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詩人たちの島

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ニューヨーク通信（湯浅ましほ）11

[連詩] カテゴリの記事

全33件 (33件中 1-33件目)

1

連詩「地震（なゐ）振る夜」・完成

１小さな地震（なゐ）振る夜。食後にちいさないさかいをデザートのように。新蕎麦のおいしい鉱泉宿を二人のタレントがレポートしている、テレビのなかの匂い立つ蕎麦。傷は隠されて疼く。うまくつなげない、といって悪く切っているのではない。手打ちにいたるまでには、修練を積まなければならないが、転がっている言葉のダマが棘のように泣いているのだ。　　　　　　　　（英己）２箱根は、雪かはや、小さな冬景色小さなナイトフル、nightfall黄昏か、またシンシンとした夜の瀧津瀬を前に越前福井のおろし蕎麦が喰いたいものを喰えば、何故か、悲しくなる悲しみ隠されたものこそ、命シンシンと生きているわたしは　　　　　　　　　　　　　　　　　（英哉）３酒に渇いた、喉を焼く、鳥の羽ばたき、不意に閉ざされた、黄昏の、窓辺に静かに「羽毛」が降り積もっている温泉宿の、床の中で波に呑まれた、小舟のように乱された、食欲と性欲、静かに、埋もれる、「羽ばたき」、のような時間が優しく腐乱している　　　　　　　　（啓之）４喉を焼いて、言葉は、羽ばたく歌い、羽ばたくごとに、「羽毛」が天へと舞い戻って行き時間は、堆積する。そこでは、透明な言葉を獲得する。だれの耳にも聞こえない。静謐な、深き声よ小舟が、そっと、岸辺を離れる　　　　　　　（英哉）5浅さが深みであったり、エンジンが薔薇であったり、ことばがたばこでしかない、しがない詩の、ささやきを満載して、スロー・ボートはチャイナに、偽装の都に、ジャパンに、すべてが偽装の国に、ブラブラ、ベラベラ喋りつづけるオタクの詩人に遭った。坑夫のように母語がつるはしの音を立てる詩人に遭った。所有をひた走るものの、毛のような軽さ、奪われたものの、色彩豊かな響き、異邦の言語たち。師走の穴八幡は一陽来復を狙っている。　　　　（英己）6薔薇を撃つ不意に、乱されて、「花園」を殺す母語の時間が、木立を、巡り黄昏は、途切れて「薔薇の色」、は行方知れず奪われたあらゆる芽よ射撃手のように窓辺から、死んだ児の名前を放つ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（啓之）

December 3, 2007

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連詩「地震（なゐ）振る夜」４

１小さな地震（なゐ）振る夜。食後にちいさないさかいをデザートのように。新蕎麦のおいしい鉱泉宿を二人のタレントがレポートしている、テレビのなかの匂い立つ蕎麦。傷は隠されて疼く。うまくつなげない、といって悪く切っているのではない。手打ちにいたるまでには、修練を積まなければならないが、転がっている言葉のダマが棘のように泣いているのだ。　　　　　　　　（英己）２箱根は、雪かはや、小さな冬景色小さなナイトフル、nightfall黄昏か、またシンシンとした夜の瀧津瀬を前に越前福井のおろし蕎麦が喰いたいものを喰えば、何故か、悲しくなる悲しみ隠されたものこそ、命シンシンと生きているわたしは　　　　　　　　　　　　　　　　　（英哉）３酒に渇いた、喉を焼く、鳥の羽ばたき、不意に閉ざされた、黄昏の、窓辺に静かに「羽毛」が降り積もっている温泉宿の、床の中で波に呑まれた、小舟のように乱された、食欲と性欲、静かに、埋もれる、「羽ばたき」、のような時間が優しく腐乱している　　　　　　　　（啓之）４喉を焼いて、言葉は、羽ばたく歌い、羽ばたくごとに、「羽毛」が天へと舞い戻って行き時間は、堆積する。そこでは、透明な言葉を獲得する。だれの耳にも聞こえない。静謐な、深き声よ小舟が、そっと、岸辺を離れる　　　　　　　（英哉）5浅さが深みであったり、エンジンが薔薇であったり、ことばがたばこでしかない、しがない詩の、ささやきを満載して、スロー・ボートはチャイナに、偽装の都に、ジャパンに、すべてが偽装の国に、ブラブラ、ベラベラ喋りつづけるオタクの詩人に遭った。坑夫のように母語がつるはしの音を立てる詩人に遭った。所有をひた走るものの、毛のような軽さ、奪われたものの、色彩豊かな響き、異邦の言語たち。師走の穴八幡は一陽来復を狙っている。　　　　（英己）（注ならびに連絡）静けさに、罅を入れたくて、というより、静けさを受ける余裕が今の私にはなかったので、憤怒の形相になりました。六連からなる連詩で、こういう連は掟破りかもしれないけど、最後の連を鈴木君に託します。よろしく。

December 1, 2007

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連詩「地震（なゐ）振る夜」３

１小さな地震（なゐ）振る夜。食後にちいさないさかいをデザートのように。新蕎麦のおいしい鉱泉宿を二人のタレントがレポートしている、テレビのなかの匂い立つ蕎麦。傷は隠されて疼く。うまくつなげない、といって悪く切っているのではない。手打ちにいたるまでには、修練を積まなければならないが、転がっている言葉のダマが棘のように泣いているのだ。　　　　　　　　（英己）２箱根は、雪かはや、小さな冬景色小さなナイトフル、nightfall黄昏か、またシンシンとした夜の瀧津瀬を前に越前福井のおろし蕎麦が喰いたいものを喰えば、何故か、悲しくなる悲しみ隠されたものこそ、命シンシンと生きているわたしは　　　　　　　　　　　　　　　　　（英哉）３酒に渇いた、喉を焼く、鳥の羽ばたき、不意に閉ざされた、黄昏の、窓辺に静かに「羽毛」が降り積もっている温泉宿の、床の中で波に呑まれた、小舟のように乱された、食欲と性欲、静かに、埋もれる、「羽ばたき」、のような時間が優しく腐乱している　　　　　　　　（啓之）４喉を焼いて、言葉は、羽ばたく歌い、羽ばたくごとに、「羽毛」が天へと舞い戻って行き時間は、堆積する。そこでは、透明な言葉を獲得する。だれの耳にも聞こえない。静謐な、深き声よ小舟が、そっと、岸辺を離れる　　　　　　　（英哉）

December 1, 2007

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連詩「地震（なゐ）振る夜」２

１小さな地震（なゐ）振る夜。食後にちいさないさかいをデザートのように。新蕎麦のおいしい鉱泉宿を二人のタレントがレポートしている、テレビのなかの匂い立つ蕎麦。傷は隠されて疼く。うまくつなげない、といって悪く切っているのではない。手打ちにいたるまでには、修練を積まなければならないが、転がっている言葉のダマが棘のように泣いているのだ。　　　　　　　　（英己）２箱根は、雪かはや、小さな冬景色小さなナイトフル、nightfall黄昏か、またシンシンとした夜の瀧津瀬を前に越前福井のおろし蕎麦が喰いたいものを喰えば、何故か、悲しくなる悲しみ隠されたものこそ、命シンシンと生きているわたしは　　　　　　　　　　　　　　　　　（英哉）３酒に渇いた、喉を焼く、鳥の羽ばたき、不意に閉ざされた、黄昏の、窓辺に静かに「羽毛」が降り積もっている温泉宿の、床の中で波に呑まれた、小舟のように乱された、食欲と性欲、静かに、埋もれる、「羽ばたき」、のような時間が優しく腐乱している　　　　　　　　（啓之）（注と連絡）次は岩田さんです。よろしく。鈴木君ありがとう。岩田さんのあとは、水島。そして最後は鈴木君です。全部終わったら、見直してください。訂正があれば、メールでぼくまで。ぼくがまとめて和田さんに送ります。面白いものになりそうな予感がします。

November 30, 2007

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連詩　「地震（なゐ）振る夜」

１小さな地震（なゐ）振る夜。食後にちいさないさかいをデザートのように。新蕎麦のおいしい鉱泉宿を二人のタレントがレポートしている、テレビのなかの匂い立つ蕎麦。傷は隠されて疼く。うまくつなげない、といって悪く切っているのではない。手打ちにいたるまでには、修練を積まなければならないが、転がっている言葉のダマが棘のように泣いているのだ。　　　　　　　　（英己）２箱根は、雪かはや、小さな冬景色小さなナイトフル、nightfall黄昏か、またシンシンとした夜の瀧津瀬を前に越前福井のおろし蕎麦が喰いたいものを喰えば、何故か、悲しくなる悲しみ隠されたものこそ、命シンシンと生きているわたしは　　　　　　　　　　　　　　　　　（英哉）

November 28, 2007

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FARM「夢見よ、さらに夢見よ」朗読会

朗読会にて打ち上げの終り FARMとしての７回目の朗読会が昨晩終わった。2005年から二年かけた連詩の旅も終了した。今回の連詩はすべてこのblogの一番上にアップしてある。「夢見よ、さらに夢見よ」というのが今回の連詩のテーマだったが、私にとってはこの連詩が一番印象深いものとなった。福間健二、新井豊美というすばらしい詩人たちと、２年の長きにわたって、連詩を続けてきたのも大きな収穫であった。いろんなところで、この二人に励まされ、導かれ、ここまでたどりついてきたというのが正直な感想である。そして、この７回の朗読に皆勤してくださった人もいる。そういう人々をはじめ、私たちの朗読を真剣に聴いてくださった参加者の皆様に感謝したい。昨日の朗読会には、岡山から郡　宏暢君が来てくれて、すばらしい朗読を披露してくれた。ありがとう。私は昨日は疲れのピークで、ヘロヘロだったが、なんとか朗読できました。これからも詩作と朗読を続けて行きたいものだ。もっと意識的に朗読にも取り組んでみよう。

March 26, 2007

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夢見よ、さらに夢見よ　（FARM　連詩）

１この足がふらつくこの心がふらつく帝国からの移住を夢見る蟻群れこそがネットワークなのだと蜜蜂たちはうるさいそうだよ、いつものように足は大地に、心はきみに埋もれてゆくそこで生きてきた叱られ、矯正され、切られ、ゆがんでいるそのすべてが花に見られている禁じられた、禁じている煙草を、静かに深く吸い込むとすべてが回転するこの足が彼岸を踏む彼岸から返却される心、蟻塚たち　　　　（英己）　　　　２蜜蜂の時代は終わったが記憶が甘い時間をもたらすこともある夢を見て笑っているときみは言うがあれはわたしの半身で小さな羽根のあるやつだあいつのために心は煙のよういつも上の空だった後の半身は名付けようのないものいつのまにか内側に堆っている重い、だが泥ではない　それは闇の中の未発の光源のようなもの　　　　（豊美）　　３夢を見ながら叫ぶ者若く、半身をうすむらさきの空に溶かして心にはいつも戦争があるその飛ぶ姿を私は見てしまったがもう少し飲みたかったＪＲ横浜線の相原駅でおりて「哀原」の物語に迷い込む者泥と歓びを区別することもなく女神の前に立つその舌が「ひそかに我が舌をぬらした」甘い時間を盗むために　　　　　　（健二)

