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売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

Nobuyuki Ota

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2023.08.27
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東北大震災の翌年3月、三越銀座店と松屋が力を合わせ銀座歩行者天国で「ジャパンデニム」をテーマに青空ファッションショーを開いたとき、開催許可が警視庁からなかなか下りず準備の時間はなく、大手広告代理店に協力をお願いする間もありませんでした。百貨店2社で協賛金を集め、十分な予算がないままどうにか全長100メートルのランウェイでショーを決行。代理店抜きなのでイベント申請も、銀座中央通りの警備も、VIPのご案内係も大規模イベント経験がない社員が担当しました。


歩行者天国でのファッションショー

しかも当日はあいにく朝から雨、座席をタオルで何度も拭き、雨カッパや傘の用意、想定外の大人数の観客整理に社員はてんてこ舞い。フィナーレの瞬間頭上に太陽が現れたのが救いでした。イベント終了後営業本部長が「次回から代理店に頼みましょうよ」、さすがにみんな疲れましたから。代理店にお願いしていたら両社の社員がへとへとになることはなかったでしょう。

東京オリンピックに絡んで元電通幹部やADK現職経営陣、さらに賄賂を贈ったとされるカドカワやアオキの経営者まで逮捕され、大きな社会問題になっています。裁判でこの五輪スキャンダルは最終的にどう収束するのか、また関係した大手広告代理店はいつになったらこれまで通りコンペに入札参加できるのか、私の仲間にも代理店関係者が少なくないので関心があります。

事件のあと代理店のことをSNSで痛烈に批判する人はたくさんいますが、私のまわりにいた代理店関係者は一生懸命サポートしてくれた誠意ある人が多かったので、ボロクソ書き込みを読むたび反論コメントを書きたくなります。ファッションというソフトなジャンルだから代理店でも優しいスタッフが助けてくれたのかもしれませんが。


私の背景が300坪の特設テント

現場の責任者として東京コレクションを始めた1985年、主催団体の東京ファッションデザイナー協議会は単なる「みなし法人」、社団法人や協同組合ではありませんでした。さらに自主運営をうたって組織化されたので協賛金の類いは一切なく、運営経費はすべて参加ブランドが負担。つまり十分な資金がないので、現場を取り仕切ってくれるプロデュース会社や代理店に仕事を頼む経済的ゆとりはありませんでした。

その上責任者の私はのど素人、それまではショーを取材して原稿を書いていた人間、何が会場設備として必要なのか、運営自体に何が必要なのか全くの無知でした。300坪の大型テントを建てたらそこにはコンセントがついていて、場内で使用する一般電気機器くらいはコンセントに差し込めば利用できると思っていましたが、テントに電源を引いてこないと場内非常灯すら使えません。作業員の昼、夕、夜食の弁当手配も事務局が手配すべきとはショーが始まったあとに知ったので、舞台美術の現場責任者が気を利かせて弁当の手配をしていました。

仮設ショー会場ですから仮設トイレや水道も用意しなくてはならないし、作業員、モデル、演出関係者、観客の人数が半端ないので仮設トイレを大量に設置しないとパンクする、そんなことにも気が回らない私ですから、イベントを熟知する代理店にお願いすれば万事スムーズだったでしょう。補助金、協賛金があればそうしたはずです。

第1回東京コレクション、300坪の別注色テントの製作と建設に提示した私の予算は440万円。当時普通のテント業者にこの大きさのテントを頼めばおよそ1000万円が相場、それを半額以下で請け負ってくれる会社を探して「将来私と付き合ったおかげで元がとれたという状況が来るよう努力しますから」と頭を下げました。

ところが、建設初日からあいにくの雨、鉄パイプは滑るので作業は難航、予定よりも組み立てに時間がかかります。作業するトビの人数を数え、作業日数をかけたらそれだけで予算オーバーする、ど素人の私でもそれくらいはわかりました。傘をさしながら「この雨で赤字ですよね」と業者のSさんに訊いたら「はい、赤字です」、でも予算をプラスする余裕はありませんでした。テント完成時に「これでトビに酒でも飲ませてやって」となんとかひねり出した20万円を手渡ししました。

実はこの数シーズン後には若いトビが鉄パイプから落下して打ちどころが悪く亡くなる事故がありました。このときも少し多めの香典を包むのが精一杯でした。

舞台美術もしかり。300坪の床をさら地から組み上げ、その上にステージを作り、多目的ホールのようにイベントができる状態に仕上げてもらう予算は850万円、こちらも相場の半分でした。夜のテントはかなり冷え込むので仮設トイレとパンチカーペットを追加で敷いてもらいました。夜中の作業中に電卓をたたいて支払えるギリギリの予算を提示したのが深夜1時頃、約250坪のパンチカーペットは朝の9時には会場に届きました。私には想像できない機動力でした。

