のある主人公が
出来上がり。
ヴァレンチーノが「リボンの騎士です」と名乗ったり、
アエリアが実験を行うとランプの精が出てきたり、馬上槍試合の
騎士達の名前が「ドンキホーテ・デ・ラ・マンチャ」だったり、
台詞やキャラのネーミングで遊んでいます。コメディの部分も楽しめたのですが、
こちらが惹かれていたのは、やはり主人公のヴァレンチーノ。
火傷の跡を隠すために、ぴっちり首まである服を着て本来の自分の姿を
隠している彼女は、心にもすっぽり仮面をかぶせています。
「元首という立場上、思っている事を直ぐに悟られるようではダメ、
腹芸ができなければ」という
政治的な理由ももちろんあるでしょう。けれど、どうやら彼女自身も、
自分がかぶっている仮面を脱ぎたがってはいないように見えます。
仮面を脱いて本当の自分を見せるのはプライドが許さないのか、それとも脱いでしまって
本当の自分を見せるのが、何とも照れくさいのか。それとも、その両方の理由なのか。
怒りっぽくて皮肉屋。人に弱味なんて見せた事がない風に見える彼女の
素顔って実は、とても優しい人のように思えます。そして、為政者と
なる時に、多分、その優しさってとっても邪魔になってしまう
類いのものだから、きっと人一倍傷ついてしまうんだろう。
優しさを素直に出せない点、巧みな弁説を振るう裏で、自分の本心は
覆い隠してしまう点でアエリアとヴァレンチーノはとてもよく似ています。
だから二人とも、自分達とは違い、影を持たないマーカントニオを放っておけ
ないのでしょう。何だかんだいいつつ、バランスの取れたトリオです。

1巻収録作
「スキャンダルムーンは夜の夢」「レヴァンテの黒太子」「花のサンタ・マリア」

2巻収録作
「恋のページェント」「嘆きのトリスタン」「カスティリアの貴婦人」「月空遥かに…」


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