February 16, 2007

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FARM連詩「光」10～12

10眠りの浅い夜がようやく明けてカーテンを開く曇り日の朝の陽は弱く光の言葉は少ない私が夢見る光の世界は凡庸でこの世の闇の多彩さにはとても追いつけない闇の饒舌闇の多弁窓辺に撒くパンくずを今日も鳥たちはにぎやかに啄ばんでいるが光を求める旅の行き先を私はついに決められない光は内側に点すものなのだろう内側に点した光でわずかに外側を明るませることができればそれでよい　　　　　　　　　　　　　　　　　（豊美）11アフター・ダークであって、ファイブスポット・アフターダークではないんだぼくは、後者のほうがいいなあ、と彼は言ったそれは、村上春樹であって、フランツ・カフカではないんだ、ということを、きみは言いたいのだね、ともう一人が言ったもっと明晰に発言してくれ、と聞いている者たちの一人がどなったこの生という農場ではそれぞれの生存の場所とそれぞれの名前だけが明示されればよい雨に濡れているでもそれは慈愛の雨だ、死んでしまえときみは言うがでもそれは最後まで生きぬけという意味だ闇の饒舌闇の多彩ファイブスポット・アフターダークはEast of the Sun and West of the Moonの地点に存在するそこからslow　boat to Chinaが出航する塩茹でのピーナツはいかが？そこから光のバードが飛び立つ　　　　　　　　　（英己）12猫とカラスのいる無人駅から歩きだしてきみを思うための雨と夜を手に入れた私は迷ってしまった　けれども迷っていない森に入るカフカを見失いながら性格と心理がひきよせる罠にかかった生きものなのだ腹は立つよ　道端のぬかるみに食べ物が投げすてられている同じ地点に何度も戻ってくるこの方向感覚　この罠　この自分から抜けだすために歩いて　歩いて　恋に落ちたのだ濃くなる闇　多くを語りすぎる闇のなかで私はあきらめない　まなざしだけで明晰に発言するきみ内側に光をもつきみにさわる朝を思う　　　　　　　（健二）（のーと）１２月３日（日曜日）、午後５時から、国立のいつもの「奏」で、FARMの朗読ライブをやります。２００５年２月11日のライブにはじまり、今回で６回めになります。それぞれのタイトルは「嘆きのとき」「白い凪」「島」「秋風秋雨」「闇」と来て、今回の「光」です。福間健二が掲示板に書いているように、たぶんFARMとしては最後のライブになるかもしれません。皆様のご参加をお待ちしています。

November 25, 2006

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FARM 連詩「光」７～９

１物語の始まりはそれぞれにかがやく夢を抱いているだろう雨上がりの朝に張り渡すクモの糸ここからそこ　そこからまたその先へ水滴の透明な玉のひとつぶひとつぶを連ねてすべてはそれら鈴なりの小太陽から始まってゆくのだとすれば　（豊美）２誰かがLook for the silver liningと歌っている悲しみと敵対の雲に覆われた世界でもどこかで太陽は輝いていると分離壁のそれぞれの内側で誰かが歌っている苦さをかみしめて　雨にうたれながら　　　　　　　（英己）３どんなことにも　よい半面があってくれなければと歌の願いに染まって　夢からさめまだ明けきらない　弱い光に不随意の装置が動きだすのを　私は感じとったまだ語られていない物語の小さな窓がひらく遠いとも近いともいえない　そこに姿は見えないが人がいて　その心臓がしずかに打っている　　　　　　　（健二）４光の少ない日には身近な発見を数えよう窓辺の鉢植えのサボテンについた花芽幼な児の口元に出現した真っ白い乳歯こんにちわカタコトがこぼれる水道の蛇口が開かれる匙が、コップが、皿が、薬缶が、テーブルが身の回りのあらゆる些事がうたいだす懐かしいあの小声の唄　　　　　　　　　　　　　　　　（豊美）５暮れてもまだ光の残っている秋の空「汝は一つの死体をかかえている小さな魂にすぎない」マルクス・アウレリウスの言葉をかみしめながら地上を歩く水は増水の汚れをすっかり払い落とし、澄んだ川として流れる樹木は緑の剣先を凋落の予感ゆえに懸命にのばし黄色の蝶がコスモスの花の上を夏の愛を想起するかのように踊っているこの足の一歩が小さな魂の足跡である笑う仮面や、泣く仮面「さんたんたる配慮」と文三は言うがこの心臓の音の途切れるまで、あそこの緑のその向こうまで澄明な秋を歩いてゆこう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（英己）６ぎしぎしと鳴る床を歩いて存在を証明した飛べない魂その夏の事情は　キッチンの籠の十数本の茄子となって艶やかに休み「トルコでは、茄子の調理法を五十くらいおぼえておかないとお嫁にいかれないよ」庭仕事に戻る私は本で読んだそんなセリフを思い出して自分の死体からにじむものを薄くした元気を出した　ということだがもう秋のゆうぐれだ切り落とした枝と葉を大袋に入れ光を　心の小屋の闇のなかにしまって茄子と酒をもって人に会いに行く　　　　　　　　（健二）７飛べない魂を飛ぶ椅子に乗せて青空と雲のあわいをゆく鳥海山の麓　酒田では鮭たちが伏流水の川を遡り澄んだ川底の石に身をふるわせて透きとおった生命を産みつけていた春になれば何百万匹の稚魚たちがここから海へ旅立ってゆくだろう河口のこの街を歩いて生きているいのちのほかに発見したものはおいしい水とおいしい魚とシベリアから渡って来た白鳥の群れ子どもらの口からほとばしる清らかな最上川舟歌　　　　　　　　　　　（豊美）８十月も終わりの日博物館への白い道を歩いている崩れ落ちた築地の幻影を思い浮かべながら５８回目の正倉院展丈高い弓の前で立ち止まる時の流れを遡ると果てのないアジアの森でたとえば梓の木で作られた弓のような夢、夢のような弓から射られた矢として、ここまで飛んできているのかもしれないこの肉とこの生きている命はおいしい緑瑠璃の十二曲の入り江を持つ杯になみなみとたたえられた春日の酒のように　　　　（英己）９遠い夢の弓から飛ばされ　落下して　転がってここまできたそうだったのだどうしても暖まらない地面をもつこの森　この夜いろんな戦争をなかったことにして影は笑おうとするがいのちをいれる器の割れる音がする長い夜だ生きていたい私は起きあがってコップの水を飲む私は人を思うその人のねがいをつつむ光を思う　　　　　　（健二）（めも）この７～９のシリーズにある「光」は切ない。ここまで我々は生きてきたのだ、という思い。

November 4, 2006

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FARM　連詩「光」４～６

１物語の始まりはそれぞれにかがやく夢を抱いているだろう雨上がりの朝に張り渡すクモの糸ここからそこ　そこからまたその先へ水滴の透明な玉のひとつぶひとつぶを連ねてすべてはそれら鈴なりの小太陽から始まってゆくのだとすれば　（豊美）２誰かがLook for the silver liningと歌っている悲しみと敵対の雲に覆われた世界でもどこかで太陽は輝いていると分離壁のそれぞれの内側で誰かが歌っている苦さをかみしめて　雨にうたれながら　　　　　　　（英己）３どんなことにも　よい半面があってくれなければと歌の願いに染まって　夢からさめまだ明けきらない　弱い光に不随意の装置が動きだすのを　私は感じとったまだ語られていない物語の小さな窓がひらく遠いとも近いともいえない　そこに姿は見えないが人がいて　その心臓がしずかに打っている　　　　　　　（健二）４光の少ない日には身近な発見を数えよう窓辺の鉢植えのサボテンについた花芽幼な児の口元に出現した真っ白い乳歯こんにちわカタコトがこぼれる水道の蛇口が開かれる匙が、コップが、皿が、薬缶が、テーブルが身の回りのあらゆる些事がうたいだす懐かしいあの小声の唄　　　　　　　　　　　　　　　　（豊美）５暮れてもまだ光の残っている秋の空「汝は一つの死体をかかえている小さな魂にすぎない」マルクス・アウレリウスの言葉をかみしめながら地上を歩く水は増水の汚れをすっかり払い落とし、澄んだ川として流れる樹木は緑の剣先を凋落の予感ゆえに懸命にのばし黄色の蝶がコスモスの花の上を夏の愛を想起するかのように踊っているこの足の一歩が小さな魂の足跡である笑う仮面や、泣く仮面「さんたんたる配慮」と文三は言うがこの心臓の音の途切れるまで、あそこの緑のその向こうまで澄明な秋を歩いてゆこう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（英己）６ぎしぎしと鳴る床を歩いて存在を証明した飛べない魂その夏の事情は　キッチンの籠の十数本の茄子となって艶やかに休み「トルコでは、茄子の調理法を五十くらいおぼえておかないとお嫁にいかれないよ」庭仕事に戻る私は本で読んだそんなセリフを思い出して自分の死体からにじむものを薄くした元気を出した　ということだがもう秋のゆうぐれだ切り落とした枝と葉を大袋に入れ光を　心の小屋の闇のなかにしまって茄子と酒をもって人に会いに行く　　　　　　　　（健二）（めも）光を　心の小屋の闇のなかにしまって茄子と酒をもって人に会いにゆく福間さんの上のフレーズはすごく印象的で、「心の小屋」にいつまでも残りそうだ。（やがて八王子米に）

October 14, 2006

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連詩「光」３

１物語の始まりはそれぞれにかがやく夢を抱いているだろう雨上がりの朝に張り渡すクモの糸ここからそこ　そこからまたその先へ水滴の透明な玉のひとつぶひとつぶを連ねてすべてはそれら鈴なりの小太陽から始まってゆくのだとすれば　（豊美）２誰かがLook for the silver liningと歌っている悲しみと敵対の雲に覆われた世界でもどこかで太陽は輝いていると分離壁のそれぞれの内側で誰かが歌っている苦さをかみしめて　雨にうたれながら　　　　　　　（英己）３どんなことにも　よい半面があってくれなければと歌の願いに染まって　夢からさめまだ明けきらない　弱い光に不随意の装置が動きだすのを　私は感じとったまだ語られていない物語の小さな窓がひらく遠いとも近いともいえない　そこに姿は見えないが人がいて　その心臓がしずかに打っている　　　　　　　（健二）（めも）連詩と歌仙を同時並行でつくってゆくという未知の経験に大いに興奮しています。必ずや自分の詩にこの経験ははねかえってくると思います。今はまだ定かには言えないが、この時期常にも増してみょうな抑鬱状態にある私の実生活をも変えてくれる何かが、この二つの「詩」の製作から生まれることを期待しつつ。

