519670 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

華の世界

華の世界

第五章

振り向けば夕暮れ

第五章:僕はそう思った

__ダイナーは僕の懐にもたれていて、微笑んだ。
__さっきの事、現実か夢か、僕は本当に分からない。でも、懐の中のダイナーは、真実だ。
__「僕、行かなきゃ」と僕はため息をついた。
__ダイナーは「送るわ」と言った。
__僕は拒まなかった。
__リビングルームに戻って、僕は「彼は?」と尋ねた。
__ダイナーは首を振った「聞かないで」
__コーヒーはもう冷めちゃった。ダイナーはトレイに流した。
__僕は黙って彼女を見た。
__「さあ、波止場まで送るわ」
__僕たちはバスに乗った。
__ダイナーは「あたし、初めてあなたと別れることを思い出した」
__僕たちも思い出の渦に巻き込んだ。
__「あなたが行っちゃった後、あたし、トレイで泣いたわ」
__「笑ったように見えたよ。どうして泣いたんだ?」
__「女は涙で作るから」
__「幸い、二回しかなかった」
__「本当に二回しかないと思うの?」
__「僕のために泣くことはしない、と言ったじゃない?」
__ダイナーはため息をついた「あたしもそう思ったよ。でも、結局何回も泣いた。」
__「僕のせいだ」
__「誰のせいでもないわ。あの時、若かったから」
__「あっ、君の誕生日、祝っていなかったな。誕生日おめでとう」
__「もうとっくに過ぎたよ」
__「知っている。一月だろう」
__「あの年、あなたが香港に帰った時、あたしの誕生日に電話をかけてくれたこと、本当にびっくりしたよ」
__「そうね。そして一ヶ月後、僕はまたあなたのそばにいる」
__「でも、あれは唯一の一回だ」
__「君に電話しないなら、君のことが忘れられると思ったから」
__「あたしも最初はそう思ったのよ。でも、間違った」
__バスは波止場に着いた。
__「僕、一人で帰る」
__ダイナーは少し考えた「やっぱりシドニーまで送るわ」
__僕は拒まなかった。たとえ僕が拒んでも、彼女はきっと僕を送る。
__フェリーに乗って、僕たちは後ろに座っていた。
__「あたしは今になっても、後悔しないわ」
__「どんなこと?」
__「初めてあなたに捧げること」
__さっきの熱い体は、記憶よりずっと熱い。僕は一生忘れられないあの夜。
__現実と思い出はまた混ぜている。どっちが現実?どっちが夢?
__フェリーは走りつづけた。


(第五章・了)(第六章へ)


© Rakuten Group, Inc.