コレクションが全て終わり、特設テントを撤収したあと責任者Oさんに「後学のために実際の見積もりを出してもらえませんか」とお願いしたら、「びっくりしますよ」と言われました。それでも本当の相場を知りたかったのでお願いしたら、出血大サービスで1700万円の明細が届きました。もちろん支払ったのは当初提示した850万円プラス追加してもらった仮設トイレ、パンチカーペット代のみ。テント業者同様手持ち資金はありませんから出世払いを約束するしかありませんでした。

テントの設置場所はNHKのすぐ横、さっそくNHKから大河ドラマイベント用の大型テントの注文が入りました。また3000人は収容できる超大型ライブハウス「汐留PIT」(いろんなミュージシャンがライブ開催)の数億円の注文も入り、テント及び舞台美術業者はすぐに元がとれました。東コレはNHKニュースで取り上げられ、大型テントが何度も放送されたおかげで、業者に対して肩身の狭かった私は救われました。

10年間東京コレクションの運営に携わりましたが、会場整理のバイト手配も、作業員の弁当手配も、私が調理する150人前の夜食材料費も、会場設営業者への支払いもすべて協議会事務局マター、プロデュース会社や代理店を通したことは一度もありません。もしも補助金、協賛金収入があって資金に余裕があれば、事故や破損のリスクのことを考え外部のプロに委託したでしょう。その方が絶対安心ですから。

自主運営の東コレは数人の事務局スタッフでどうにか回せましたが、これ以外のイベントは代理店に入ってもらいました。若手支援策としてはじめた私たちの自主企画「東京コレクションANNEX」、これは外部スポンサーを集めて実施したプログラムでしたが、お願いした博報堂が社内のトヨタ担当チームと連携し、トヨタの協賛だけでなく当時CMに出演していた作家の村上龍さんを口説き、キューバのバンド共々村上さん自身も参加してくれました。資金集めも村上龍さんの参加も我々だけではとても実現しない、さすが大手代理店と思いました。このとき村上さんを連れてきた博報堂トヨタ担当の方とはいまも年賀状のやり取りがあります。


東京国際モードフェスティバルのポスター

東京都、東京商工会議所、東京ファッション協会、デザイナー協議会の4団体がパリ市とフランスオートクチュール協会の依頼を受けて開催した「東京国際モードフェスティバル」は電通が身を粉にして動いてくれました。昭和天皇のご容体が悪く一度延期する場面もあり、延期による出費超過がわかっていても電通の責任者らが献身的に動いてくれ、どうにか実現しました。結果的に採算割れになってしまいましたが、このとき電通のK常務は延期の相談をしたとき腹が座っていました。サラリーマン体質の人では延期の根回しはできなかったでしょう。

京都、大阪、神戸の京阪神3県、3都市、3商工会議所とトータルファッション協会の10組織が合同で主催した「ワールド・ファッション・フェア89」への協力を大阪、京都の商工会議所の両会頭に頼まれたときは、3都市で企画する数々のイベントを大きく2つに分割、電通と博報堂にそれぞれ制作と協賛金集めをお願いし、両社には競争しつつ協力してもらってはと実行委員長に提案しました。公的機関が絡んでいるので一般的なテレビ番組制作による協賛金集めができないというハンデがあり、両社とも儲けはほとんどありませんでした。このときの両社スタッフの頑張りも忘れられません。


Rakuten Fashion Week Tokyoメイン会場渋谷ヒカリエ

デザイナー協議会が20年間運営した東京コレクションは経産省主導で発足した日本ファッションウイーク推進機構に移管されました。最初の3年間は国の補助金がありましたが、これですべて賄えるわけではありません。数シーズンは電通が赤字覚悟で参画してくれました。このとき東コレというコンテンツで協賛を多数集められるかどうか電通社内で検討、協賛集めは難しいかもしれないと最初は積極的姿勢ではなかったと聞いています。が、電通の経営幹部はそれでもサポートを約束、まとまった資金をギャランティーしてくれました。もしも最初に電通の協力がなかったら現在の東コレは成立していなかったかもしれません。

私たちは東京コレクション以外のイベントは代理店にあれこれお願いし、その資金力、ネットワーク、フットワークを実感しました。代理店幹部やスタッフもよく働いてくれたので、大手代理店批判が出るたび違和感を感じます。東京五輪の裏側で何があったのか知りませんが、ファッションイベントに力を貸してくれた人々の多くはナイスガイでした。





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Last updated  2023.08.27 12:23:10
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