September 25, 2006

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FARM 連詩開始「光」の巻

光　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１物語の始まりはそれぞれにかがやく夢を抱いているだろう雨上がりの朝に張り渡すクモの糸ここからそこ　そこからまたその先へ水滴の透明な玉のひとつぶひとつぶを連ねてすべてはそれら鈴なりの小太陽から始まってゆくのだとすれば　（豊美）（メモ）今回の連詩は第６回目、「雑」の巻、テーマは「光」です。１２月３日、いつもの所、国立の「奏」での披露にむけて、これからの旅路を３名で歩みます。ご感想などお寄せいただけたら幸いです。順番は豊美、英己、健二です。

September 10, 2006

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連詩　「闇」　　　　　　　　　　　FARM

連詩　雑・第一部「闇」１闇のなかを歩いてきたひとつの火が内へ内へと進むものとすれちがって（かすかな香りだけを残して）消えたそのあとの動く雲そのあとの音楽そのあとの「存在しえないもの」をとじこめている瓶を割ってさまざまな影の上を歩いた日々そして今日、私ははげしく泣く見知らぬ人々のなかにいる(健二）２鏡の中の鏡そこでも割れている私の眼（風がすべてを吹き飛ばす）砂浜に産卵の夜を迎える海亀の無数の足跡点描画家たちの色彩の…の混じりあいのように分けがたい涙と泣き声が告知する明日の波打ち際で割れた眼の破片を拾いあつめる歌を歌う（英己）３石を底に沈めたままひび割れた鏡の面はたちまち修復される空は無色透明な液体で春は傷ついた世界を繰り返し再生させてゆくサクラモクレンマグノリアあらゆる花の名が咲き狂い幻の先端が列島を駆け上がってゆくとき水底の青い時間を石らは眠りそれが何の隠喩だったのか忘れられたものは春からも忘れ去られて（豊美）４生きもののいる野をよこぎってきた私たちは靴を脱ぎ、階段をあがって大きな鏡の前に座る「私たちはどこにいるのか？」鏡のなかの自分のとなりの人に私は尋ねているちがう地球のちがう一日を閉じる闇のなかでもだれかが尋ねているだろうがその人を私は直接見ることができない人のかたちを失いながら言葉ではなく変化する姿で答えるその人、その存在、その変化を私は直接見ることができない（健二）５私はあまりに簡単に恋におちる憎しみがしなびた筋肉に赤い血をめぐらすのと同じだ今日は一日「玉砕」を暮らしてみた「馬」がキーワードだ埒もない想像を追求したかった着たことのない軍服姿で敬礼している私捕虜として労働を強制されている私父たちのかわりに「万歳」とささやく大きな鐘は「つねに・すでに死んでいる」五月、六月、とにかく神無月まで私は生きるだろうそれはどんな出発とも関係ない日々の繋がり（英己）６今夜の空に火星が赤くぼんやりと光る部屋の蛍光灯が切れかけて点滅するあのころ、家々の灯りは暗く夜はずっと深かった灯りが暗いぶん闇はどこまでも広がっていた何もない夏の周辺には虫たちが群がっていて子どもたちは虫篭を下げて蛍狩りに行った蛍光灯がしきりに瞬く闇が広がり心は空虚で満たされるわたしたちはそれぞれのなかに闇をだいじに飼っている夜を這う名前のない虫のためにあたらしい蛍光灯を買いにゆく（豊美）７鴨と鯉のいる仙川に沿って歩く子どもと老人と思い出を高速道路の下におきざりにしてまだ明るいうちに、まだ滅びないうちに新しい訳で読む「虫」の物語這うことはできても、恐れることはできても告白できない恋でも、日曜日でも、パラレル・ワールドバスに乗ればすぐに幼い人民の群がる吉祥寺の夜かれらは列をつくって狩られる順番を待つ闇のなかの私はもう待たないかれらを恋する政府になる！（健二）８エンドレスの恋だ！「夢よりもはかない世の中」を男と女とが暮らしてゆく物語から日記へ、日記から物語へと木の下闇が濃さを増す死んだものたちの眼に新緑はまぶしい風にひかる葉裏に幸せはある？判決は命じているきみは他者に対する義務として生への意欲を燃やさなければならない乳白色の二人の豊満な裸婦のために一人は名もない、その名をよばれぬ人一人は身を投げる、その身をきみの眼から永遠に隠す人（英己）９あの虫はいまどこの草陰で羽をすり合わせどんな夜をちろちろと鳴きつづけているのか虫の棲むその穴はきみの臆病な心よりもすこし広く重さはきみの隠された心とちょうどつりあっているザラザラした闇の手触り柔らかい腹の下で虫があたためている石の卵孵化する日を夢見ながらほんのりと白く光って抱かれている永遠の夜の卵（豊美）10大きな黒い鎌と詩人の遺書があふれる新しい生命の下に隠されている房総、照葉樹の森花の蜜を吸い虫をついばむ小鳥たちのニュースで目覚める私たち羽のかわりに、恥ずかしい骨をすりあわせる彼と彼女になるという演技のプランを何を放棄するためにメモしたのか？闇のなかの光る卵をめぐるすべてを思い出した私たちから生まれようとしてまだ生まれていないものが棘のある枝のあいだをゆっくりと移動している（健二）11しなやかにここまで歩いてきなさい人の形、人の愛の形それは棘に刺され「ブルースの意味」や「喪わなければならない」何かを越え立っている、たぶん生の肌の上に永遠が咲くのであってその逆ではないからだしーっ　頼むから静かにしてくれ「ぼくの父の生」についてなぞ書けない深く父を演じすぎたのでただ涙のなかで、老いのなかで、どこまでも若返る二十二歳の父、十九歳の父まだ生まれていないぼくを抱く母母を抱くぼく人の形、人の愛の形もう一人のきみがいなければ　たぶんぼくは存在しなかった（英己）12生命の系統樹を見るとすべての生命は共通の先祖から始まっている今日　私は床の上に蠢く黒い曲線蟻の行列に殺虫剤をふきかけながらヘリコプターから地上に機関銃を乱射する人間の快感を想像して恐ろしく思ったよろこびが人を生かすとはいえ生の床下に広がっている闇の巣突然地層が割れて原型が剥き出しになるわたしたちは嘆き悲しみ　そしてそのとき初めて「苦しみ」が持つ意味を考える虫を苦しむことから始めよう（豊美）13ばらばらになった頭と胴と膝を闇のなかの「苦しみ」につないだ、ひとつの呼吸体にもどすそのたびに何を守ったことになるのか？十七歳、三十七歳、五十七歳次から次とまちがいを重ねながら自分では脱げないジャケットにつつまれた身で質問を、誘いを待ったさびしさと目をつむる息子をおきざりにして私はバスで移動する渋谷、麻布十番、新橋まだ道を歩いている人がいる、それだけが救いのような未来にむかって（健二）14一緒に失おう二人の腕の間ですべてを失おうこのロマンティックな霧のなかでその霧を二人で脱ごう五十八歳の誰かを誰かが見つめていると言うのかうまく歌えない古い友達のことを思い出す夜明けの冷たさのなかで、私たちには愛はわからないここはタヒチ？それともナイルの河の上？水の音が闇のなかで問いかけるきみはすべてを洗いつくして幼女のように深夜を眠らない（英己）15黒い服を身に付け定められた所作を繰り返したそれらにはかつて意味があったが今では風の草のようなものになっている川の岸で私たちは別れた六十九年は短すぎると言うことはないだが、長いなどとは言えない儀式を終えて川沿いの道を歩いたひとりの存在のかけがえのなさが火の中で無慈悲なまでに砕かれ脱色されていた失うものなどはじめから無かったかもしれなかった（豊美）16「きみの親はだれ？」「ぼくの母は青空、父は風」死と儀式がどんなに闇を濃くしてもひとりの人間の、消えない何があるために生まれたばかりの雲はいそがしく動いているのか「ぼくの姉は澄んだ川の水いとこたちは魚になって遊んでいる」はげしい雨になる詩人の夢も二十世紀もまだ終わっていない気がしてくる王子、十条、赤羽昼間から飲んで湿度のなかを歩くじゃあ、またね（健二）17暗殺をたどるメキシコとキューバの旅いつもセピア色に歪むオズワルドの写真大きく暗い謀略を肺の奥深く飲み込む梅雨の晴れ間蛍の軽さで光るものに火傷を負うこの薄い陶酔を何回くりかえせば事件の真相とやらに遭遇できるのかウパニシャドにいわく「無知におぼれている者はあやめもわかぬ闇を行く明知に自足する者はいっそう深い闇を行く」ぼくらにあるのはただ行くこと、帰ってこないこの夏の滴にむかって（英己）18銃には銃を暴力には更なる暴力を何者かに煽られるように世界の回転は増しそれを止める方法をまだ誰も見出せない老いた人は言う「ゆっくりとくつろぎなさい　死者の眼で物事を見なさい」亡き母の懐かしい声を聴きながらシチリアの生家の居間でピランデッロはくずおれるように眠ったやがてくる八月私たちの部屋には死者たちの居場所が無い夜になっても帰ってこない人たちがいるだけだ明日も　平穏に過ぎますように（豊美）（２００６年３月１７日～７月９日）（今回は福間健二、水島英己、新井豊美の順番）

July 24, 2006

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連詩「秋風秋雨」（10月１３日０５年より1月11日０６年まで）

