結納はとても意味のある人生儀礼です
↑クリックしてもらえると励みになります。人生儀礼とは個人の一生で、成長の段階に応じて行われる儀礼の事を言います。具体的には誕生の祝い、七五三、成人式、結婚式、厄年、年祝い、葬式などの事で、一つを終えてから次の儀礼に移行すると言うように、多くの人々はこれらを順次経験していくわけですから、通過儀礼とも言われています。昔から、多くの日本人はこれらを無事乗り越えて、神助を得て新しい安定した生を送ろうと考えてきました。人生儀礼は個人のための儀礼ではありますが、儀礼の主体はむしろ周囲の人々にある場合が多いものです。誕生や死に際しての儀礼以外でも、多くの人々の精神的・物質的援助がなされて初めて滞りなく営みうるものと言えます。人生儀礼には神さまの御加護と人々の激励、この二つは欠かせないものなのです。前回、結婚について書きましたので、人生儀礼の中でもかなり大きな意味合いのある結婚にまつわることを書いてみたいと思います。先ず、「結納」についてです。近年は結婚式さえ挙げないで、単に婚姻届を役所に届けて終わり、と言う人たちも多いようですから、ましてや「結納」などは全く考えてもいない、あるいはやらなかった、と言う人も多いと思います。結納や結婚式をなおざりにする考え方を「今風」であるかのように、メディアや雑誌などが広めている背景には、日本の家制度を崩壊させる為の目的もあるかと思います。選択的夫婦別姓法案などはその最たるものと言えるでしょう。しかしながら、日本においては、結婚とは単に個人の男女の結合ではなく、お互いの家と家との結びつきであることを決して忘れてはならないと思います。そこで、結婚の前には先ず、結納があります。男女が出会い、両家の交流も深まり婚約と言うことになりますと、結婚の前提となる重要な儀式である結納をまず行なわねばなりません。結納とは婚約が成立した両家で、金員、酒肴などの品物を仲人を通して取り交わす事です。二つの家が新しく婚姻関係を結ぶために共同で飲食する酒肴をユヒノモノ(結いの物)と言い、昔は婿入り婚だったので、男性が女性のもとへ持参する酒肴から始まったと言われています。結納式は挙式の3~6ヶ月前の日柄の良い日の選び、できれば午前中に執り行われます。本来は仲人を立てて双方の家に出向き、結納品を贈りあうのが正式な結納式の形式ですが、都会の家事情など(床の間や広い座敷が無いなど)ではなかなかそこまで出来ませんので、料亭やホテルなどで仲人を交えて、両家の顔合わせを兼ねて、結納式を執り行うケースが大半だと思います。結納の起源は約1,400年前の平安時代に遡ります。仁徳天皇の皇太子(後の履中天皇)が羽田矢代宿禰の娘の黒媛を妃とされた際に納菜(絹織物・酒・肴)が贈られたと、日本書紀に記されており、これが結納の最古の記述とされています。室町時代になって、男性が女性の家に入る婿入り婚から、女性が男性の家に入る嫁取り婚が一般化すると共に、小笠原流などの武家礼法の諸流派によって結納の作法が整えられました。当初は公家や武家の婚礼制度でしたが、江戸時代になり富裕な商家や農家も結納の儀式を行うようになり、明治時代になってからは一般庶民へ結納が普及しました。昔の結納品は酒肴を持参する程度のものでしたが、次第に単なる酒などだけではなく、身の回りの道具類も納めるようになり、現在では帯料、袴料と言った物や、縁起の良い品物を五品、七品、九品を揃えて贈る様になっています。品数が陽数(奇数)であるのは、陰陽道に由来しています。つまり陽数が縁起が良いからです。逆に偶数は縁起が悪いと考えられています。結納の品々は長熨斗(ながのし)・(のし鮑(あわび))・松魚(かつお)節(ぶし)・寿留女(するめ)・子生婦(こんぶ)・友(とも)志(し)良(ら)髪(が)(麻)・末広(すえひろ)(扇)・家内喜多留(やなぎだる)(酒)などでこれに金員を包んだ熨斗袋と目録を添えます。結納品の品々については、関東、関西、九州などそれぞれの地方で違いがあるようですが、地方ほど、豪華になっているようです。関東式の場合の品々の意味は次の通りです。(1)目録…結納品の品名と数を列記した物。(2)長熨斗…「のしあわび」のこと。干した鮑をのすと長く伸びる事から「末永く」「長寿」の願いを込める。(3)金包…結納金を包んだ物。男性側は「御帯料」「小袖料」、女性側は「御袴料」とする。(4)勝男武士または松魚節…鰹節のこと。武家社会で珍重されていた事に由来する。(5)寿留米または寿留女…スルメの事。長期保存ができることから「幾久しく」と言う願いを込める。(6)子生婦…昆布の事。「よろこぶ」に通じ、「子宝に恵まれるように」と言う願いを込める。(7)友志良賀または友白髪…白い麻糸や麻紐のことで、「ともに白髪になるまで長生きできるように」と言う願いを込める。