秋風秋雨　　　　　　　　　 FARM　1（英己）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　秋風秋雨人を愁殺す連詩は初めから「殺す」を使える連句はだめだ今日ぼくは死について考えていた満月に向う月は生きていた金木犀は香っていた　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2（豊美）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　濡れたススキの穂が銀色に光った　　　　　　　　一輌だけの小さな列車に乗っていった内陸へ、内陸へと消えがての駅名をつなぎ山襞の眠りの底をくぐって目覚めと忘却を繰り返す幸せとも不幸せともいえない水源へのながい帰路だった　　　　　　　　　　　　　　　3（健二）　　　　　　　　　　　枝も葉も香りもある物語のならぶ秋へとどうやって帰ろうか「わたし、絶対あやまらない」百年前の機械が動いている愛すべきごみ箱である市場でいつまでも夏を生きる娘たちの露出する夢と議論する４（英己）　　　　　　　　　　　　　　どっさりと野菜をリヤカーにのせてきみが引っ張ってゆくバザールの詩人にしてたくましい商人なにか甘いもの、なにか優しいものが真っ先に売り切れて恋人たちの次には苦い根のような言葉をほしがる冬がやってくる５（豊美）枝からもいだ林檎に歯を当てる甘ずっぱさがからだにしみとおる「木の根を吹き飛ばす力は／ぼくを破壊するものだ」わたしは作ることをしよう湿った土に丸ひとつ描いて生き残った根のうえにそれを置いて６（健二）何から逃れ、何を追うのか肩をぬらして南へ移動する男のかすむ視野にも、秋のくだものが生る熊本、八代、水俣オレンジ鉄道から見る海岸の根を持つもの、そして雨空に飛びたつものたち７（英己）父のぬらした紙おむつを捨てながらぬらさない涙でしなびたペニスをぬぐう笑ってぼくらは老いてゆく少しずつ減ってゆくグラスのなかのウイスキーかすかに潮の香が広がるとき傷つけあった愛のようなものが一瞬よみがえる８（豊美）もっとも柔らかい部分にふれようとしてふれることのできない言葉のもどかしさ愛をめぐる光と闇の間でそれらを語りつづけてなお届かないわたしたちの饒舌　その真実と数々のまぼろしの中で９（健二）老いた工場の裏の死んだ箱の山を見た洩れてくる泣き声と笑い声と長靴の通った地面に、傷を浮かびあがらせるだれの黙る故郷からの光だろう旅人の私たちはそれを避けて夜の闇へと急ぐ10（英己）そして晩秋の美しい光に迎えられるはるかな稜線小さなものたちの死の峠を通過し貧しい倫理の斜面を転げ落ちながら幻聴のように聞こえる音楽があったそれでも稔るもの、こんなに荒れた地面に11（豊美）四月が「もっとも残酷な月」なら十二月はもっともやさしい善意の月だ地上のすべての醜さを覆い尽くそうと木々は身を振るわせて黄金の雨を降らせ悲しむ人々の心を降る雪は温かくつつんでひと時の慰めを与えようとする12（健二）幼い子どもが殺されている泥靴の秋を追跡して、ふるえながら見る夢の山道、紅葉する木々「美しい星」に住む人々は景色に圧倒され、うつぶせになりそして証言するためにゆっくりと起き上がる13（英己）もう一つの世界へ茶色いズボンの可愛い子たちが消えてゆく賢者たちはむなしい贈りものをかかえて探しあぐねている　見えなくなった境界の豊かだった線の上貧しいクリスマスがやってくる14（豊美）電脳の神サマは忘れっぽいのだ彼の虚ろな画面からはどんな悲しい出来事もたちまち消え去りその白い境界を越えていまここへ戻ってくるのは木霊と愚かなトナカイたちばかり15（健二）秋の風がばらばらにした、ふるえる証拠たちをひとつに組み立てようとするが気がつくと自分が余っている愚かさ、手抜かり、薄暮のなかで何が生まれるのをゆるしたために棄てられ、寒空にこうして私たちは叫び声を追うのか16（英己）なつかしい積み藁のなかに秋はあるきみの無意識のしぐさと日々の喧騒のなかに沈潜している秋静かなふるえのあとに季節は目覚める解体された「叙情的なるもの」それをふたたび肉体のように組み立てる意思のなかに17（豊美）言葉よりも季節が先行してわたしたちはふたたび地上に取り残される時ならぬ雪はせめてもの恩寵と呼ぶべきだろうちいさな火を両手で囲い暖かさを掬い取るこのきれいな火をきれいなままできみのもとに届けたい18（健二）酔いながら、歌わない芯を硬くしながら岡山、神戸、そして降りられなかった静岡傷と寒さへの永遠の妹となって眠るきみの季節を地上の私たちが追いかけてゆくこの旅は、まだはじまったばかりだ

January 15, 2006

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連詩・秋風秋雨（その１）

1（英己）秋風秋雨人を愁殺す連詩は初めから「殺す」を使える連句はだめだ今日ぼくは死について考えていた満月に向う月は生きていた金木犀は香っていた　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2（豊美）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　濡れたススキの穂が銀色に光った　　　　　　　　一輌だけの小さな列車に乗っていった内陸へ、内陸へと消えがての駅名をつなぎ山襞の眠りの底をくぐって目覚めと忘却を繰り返す幸せとも不幸せともいえない水源へのながい帰路だった　　　　　　　　　　　　　　　3（健二）　　　　　　　　　　　枝も葉も香りもある物語のならぶ秋へとどうやって帰ろうか「わたし、絶対あやまらない」百年前の機械が動いている愛すべきごみ箱である市場でいつまでも夏を生きる娘たちの露出する夢と議論する

October 21, 2005

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FARM 連詩・「島」（夏の巻）完成版

連詩　「島」　　　　　　　　ＦＡＲＭ１トンネルのなかで何をしていたのか？ズタズタになった心で悪魔とゲームをしたトンネルの外は雨と風が通ってゆく七月帰りたい島をひとつひとつ消して行ってしまう影に声をかけそびれる２言葉が出来事を呼び寄せる　それを信じないならテロリストにはなれないどこにもないものを探してそっと引き出しを開けたり閉めたりした雨上がりの庭に出て山椒の葉についたアゲハチョウの幼虫を見た３「死をポケットに入れて」時々ワインと一緒にポケットから出して飲む忘れないために生まれたての赤ん坊ショパンのベルスーズ（子守唄）そこから　また始めよう４地面を這う者たちを殺そうとする「経験」の光線におびえながらテーブルの上の桃皮が手でするっとむけるそこで覚醒して赤ん坊が泣いている島にきた５藁の愛を与え尽くして萎えた母たちが同じほどに老いた防波堤にひっそりと守られているひと刷毛の薔薇色を沖に残して絵の中の懐かしい顔が闇に沈んでゆくときここに小さな灯台の灯その顔を照らし出すための６瑠璃の島に流れる時と抗う珊瑚の海に潜る素っ裸でクマノミのようにぼくのセックスは自由に変わるきみに貫かれて新しい朝を産む７幼い生きものの何も見ていない目にも「世界でいちばん美しい」落日にも負けない負けずに、島の、風の丘をはさんだふたつの岸辺を行き来しておぼえるアンテナの動かし方とは？８海から吹き寄せる風は崖の上の無花果の葉に戯れ、並び立つ双つの丘の歌と歌の間をくぐりぬけて、ふたたび海へかえっていった夜の中で私の仕事は血と土、火と牡蠣殻、鉛と灰大気と香気を混ぜ合わせて、どこにもない新しい物質を作り出すこと９シラクーザで真っ赤な石榴の花を見た棘ある枝、果実はやがて大きく裂けるだろうギリシアの女は裸の岩石と交わり、数多の種子を産む「私が悪いと言いふらしているのはだれだ？私は悪くなんかない」秘密の皺、王冠にかこまれた裂け目がクラック、クラックと割れる「私の心も夜明けの色のように裂けてゆく、万華鏡のように自在に変化して」10ウェールズの入江の寒い夏から双生児を生んだ女友達のいるベルリン経由でエーゲ海の落日のなかに戻るサントリーニ　古代名テラアテネに怒りの電話を入れあとは泳いで飲んで食べて、労働する神々を見ているだけだ１１創造力が涸れた伝説的な岩場そこで古代の神々がすべて息絶えたのを見定めてふたたび船出する　行く方も知らず蝉鳴ばかりが喧しいアジアの夏舞台に上がった政治屋たちの空疎なパフォーマンスがさらに不快と汗を塗り重ねてゆく壁の前12声と文字が絶滅した社会ダジャレの前でふるえている容赦のない厳しさで襲いかかる夏ガザから放逐される、それを命じた者たちに世界のまえで容易く被害者によって反復されるきみポグロム、ショアー、ユーデンライン、郵便乱淫13オキ　サド　レブン　それぞれの夏からまっくらな夜へと脱出する魂を追った日々アイルランドのアラン島にも行ったパブの灯が消えると村も消えて前方に岩場があるかどうかもわからなくなるその夜が紫とオレンジの暁へと一気に変身した14 半身を土に　半身を空に羽化してゆく蝉が草の穂の先で透明な水色の羽をかすかにふるわせている半身を闇に　半身を光に半島はその先端を　ここからさらに海へと差し出すメタモルフオーゼしてゆく島々　夜から暁へのつかの間の時に15欲望という名の電車に乗って貧しい聖者たちがスーパードームに収容されるジャズの街　クレオールの街　罪の街廻り来るマルディ・グラの日に　私は告白するあなたを余りに愛しすぎたのであなたを殺したのだと私の涙のなかで金魚の鰭のようにつかの間　あなたが光る16どんな島に生まれたどんな詩人に退屈してカトリーナは「侵入し、通過して」いったのか？誘惑するだけの美を戒める詩を書いた詩人の故郷の島で、私はすることがなくなり抗議する娘たちは自分でシャツを引き裂いて踊った17最後にもの静かなオフィーリアが出て美人コンテストは終わるみんなカッコいいものが好きで、美しいものにあこがれてでも、美しいものとは何かと問うことはめったにない絡まり茂った熱狂のシナプスのあいだに冷たい雨が降って秋がくる、　秋がくるこれから出る答えをゆっくり待っていればいい、というのだ18「日々の牢獄のなかにある自由な人」の帰りたい島　そこでリタたちを伝説にする日がいつかはやってくる懐かしい顔と影に守られて負けないよ　　小さなテントのなかで嵐が過ぎ去るまで（健二→豊美→英己の順）

September 27, 2005

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連詩「島」in progress 5

９（英己）シラクーザで真っ赤な石榴の花を見た棘ある枝、果実はやがて大きく裂けるだろうギリシアの女は裸の岩石と交わり、数多の種子を産む「私が悪いと言いふらしているのはだれだ？私は悪くなんかない」秘密の皺、王冠にかこまれた裂け目がクラック、クラックと割れる「私の心も夜明けの色のように裂けてゆく、万華鏡のように自在に変化して」10（健二）ウェールズの入江の寒い夏から双生児を生んだ女友達のいるベルリン経由でエーゲ海の落日のなかに戻るサントリーニ　古代名テラアテネに怒りの電話を入れあとは泳いで飲んで食べて、労働する神々を見ているだけだ11（豊美）創造力が涸れた伝説的な岩場そこで古代の神々がすべて息絶えたのを見定めてふたたび船出する　行く方も知らず蝉鳴ばかりが喧しいアジアの夏舞台に上がった政治屋たちの空疎なパフォーマンスがさらに不快と汗を塗り重ねてゆく壁の前(コメントとノート）10（福間健二）ベルリン経由で、世界でいちばん美しい落日が見られるというサントリーニ島に行ったのは、六年前。ワインも食べ物もおいしくて大満足だったけれど、実は、ヨーロッパ人のようにリゾート地で何もしないで休暇をたのしむということができなかった。昼間から飲むのも怖い。時間をもてあましてしまった。たまたま日本語の本も英語の本も持ってきていなかった。宿にあったフランス語の小説をめくってみたが、そんなによくはわからない。そのときに出会ったのが、すてられていた古雑誌のなかに見つけたシェイマス・ヒーニーの、ギリシャ神話に材をとった連作詩。いつも以上に、わかりやすい英語を使っている気がした。つまり、読みやすかったということ。慰められたとまではいかないが、午後をひとつつぶすことができた。それなのに、感謝するよりも、ヒーニーという詩人の達者さに腹を立てたりしていた。今度の旅は、ギリシャに入るかどうかは未定で、入るとしても、国としてのマケドニアから、ギリシャのなかのマケドニアに入るのです。まず、ブルガリアを少しまわって、それからマケドニアの西のオフリド湖まで行く。そこからはアルバニアもすぐです。どういうコースで、ブルガリアの首都ソフィアに戻るか。かなりの冒険が待っているようで、５６歳と５２歳の夫婦、例によってけんかをしながら、そして大丈夫かなと心配しながら、ワクワクしています。11（新井豊美）福間さん、旅行の準備整いましたか。よい旅でありますように。９（水島英己）ぼくの詩は、新井さんの前の「海から吹き寄せる風は崖の上の無花果の葉に戯れ、並び立つ双つの丘の歌と歌の間をくぐりぬけて、ふたたび海へかえっていった夜の中で私の仕事は血と土、火と牡蠣殻、鉛と灰大気と香気を混ぜ合わせて、どこにもない新しい物質を作り出すこと」を受けて書いたもの。気分的には「島」を地中海やエーゲ海の島に連れ出そうということ。この新井さんの詩にもそういう「島」の神話的ともいうべき気分があると見定めて書いた。ロレンスの詩の影響がある。この「in progress 5」をupしている現在、福間夫婦は上記の旅の途上である。おいしい土産話を期待している。

August 27, 2005

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連詩「島」in progress4

６（英己）瑠璃の島に流れる時と抗う珊瑚の海に潜る素っ裸でクマノミのようにぼくのセックスは自由に変わるきみに貫かれて新しい朝を産む７（健二）幼い生きものの何も見ていない目にも「世界でいちばん美しい」落日にも負けない負けずに、島の、風の丘をはさんだふたつの岸辺を行き来しておぼえるアンテナの動かし方とは？８（豊美）海から吹き寄せる風は崖の上の無花果の葉に戯れ、並び立つ双つの丘の歌と歌の間をくぐりぬけて、ふたたび海へかえっていった夜の中で私の仕事は血と土、火と牡蠣殻、鉛と灰大気と香気を混ぜ合わせて、どこにもない新しい物質を作り出すこと（作者によるコメントおよびノート）新井さんも水島さんも留守なのを意識して、のんびりしてしまいました。たぶんそのおかげで、リズムに変化が出たと思います。ところで、８月２４日から９月７日まで、ブルガリア、マケドニア、ギリシャ北部をまわる旅行に出ることに、急に決まりました。ちょっと中断ということになるでしょうが、どうぞよろしく。（８月３日・福間健二）暑いですね。ｆａｒｍの皆さんお元気ですか。「島」の巻、８をお送りします。水島さん、後藤一樹君のご期待にこたえて、今回、古典的にいきたいと思います。よろしく。福間さん、ギリシャ、マケドニアの旅、いいですね！新しい風を持って帰って来てくださーい。（8月７日・新井豊美）福間健二のコメントにある期間が延びたと言うのは、ぼく（水島）の６番の詩が7月26日にできたものだから、それからのことを言っている。ぼくは合宿などで東京にいなかった、新井さんもどこかに行かれ、留守にしていたのだろう。今までにないゆっくりとした間隔である。この３つの流れについて。６の最終行は「夕陽に貫かれて」を「きみに貫かれて」と最初の形にもどした。健二の「リズムに変化が出た」というのは、どういうことだろうか、たぶん今までの連詩にあった切迫した情調が間髪を入れない連続的な受け答えにあるのだとしたら、それをゆっくりとずらすことから生じる新たな展開を企図してもいいじゃないかということなのだろう。そういうことで海と島というのはずいぶんと作者たちの無意識をゆったりと広げる働きをしているのだと思う。７の詩についていえば、そのリズムの変化は、今までと違って、そこで言い切らないで、「アンテナの動かし方とは？」と次の作者に尋ねたところにもあるのではないか。８の新井豊美のコメントは新井さんの前の詩を誉めた後藤一樹への挨拶から始まっているが、「古典的」というのもやっぱり時間的な余裕が生み出すのと無関係ではないだろう。７の詩を忠実に受けているのは言うまでもないが、ぼくは７の「アンテナの動かし方とは？」という問いかけに対する、「どこにもない新しい物質を作り出すこと」という答えに、古典的な錬金術？のイメージをわざと見せながら、最後にちょっと違うロマンチックな味わいを付加することも忘れない新井さんの付け方の若々しさを思った。ロマンチックというよりも、魔術的な感じもしますね、ちょっとシェークスピアのマクベスの最初も感じられる。さあ、これをぼくはどう受けるか。時間をかけよう。（ノート・水島記）

August 9, 2005

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連詩「島」in progress3

４(健二）地面を這う者たちを殺そうとする「経験」の光線におびえながらテーブルの上の桃皮が手でするっとむけるそこで覚醒して赤ん坊が泣いている島にきた５（豊美）藁の愛を与え尽くして萎えた母たちが同じほどに老いた防波堤にひっそりと守られているひと刷毛の薔薇色を沖に残して絵の中の懐かしい顔が闇に沈んでゆくときここに小さな灯台の灯その顔を照らし出すための６（英己）瑠璃の島に流れる時と抗う珊瑚の海に潜る素っ裸でクマノミのようにぼくのセックスは自由に変わる夕陽に貫かれて新しい朝を産む（ノート）４、５、６の流れについて。―地面を這う者たちを　殺そうとする「経験」の光線―という健二の詩句に驚く。「地面を這う者たち」という言葉を考えていると健二が言ったことを耳にとどめていた。それを殺そうとする「経験」の光線とは？ここにはブレイクの「無垢」と「経験」に対する健二の解釈が潜んでいるのかもしれない。しかし、ぼくが無条件に感じるのは、彼の詩集のなかで一番好きな「地上のぬくもり」との関連である。「地面を這う者たち」とは「地上のぬくもり」を生きている者たちのことでもある。それに対してどういう「経験」もそのプライオリティを主張することはできないのだが、それを僭称するものに脅えているということであろうか。「桃」の感触。健二は桃の花は嫌いだとぼくに語ったことがあるが、桃の実は好きなのだ。「赤ん坊」の前詩の登場の工夫の無さと比較せよ。５の豊美の詩の美しさの比類のなさはどうだ。「藁の愛を与え尽くして萎えた母たち」という詩句は明らかに健二の「地面を這う者たち」を受け取った言葉である。殺そうとする「光線」は優しい「灯台の灯」に変えられる。豊美の「島」が浮上する。（水島英己）

July 26, 2005

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連詩　　島２と作者によるノート

４地面を這う者たちを殺そうとする「経験」の光線におびえながらテーブルの上の桃皮が手でするっとむけるそこで覚醒して赤ん坊が泣いている島にきた（連詩ノート）宮野裕司＋是安則克のコンサートの夜、「福間さん、あのテロを予感したのね」と新井さんに言われた。驚いた。この連詩の場合、新井・水島のあいだにいる、そこが詩の生まれる場所だと感じてきたが、その空間とおなじくらい、自分の送った言葉がめぐっていく未来の時間も（彼女の、彼の、そしてまた私の〉詩の生まれる場所だ。その時間に、世界は容赦なくさまざまなニュースを送り込んでくる。確かに、私たちは、言葉を次の人に送ると同時に、明日（未来〉に送っていることになる。いっそのこと、ウィリアム・ブレイクのような暗示力をもった占いを書いてしまえ、という気がしてきた。マスメディアの報道が暴力的に作る、事実をめぐる物語を、抵抗なく詩に接続させるわけにはいかない。次の書き手が生きる明日を占う。連詩の面白さがもうひとつできた気がする。（福間健二）

July 22, 2005

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連詩　　島 1

１トンネルのなかで何をしていたのか？ズタズタになった心で悪魔とゲームをしたトンネルの外は雨と風が通ってゆく七月帰りたい島をひとつひとつ消して行ってしまう影に声をかけそびれる２言葉が出来事を呼び寄せる　それを信じないからテロリストにはなれないどこにもないものを探してそっと引き出しを開けたり閉めたりした雨上がりの庭に出て山椒の葉についたアゲハチョウの幼虫を見た３「死をポケットに入れて」時々ワインと一緒にポケットから出して飲む忘れないために生まれたての赤ん坊ショパンのベルスーズ（子守唄）ここから　また始めよう（ノート）難しい始まりで、どうなるのか心配だが、出発した。付けていくときの文脈をぼくなりにこれから発見して、随時書いていこうと思う。１は福間健二だが、トンネルの中と外の対比はよくわかる。「帰りたい島をひとつひとつ消して行ってしまう影に声をかけそびれる」という2行がぼくには難解。「行ってしまう影」とは誰の影か？「島」というタイトルで始まったのに当初から「島」が消されている、困難な旅を健二は強いているのだと受け取るしかない。２は新井豊美さん。１の詩に付けるためには「どこにもないものを探し」ていくしかない。消された「帰りたい島」と、にもかかわらず「行ってしまう影」のイメージを「雨上がりの庭」で発見した「アゲハチョウの幼虫」に移し変えた、これはぼくの読み。３は英己、１、２に見られる「困難」さを単純に転じようとしただけである。これから、この欄に掲示板から転載するときは、健二、豊美にもノートを書いてもらおうと考えている。大体、一回りごとに。妄言多謝。