(8)寿恵広または末広…一対の白い扇の事。「末広がりに繁栄するように」と言う願いを込める。白は純白を指す。(9)家内喜多留(やなぎだる)・柳樽…柳の木で出来た酒樽のこと。「たくさんの福があるように」と言う願いを込める。現金に代える事が多い。何れも縁起物で、幸せや延命長寿、夫婦和合を象徴した物です。「家内喜多留」は酒肴持参の元となった「樽入れ」の流れを汲むもので、「神酒」として重要視されてきました。またそれぞれの結納品を陰陽道的な解釈をすれば、すべて「言霊(ことだま)」による「呪(しゅ)」がかかるようになっています。言霊による呪とは、例えば節分の時に炒った豆を鬼にぶつけるわけですが、これは「炒った豆」ということが大切です。それは「炒った豆」とは「炒った」とは「痛い」に通じ、「豆」とは「魔を滅する」に通じるからです。このように言葉を利用して呪力を高めることが陰陽道の術にも多く見られます。結納の品々の名称を見ても分るように、当て字を多く使用し、言霊の意味を最大限に引き出そうとしているのです。結納は結婚の前提となる儀式として、日本人が永年培ってきた伝統であり、両家・両人の初めての公式な出会い・交わりとして非常に重要な儀式です。先にも書きましたが、昨今は、結納の儀式を省略したり、金品のやり取りだけで済ましてしまう場合が多々あるようです。それは西洋的な発想である個人主義が横行して、結婚とは個人同士の結びつきであり、古来の日本人の考え方である「結婚とは家同士の結びつき」という概念が薄れてきている結果だと思いますが、結婚とは間違いなく、家と家との結び付きであり、また祖先と祖先の結びつきでもあります。一人の人間は、ただ一人で存在しているのではありません。親、祖父母と辿っていくと遠い祖先と結びついているのであり、その祖先の元を辿れば日本の神々に行き当たります。これはまさに「敬神崇祖」の考え方に通じるものだと考えます。結納とは両家の先祖への挨拶でもあります。地域や家によっては、結納の品にお線香を加えたり、結納式の際に仏前に線香を供え、先ず先祖への挨拶から始まる所も多く見られます。また結納もさることながら、仲人をたてるケースもほとんど無くなってしまいました。結婚式は挙げても、仲人はたてない、と言うことも多々あるようです。仲人は「月下氷人」(縁結びの神「月下老」と「氷上人」を組み合わせた造語)とも呼ばれます。かつては「仲人は親も同然」という格言があるほど仲人の影響力は強いものでした。けれども仲人は仮親として非常に重要です。新しい生命力を身に就ける呪(しゅ)として、霊的にも大変重要な存在です。一般的に仲人をお願いする方は当事者二人よりも世間的に上位にある人に依頼しますが、これは仲人親の立場にあやかろうとするものです。仲人を立てることで、両家の結び付きをより強固にすることにもなります。また親だけでなく、仲人も若い二人にとっては人生の先輩であり、これからの長い人生を歩んでいくに当っては、他人であっても相談できる親のような存在は大変心強い存在と言えるでしょう。以上のように、結婚するに当って結納を行うことで、自分二人だけの問題ではなく、家と家の結びつきである事を再認識し、これからの門出を少しでも禍無く、乗り越えていけるように準備する事が、結納の大きな役割だと言えます。また、昨今は離婚が簡単に紙切れの問題だ、ぐらに安易に考えられているのも、結納も無い、仲人もたてない、結婚式も行わない、家同士もほとんど付き合いが無い、など結婚を二人だけの結びつきのように軽く考えているから、離婚もまた、簡単になされるのだと思います。日本の伝統に従って、仲人をたて、結納式を行い、結婚式を挙げて、親戚一同の顔合わせをするなど、二人だけの問題ではなく、家族や親戚が皆、一緒に結婚に向けて心を合わせていけば、結婚後の多少の問題は、乗り越えていけるのではないでしょうか。赤の他人が一緒になるのですから、当然、すべての事柄に違いが生じてくるのは当たり前のことです。その違いを長い年月をかけて、少しずつお互いが譲歩し合い、受け入れあって、今度は二人に共通のものを見出して、より一層強い絆で結ばれていくことが結婚ではないでしょうか。その長い年月の間も、夫婦二人だけではなく、子供たちや、両親、仲人親、親戚など、多くの人たちの助けを得ながら、乗り越えていければ、そう簡単に「別れる!」などという結論にはならないと思います。もし、これから結婚をお考えの方がいらっしゃるならば、是非、仲人をたてて、結納式を行って下さい。もちろん豪華に出来るならば、それに越した事はありませんが、出来る範囲で、工夫を凝らして、思い出に残る結納式を計画してみてはいかがでしょうか。私達夫婦は3月3日、桃の節句に結納の儀を執り行いました。(結婚式同様、背景に写っている掛軸や几帳など、全て持ち込みました!)