July 17, 2005

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白い凪（推敲版・完成形）　 by FARM

白い凪　　　　　　　　　　　　　　FARM 1大波が去ったあとに白い凪がくる何からわたしは忘れられたのだろう春は瑞々しい忘却のはじまり氷が溶けた瞳の空へつま先立つように腐蝕した青銅の肉体から伸びてゆく草の芽　2洗いたてのシーツの上におかれた芽をもつ「傷」から踊りはじめた春痛みをかかえて雨のなかを（空を失った川に沿って）戻るときも地面を踏むことによろこびを感じるだろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 3摘み取ったばかりの薔薇の莟みが匂うとき、開封された手紙の文字たちが光に触れるとき、黄砂のように植物の花粉が風に舞うとき。唇をつなぐ蝶番、ひび割れた唇の奥の一葉の翼、舌は春に乗り、春を羽ばたく。二枚貝の化石の沈黙のあとで……4函の中で見知らぬ鳥がマラッカ　マラッカと鳴く屋根の上で今日のカラスがイヤダ　イヤダと叫ぶ黄色い口を開けて隣家の幼鳥がママ　ママとさえずる手のひらに埋もれて20年春がくると騒ぎだすトゲがこの春はなぜか静かだトゲはついにわたしを忘れたらしい5住む人のいなくなった部屋に南からの反響がひびく鳥たち植物たち「腐りかけた床板」の上の私たち一枚の絵のなかのそれぞれの春6海原の小舟のように流れて十分に遅く（アダージョ・アッサイ）もっとも優しく美しい旋律に出会ううねうねとした道きわめて速く（プレスト）歳月は忘却と傷を、傷を忘却と縫合する７　海図もなく羅針盤もなくすべての中間を漂い雲と霧の裂け目から漏れくる光鉛色にしずもる予兆の境界をのぞみそのさらに彼方に純粋な歓びの遠ざかるのを目撃する8夢の川をボートでさかのぼるエイプリルフール嘘をつく岸辺の木の指にさわられて一緒にきた悲しみが姿を水に映す半分は青いつばさをもつ鳥半分は倒れるように踊る人間の9クラクフから強い風が吹く枢機卿の赤い裳裾が世界の歴史のように翻るカリグラのオベリスクのもとに跪く権力者たちただ悲しみの輪のなかに存在するためにはるかナイジェリアからやってきた青年たち10祈るためにはどんな音楽も装置も要らないここにいてわたしの祈りはただ眼を閉じること閉じた目の高空にひとつの言葉を念じること「うまれでくるたて／こんどはこたに／わりゃのごとばがりで／くるしまなあよに／うまれでくる」11「なにかそうするよりしかたなくて」やまない風のなかに立った散る花とともにひとりの人間が完璧に消えて影が生まれるその影からそっとはなれて歩く目を閉じて、遠い方舟まで12土曜日の午後五時すぎ「逝ける王女のためのパヴァーヌ」を聴いている五分と五十五秒私は西の窓にかかるカーテンをすべて開けてみた密集する屋根の上光暈のなかから現われる沈むものの強い意思13眠る木の中の一本の木眠る鳥の中の一羽の鳥眠る人の中のもうひとりの人の目覚めている夜の中のもうひとつの夜ともうひとつの夜の中でかがやきはじめる無数の星の限りない生誕と同じ数だけの死14そしてわたしのなかには誰もいないこの世の線路、一分三十秒の黒い不安のなかにおりて思ってはいけないことを思ってしまう植物の根のようなものが理由のない朝へと引き抜かれるのを待っているだけだ15すべてを吐きだした後に涙だけがきらめく涙を袖につつむ袖をしぼる四月の終わり壊れたケータイの小窓に残る形見寂しい心と笑う背骨を持った生きている機械の16いつもの朝から少しだけ違う雨後の朝へ張り渡すクモの糸　水滴を連ねて背骨はすこし曲がっているけど　それでいいはじめはみんなこの水の一滴から始まっていくのだから17遠いラジオからの朝のR&B空にはかすかに三日月が残っているまだ終わってないよね卒業式の夜の実存主義一滴の疑いから生まれた「不在者」のステップで踊るこの恋は！18青い草に置く露のように輝くきみの体を抱いて五月待つ花橘のように匂い立つきみのなかに入ってあしひきの山のしずくに濡れて旅にてlegionnaire（外人部隊）として生きて百重なす心のままに愛し愛されて

May 24, 2005

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連詩　白い凪（３月16日～５月１５日）完成　

白い凪　　　　　　　　　　　　FARM 1大波が去ったあとに白い凪がくる何からわたしは忘れられたのだろう春は瑞々しい忘却のはじまり氷が溶けた瞳の空へつま先立つように腐蝕した青銅の肉体から伸びてゆく草の芽　2洗いたてのシーツの上におかれた芽をもつ「傷」から踊りはじめた春痛みをかかえて雨のなかを（空を失った川に沿って）戻るときも地面を踏むことによろこびを感じるだろう　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 3摘み取ったばかりの薔薇の莟みが匂うとき、開封された手紙の文字たちが光に触れるとき、黄砂のように植物の花粉が風に舞うとき。唇をつなぐ蝶番、ひび割れた唇の奥の一葉の翼、舌は春に乗り、春を羽ばたく。二枚貝の化石の沈黙のあとで……4函の中で見知らぬ鳥がマラッカ　マラッカと鳴く屋根の上で今日のカラスがイヤダ　イヤダと叫ぶ黄色い口を開けて隣家の幼鳥がママ　ママとさえずる手のひらに埋もれて20年春がくると騒ぎだすトゲがこの春はなぜか静かだトゲはついにわたしを忘れたらしい5住む人のいなくなった部屋に南からの反響がひびく鳥たち植物たち「腐りかけた床板」の上の私たち一枚の絵のなかのそれぞれの春6海原の小舟のように流れて十分に遅く（アダージョ・アッサイ）もっとも優しく美しい旋律に出会ううねうねとした道きわめて速く（プレスト）歳月は忘却と傷を、傷を忘却と縫合する７　海図もなく羅針盤もなくすべての中間を漂い雲と霧の裂け目から漏れくる光鉛色にしずもる予兆の境界をのぞみそのさらに彼方に純粋な歓びの遠ざかるのを目撃する8夢の川をボートでさかのぼるエイプリルフール嘘をつく岸辺の木の指にさわられて一緒にきた悲しみが姿を水に映す半分は青いつばさをもつ鳥半分は倒れるように踊る人間の9クラクフから強い風が吹く枢機卿の赤い裳裾が世界の歴史のように翻るカリグラのオベリスクのもとに跪く権力者たちただ悲しみの輪のなかに存在するためにはるかナイジェリアからやってきた青年たち10祈るためにはどんな音楽も装置も要らないここにいてわたしの祈りはただ眼を閉じること閉じた目の高空にひとつの言葉を念じること「うまれでくるたて／こんどはこたに／わりゃのごとばがりで／くるしまなあよに／うまれでくる」11「なにかそうするよりしかたなくて」やまない風のなかに立った散る花とともにひとりの人間が完璧に消えて影が生まれるその影からそっとはなれて歩く目を閉じて、遠い方舟まで12土曜日の午後五時すぎ「逝ける王女のためのパヴァーヌ」を聴いている五分と五十五秒私は西の窓にかかるカーテンをすべて開けてみた密集する屋根の上光暈のなかから現われる沈むものの強い意思13眠る木の中の一本の木眠る鳥の中の一羽の鳥眠る人の中のもうひとりの人の目覚めている夜の中のもうひとつの夜ともうひとつの夜の中でかがやきはじめる無数の星の限りない生誕と同じ数だけの死14そしてわたしのなかには誰もいないこの世の線路、一分三十秒の黒い不安のなかにおりて思ってはいけないことを思ってしまう植物の根のようなものが理由のない朝へと引き抜かれるのを待っているだけだ15すべてを吐きだした後に涙だけがきらめく涙を袖につつむ袖をしぼる四月の終わり壊れたケータイの小窓に残る形見寂しい心と笑う背骨を持った生きている機械の16いつもの朝から少しだけ違う雨後の朝へ張り渡すクモの糸　水滴を連ねて背骨はすこし曲がっているけど　それでいいはじめはみんなこの水の一滴から始まっていくのだから17遠いラジオからの朝のR&B空にはかすかに三日月が残っているまだ終わってないよね卒業式の夜の実存主義一滴の疑いから生まれた「不在者」のステップで踊るこの恋は！18青い草に置く露のように輝くきみの体を抱いて五月待つ花橘のように匂い立つきみのなかに入ってあしひきの山のしずくに濡れて旅にてlegionnaire（外人部隊）として生きて百重なす心のままに愛し愛されて

May 15, 2005

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白い凪（15まで）

白い凪　　　　　　　　　FARM1大波が去ったあとに白い凪がくる何からわたしは忘れられたのだろう春は瑞々しい忘却のはじまり氷が溶けた瞳の空へつま先立つように腐蝕した青銅の肉体から伸びてゆく一本の草の芽　2洗いたてのシーツの上におかれた芽をもつ「傷」から踊りはじめた春痛みをかかえて雨のなかを空を失った川に沿って戻るときも地面を踏むことによろこびを感じて　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 3摘み取ったばかりの薔薇の莟みが匂うとき、開封された手紙の文字たちが光に触れるとき、黄砂のように植物の花粉が風に舞うとき。唇をつなぐ蝶番、ひび割れた唇の奥の一葉の翼、舌は春に乗り、春を羽ばたく。二枚貝の化石の沈黙のあとで……4函の中で見知らぬ鳥がマラッカ　マラッカと鳴く屋根の上で今日のカラスがヤダ　ヤダと喚く黄色い口を開けて隣家の幼鳥がママ　ママとさえずる手のひらに埋もれて20年春がくると騒ぎだすトゲがこの春はなぜか静かだトゲはついにわたしを忘れたらしい5住む人のいなくなった部屋に南からの反響がひびく鳥たち植物たち「腐りかけた床板」の上の私たち一枚の絵のなかのそれぞれの春6海原の小舟のように流れて十分に遅く（アダージョ・アッサイ）もっとも優しく美しい旋律に出会ううねうねとした道きわめて速く（プレスト）歳月は忘却と傷を、傷を忘却と縫合する7海図もなく羅針盤もなくすべての中間を漂い雲と霧の裂け目から漏れくる光鉛色にしずもる予兆の境界をのぞみそのさらに彼方に純粋な歓びの遠ざかるのを目撃する8夢の川をボートでさかのぼるエイプリルフール嘘をつく岸辺の木の指にさわられて一緒にきた悲しみが姿を水に映す半分は青いつばさをもつ鳥半分は倒れるように踊る人間の9クラクフから強い風が吹く枢機卿の赤い裳裾が世界の歴史のように翻るカリグラのオベリスクのもとに跪く権力者たちただ悲しみの輪のなかに存在するためにはるかナイジェリアからやってきた青年たち10祈るためにはどんな音楽も装置も要らないここにいてわたしの祈りはただ眼を閉じること閉じた目の高空にひとつの言葉を念じること「うまれでくるたて／こんどはこたに／わりゃのごとばがりで／くるしまなあよに／うまれでくる」11「なにかそうするよりしかたなくて」やまない風のなかに立った散る花とともにひとりの人間が完璧に消えて影が生まれるその影からそっとはなれて歩く目を閉じて、遠い幕舎まで12土曜日の午後五時すぎ「逝ける王女のためのパヴァーヌ」を聴いている五分と五十五秒私は西の窓にかかるカーテンをすべて開けてみた密集する屋根の上光暈のなかから沈む陽の強い光が現われる13眠る木の中の一本の木眠る鳥の中の一羽の鳥眠る人の中のもうひとりの人の目覚めている夜の中のもうひとつの夜ともうひとつの夜の中でかがやきはじめる無数の星の限りない生誕と同じ数だけの死14そしてわたしのなかには誰もいないたとえばとりかえせない一分三十秒の黒い不安のなかにおりて思ってはいけないことを思ってしまう植物の根のようなものが理由のない朝へと引き抜かれるのを待っているだけだ15すべてを吐きだした後に涙だけがきらめく涙を袖につつむ袖をしぼる四月の終わり壊れたケータイの小窓に残る形見さびしい心と笑う背骨を持った生きている機械の

May 2, 2005

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連詩・春の部（新井豊美・福間健二・水島英己）

白い凪　　　　　　　FARM1大波が去ったあとに白い凪がくる何からわたしは忘れられたのだろう春は瑞々しい忘却のはじまり氷が溶けた瞳の空へつま先立つように腐蝕した青銅の肉体から伸びてゆく一本の草の芽　2洗いたてのシーツの上におかれた芽をもつ「傷」から踊りはじめた春痛みをかかえて雨のなかを空を失った川に沿って戻るときも地面を踏むことによろこびを感じて　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 3摘み取ったばかりの薔薇の莟みが匂うとき、開封された手紙の文字たちが光に触れるとき、黄砂のように植物の花粉が風に舞うとき。唇をつなぐ蝶番、ひび割れた唇の奥の一葉の翼、舌は春に乗り、春を羽ばたく。二枚貝の化石の沈黙のあとで……4函の中で見知らぬ鳥がマラッカ　マラッカと鳴く屋根の上で今日のカラスがヤダ　ヤダと喚く黄色い口を開けて隣家の幼鳥がママ　ママとさえずる手のひらに埋もれて20年春がくると騒ぎだすトゲがこの春はなぜか静かだトゲはついにわたしを忘れたらしい5住む人のいなくなった部屋に南からの反響がひびく鳥たち植物たち「腐りかけた床板」の上の私たち一枚の絵のなかのそれぞれの春6海原の小舟のように流れて十分に遅く（アダージョ・アッサイ）もっとも優しく美しい旋律に出会ううねうねとした道きわめて速く（プレスト）歳月は忘却と傷を、傷を忘却と縫合する7海図もなく羅針盤もなくすべての中間を漂い雲と霧の裂け目から漏れくる光鉛色にしずもる予兆の境界をのぞみそのさらに彼方に純粋な歓びの遠ざかるのを目撃する8夢の川をボートでさかのぼるエイプリルフール嘘をつく岸辺の木の指にさわられて一緒にきた悲しみが姿を水に映す半分は青いつばさをもつ鳥半分は倒れるように踊る人間の9クラクフから強い風が吹く枢機卿の赤い裳裾が世界の歴史のように翻るカリグラのオベリスクのもとに跪く権力者たちただ悲しみの輪のなかに存在するためにはるかナイジェリアからやってきた青年たち10祈るためにはどんな音楽も装置も要らないここにいてわたしの祈りはただ眼を閉じること閉じた目の高空にひとつの言葉を念じること「うまれでくるたて／こんどはこたに／わりゃのごとばがりで／くるしまなあよに／うまれでくる」11「なにかそうするよりしかたなくて」やまない風のなかに立った散る花とともにひとりの人間が完璧に消えて影が生まれるその影からそっとはなれて歩く目を閉じて、遠い幕舎まで12土曜日の午後五時すぎ「逝ける王女のためのパヴァーヌ」を聴いている五分と五十五秒私は西の窓にかかるカーテンをすべて開けてみた密集する屋根の上光暈のなかから沈む陽の強い光が現われる13眠る木の中の一本の木眠る鳥の中の一羽の鳥眠る人の中のもうひとりの人の目覚めている夜の中のもうひとつの夜ともうひとつの夜の中でかがやきはじめる無数の星の限りない生誕と同じ数だけの死

April 30, 2005

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連詩３

白い凪　　　　　　　　　　　　FARM 1大波が去ったあとに白い凪がくる何からわたしは忘れられたのだろう春は瑞々しい忘却のはじまり氷が溶けた瞳の空へつま先立つように腐蝕した青銅の肉体から伸びてゆく一本の草の芽　2洗いたてのシーツの上におかれた芽をもつ「傷」から踊りはじめた春痛みをかかえて雨のなかを空を失った川に沿って戻るときも地面を踏むことによろこびを感じて　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 3摘み取ったばかりの薔薇の莟みが匂うとき、開封された手紙の文字たちが光に触れるとき、黄砂のように植物の花粉が風に舞うとき。唇をつなぐ蝶番、ひび割れた唇の奥の一葉の翼、舌は春に乗り、春を羽ばたく。二枚貝の化石の沈黙のあとで……4函の中で見知らぬ鳥がマラッカ　マラッカと鳴く屋根の上で今日のカラスがヤダ　ヤダと喚く黄色い口を開けて隣家の幼鳥がママ　ママとさえずる手のひらに埋もれて20年春がくると騒ぎだすトゲがこの春はなぜか静かだトゲはついにわたしを忘れたらしい5住む人のいなくなった部屋に南からの反響がひびく鳥たち植物たち「腐りかけた床板」の上の私たち一枚の絵のなかのそれぞれの春6海原の小舟のように流れて十分に遅く（アダージョ・アッサイ）もっとも優しく美しい旋律に出会ううねうねとした道きわめて速く（プレスト）歳月は忘却と傷を、傷を忘却と縫合する７　海図もなく羅針盤もなくすべての中間を漂い雲と霧の裂け目から漏れくる光鉛色にしずもる予兆の境界をのぞみそのさらに彼方に純粋な歓びの遠ざかるのを目撃する８夢の川をボートでさかのぼるエイプリルフール嘘をつく岸辺の木の指にさわられて一緒にきた悲しみが姿を水に映す半分は青いつばさをもつ鳥半分は倒れるように踊る人間の９クラクフから強い風が吹く枢機卿の赤い裳裾が世界の歴史のように翻るカリグラのオベリスクのもとに跪く権力者たちただ悲しみの輪のなかに存在するためにはるかナイジェリアからやってきた青年たち10祈るためにはどんな音楽も装置も要らないここにいてわたしの祈りはただ眼を閉じること閉じた目の高空にひとつの言葉を念じること「うまれでくるたて／こんどはこたに／わりゃのごとばがりで／くるしまなあよに／うまれでくる」

April 14, 2005

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連詩　白い凪（新井豊美・福間健二・水島英己）

白い凪　　　　　　　　　　　　FARM 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　1大波が去ったあとに白い凪がくる何からわたしは忘れられたのだろう春は瑞々しい忘却のはじまり氷が溶けた瞳の空へつま先立つように腐蝕した青銅の肉体から伸びてゆく一本の草の芽　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2洗いたてのシーツの上におかれた芽をもつ「傷」から踊りはじめた春痛みをかかえて雨のなかを空を失った川に沿って戻るときも地面を踏むことによろこびを感じて　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 3摘み取ったばかりの薔薇の莟みが匂うとき、開封された手紙の文字たちが光に触れるとき、黄砂のように植物の花粉が風に舞うとき。唇をつなぐ蝶番、ひび割れた唇の奥の一葉の翼、舌は春に乗り、春を羽ばたく。二枚貝の化石の沈黙のあとで……　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　4函の中で見知らぬ鳥がマラッカ　マラッカと鳴く屋根の上で今日のカラスがヤダ　ヤダと喚く黄色い口を開けて隣家の幼鳥がママ　ママとさえずる手のひらに埋もれて20年春がくると騒ぎだすトゲがこの春はなぜか静かだトゲはついにわたしを忘れたらしい　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　5住む人のいなくなった部屋に南からの反響がひびく鳥たち植物たち「腐りかけた床板」の上の私たち一枚の絵のなかのそれぞれの春　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　6海原の小舟のように流れて十分に遅く（アダージョ・アッサイ）もっとも優しく美しい旋律に出会ううねうねとした道きわめて速く（プレスト）歳月は忘却と傷を、傷を忘却と縫合する

March 26, 2005

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連詩　第２弾が始まった.

連詩　第２弾が始まった。タイトルは「白い凪」。英語で言えば、The White Calm というのか。今回の「春の部」の連詩はそれぞれの名前と作成日付を抜きにして掲載してみようと考えている。ただし順番は、新井、福間、水島である。この連詩の作者名はFARMとする。この作者名をふくめ前回の連詩「嘆きのとき」とその「ノート」（水島記）が６月刊行の「詩の雑誌　ミッドナイトプレス」に掲載される予定である。白い凪　　　　　　　　　　　　　　FARM　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１大波が去ったあとに白い凪がくる何からわたしは忘れられたのだろう春は瑞々しい忘却のはじまり氷が溶けた瞳の空へつま先立つように腐蝕した青銅の肉体から伸びてゆく一本の草の芽　　　　　　　　　　　２洗いたてのシーツの上におかれた芽をもつ「傷」から踊りはじめた春痛みをかかえて雨のなかを戻るときも天空へと跳ぶことさらに地面を踏むことによろこびを感じて　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　３摘み取ったばかりの薔薇の莟みが匂うとき、開封された手紙の文字たちが光に触れるとき、黄砂のように植物の花粉が風に舞うとき。唇をつなぐ蝶番、ひび割れた唇の奥の一葉の翼、舌は春に乗り、春を羽ばたく。二枚貝の化石の沈黙のあとで……

March 19, 2005

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連詩17（完成）

A Time to Mourn　老婆の悲嘆のように鈍くてかすかな脈拍が聞こえる暗いジャングル妨害電波の網を潜り抜けたかすかな脈拍が声になる Muy Buenos Dias! 未明の声がよびかけるとき、忘れられた朝がよみがえる暗い谷間に響くサウンドトラック英己05/1/9アイルランドでは　妖精は「良い人たち」いたずらの上手な「良い人たち」だアジアでいたずらが上手なのはだれか？大津波にさらわれ　二週間インド洋を漂流して助かった青年が　けさのニュースの主役　健二05/1/11 スクナヒコナは小さい神さま粟の穂をぴょんと飛んでいく蚤のような神さま波の果てにあるというまぼろしの常世の国から来て穀物の種子をくれた善意のひとでも善意のひとはつねに時代の異端者、歴史の端役波間に消えて忘れられた神さま豊美　05/1/13飢饉や戦争も一回だけってことはなかったのにね「一回性」の神話にとらわれて「悲歌」が地下室で歌われ厚着をした人たちが自分たちの神様を祭っているよ動くことが大切なのにどう動けばいいのかわからないままに　あるいは動かされるままに多くの忘却を歌いすぎたので思い出すのに疲れて英己　05/1/15むこうからも　こちらからも作戦のたてようがない　愚かさのかたまりとなって漂流する夢を見るボートも来ない　筏も来ないこの部屋の　結露でくもった窓の外をだれかが通った　自信のない神様のように通った　　　　健二　05/1/16ザラザラしたもの　カビの生えたものでノドをいっぱいにしてもう壊れるしかないという不幸戦争が終わったとき一番元気だったのは誰？信じられないだろうが一番元気だったのは飢えた蚤たちだった空腹の言葉たちだった　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　豊美　05/1/18 森の入り口で洞穴のそばで引き返せない歩みを歩む人よきみの牙はまだとがっているやさしい仕草に満ちた愛らしい獲物の罠にかかり生きているが死んでいる　死んでいるが生きている英己　05/1/20夢のなかの　洞穴の奥はテレビカメラが去ったあとの神戸だテレビの嘘を信じない瞳に見つめられきょう　さらに壊れてゆくもの――十歳ずつ年をとった　さまよう家族の心のなかに幼い死者が生きているほどに　私たちは生きていない　　　　　　健二 05/1/22私たちは子どもを失っただけでなく子どもたちからも失われたのではないかあけぼの色の空の下にある　あの光の国から忘れられたすれっからしの大地　ガレキの中をさまよっているすべては自分自身の影法師ではないか　　　豊美　05/1/26 茶褐色の杉の木立の梢が空を刺している寒さの底で心が凍りつく日雑草が風に揺れている燻製にした虹鱒の腹に埋められた桜の破片英己　05/1/28夜　生きのびるひとりひとりが孤立する木となって揺れた私たちの冬　霜の理由遠い山並みがくっきりと見える朝のラグビー場で犬を連れた神様たちがあいさつしている　　　　健二　05/1/30立つためには言葉が必要だったそのことを知るために費やした歳月　それが短かったのか長かったのかわからない黙って歳を重ねているきみの　傷ついた太い幹に手を当てると　コノホネガアルカギリダイジョウブ　ウタウココロガアルカギリダイジョウブ老いた友人はいつも私を　こう励ましてくれる　豊美 05/1/31「根はどこに行くのか？」Where do the roots go?一匹の蝿が愛を歌う「雨には父がいるのか？」Hath the rain a father?魚が脚をくすぐる「それは光だったのか?」Was it light?問いかけるうるさい産着を破り　裸できみは生まれたのだ　　英己　　05/2/1逃げる足と地面を記憶する雨のなかでよみがえる木の魚　根をもつ動物いたずらに飽きた妖精たちの恋からはもう「恐ろしい美」は生まれないが私は生まれて　半世紀をこえる雨の廊下をどう逃げたというのだろう　　健二　05/2/2行き場を見失った雷の子が小さい炸裂を繰り返す路地の行き止まり冬じゅう降り積もった雪は汚れていっこうに融ける気配はないが見えないところで何かが変わっているはず雪の下で眠っていた蛙が薄目を開けてつぶやく「本当のことはまだ何もわかっちゃいない」　　　　豊美　05/2/4「古傷」の池に釣り糸を垂らす柔らかい休息の池私の糸をかじるものはだれもいないが朝の戸を開ける音がここまで聞こえてくる小さな戦いが新しく始まるときおたまじゃくしたちの尾がバラードの鍵盤にそっと触れる　　英己　05/2/6　　　カメラの前で　抗議のための断食をして仰臥する隣国の尼さんを思いながら遠い山の声を聞く朝　閉じている目にさす光を体温の奥にある装置が「雪の下のぬくもり」に翻訳する二月　祈るアジアのふるえる肩までの、距離！　健二 05/2/7　八十四歳の無邪気な笑顔にはどんな葬送曲も重すぎる「石垣りん/それでよい」とあなたはうたい人ひとりの軽さですっきりと言葉を生ききった詩と出会うことは人と出会うこと　だがほんとうに人と出会うことの難しさ送る会が終わった後の川面の冬に　春を探す　　　　　豊美 05/2/8

February 8, 2005

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連詩13

A Time to Mourn　老婆の悲嘆のように鈍くてかすかな脈拍が聞こえる暗いジャングル妨害電波の網を潜り抜けたかすかな脈拍が声になる Muy Buenos Dias! 未明の声がよびかけるとき、忘れられた朝がよみがえる暗い谷間に響くサウンドトラック英己05/1/9アイルランドでは　妖精は「良い人たち」いたずらの上手な「良い人たち」だアジアでいたずらが上手なのはだれか？大津波にさらわれ　二週間インド洋を漂流して助かった青年が　けさのニュースの主役　健二05/1/1 スクナヒコナは小さい神さま粟の穂をぴょんと飛んでいく蚤のような神さま波の果てにあるというまぼろしの常世の国から来て穀物の種子をくれた善意のひとでも善意のひとはつねに時代の異端者、歴史の端役波間に消えて忘れられた神さま豊美　05/1/13飢饉や戦争も一回だけってことはなかったのにね「一回性」の神話にとらわれて「悲歌」が地下室で歌われ厚着をした人たちが自分たちの神様を祭っているよ動くことが大切なのにどう動けばいいのかわからないままに　あるいは動かされるままに多くの忘却を歌いすぎたので思い出すのに疲れて英己　05/1/15むこうからも　こちらからも作戦のたてようがない　愚かさのかたまりとなって漂流する夢を見るボートも来ない　筏も来ないこの部屋の　結露でくもった窓の外をだれかが通った　自信のない神様のように通った健二　05/1/16ザラザラしたもの　カビの生えたものでノドをいっぱいにしてもう壊れるしかないという不幸戦争が終わったとき一番元気だったのは誰？信じられないだろうが一番元気だったのは飢えた蚤たちだった空腹の言葉たちだった　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　豊美　05/1/18森の入り口で洞穴のそばで引き返せない歩みを歩む人よきみの牙はまだとがっているやさしい仕草に満ちた愛らしい獲物の罠にかかり生きているが死んでいる　死んでいるが生きている英己　05/1/20夢のなかの　洞穴の奥はテレビカメラが去ったあとの神戸だテレビの嘘を信じない瞳に見つめられきょう　さらに壊れてゆくもの――十歳ずつ年をとった　さまよう家族の心のなかに幼い死者が生きているほどに　私たちは生きていない　　　健二　05/1/22私たちは子どもを失っただけでなく子どもたちからも失われたのではないかあけぼの色の空の下にある　あの光の国から忘れられたすれっからしの大地　ガレキの中をさまよっているすべては自分自身の影法師ではないか　　　　豊美　05/1/26 茶褐色の杉の木立の梢が空を刺している寒さの底で心が凍りつく日雑草が風に揺れている燻製にした虹鱒の腹に埋められた桜の破片英己　05/1/28夜　生きのびるひとりひとりが孤立する木となって揺れた私たちの冬　霜の理由遠い山並みがくっきりと見える朝のラグビー場で犬を連れた神様たちがあいさつしている　　　　　　　健二　05/1/30立つためには言葉が必要だったそのことを知るために費やした歳月　それが短かったのか長かったのかわからない黙って歳を重ねているきみの　傷ついた太い幹に手を当てると　コノホネガアルカギリダイジョウブ　ウタウココロガアルカギリダイジョウブ老いた友人はいつも私を　こう励ましてくれる　豊美 05/1/31「根はどこに行くのか？」Where do the roots go?一匹の蝿が愛を歌う「雨には父がいるのか？」Hath the rain a father?魚が脚をくすぐる「それは光だったのか?」Was it light?問いかけるうるさい産着を破り　裸できみは生まれたのだ　　　　　英己 05/2/1逃げる足と地面を記憶する雨のなかでよみがえる木の魚　根をもつ動物いたずらに飽きた妖精たちの恋からはもう「恐ろしい美」は生まれないが私は生まれて　半世紀をこえる雨の廊下をどう逃げたというのだろう　　　健二　05/2/2

February 3, 2005

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連詩11

A Time to Mourn　老婆の悲嘆のように鈍くてかすかな脈拍が聞こえる暗いジャングル妨害電波の網を潜り抜けたかすかな脈拍が声になる Muy Buenos Dias! 未明の声がよびかけるとき、忘れられた朝がよみがえる暗い谷間に響くサウンドトラック英己05/1/9アイルランドでは　妖精は「良い人たち」いたずらの上手な「良い人たち」だアジアでいたずらが上手なのはだれか？大津波にさらわれ　二週間インド洋を漂流して助かった青年が　けさのニュースの主役　健二 05/1/11 スクナヒコナは小さい神さま粟の穂をぴょんと飛んでいく蚤のような神さま波の果てにあるというまぼろしの常世の国から来て穀物の種子をくれた善意のひとでも善意のひとはつねに時代の異端者、歴史の端役波間に消えて忘れられた神さま豊美　05/1/13飢饉や戦争も一回だけってことはなかったのにね「一回性」の神話にとらわれて「悲歌」が地下室で歌われ厚着をした人たちが自分たちの神様を祭っているよ動くことが大切なのにどう動けばいいのかわからないままに　あるいは動かされるままに多くの忘却を歌いすぎたので思い出すのに疲れて英己　05/1/15むこうからも　こちらからも作戦のたてようがない　愚かさのかたまりとなって漂流する夢を見るボートも来ない　筏も来ないこの部屋の　結露でくもった窓の外をだれかが通った　自信のない神様のように通った健二　05/1/16ザラザラしたもの　カビの生えたものでノドをいっぱいにしてもう壊れるしかないという不幸戦争が終わったとき一番元気だったのは誰？信じられないだろうが一番元気だったのは飢えた蚤たちだった空腹の言葉たちだった　　　　　　　　　　　　　　　　　　豊美　05/1/18 森の入り口で洞穴のそばで引き返せない歩みを歩む人よきみの牙はまだとがっているやさしい仕草に満ちた愛らしい獲物の罠にかかり生きているが死んでいる　死んでいるが生きている英己　05/1/20夢のなかの　洞穴の奥はテレビカメラが去ったあとの神戸だテレビの嘘を信じない瞳に見つめられきょう　さらに壊れてゆくもの――十歳ずつ年をとった　さまよう家族の心のなかに幼い死者が生きているほどに　私たちは生きていない健二　05/1/22私たちは子どもを失っただけでなく子どもたちからも失われたのではないかあけぼの色の空の下にある　あの光の国から忘れられたすれっからしの大地　ガレキの中をさまよっているすべては自分自身の影法師ではないか豊美　05/1/26 茶褐色の杉の木立の梢が空を刺している寒さの底で心が凍りつく日雑草が風に揺れている燻製にした虹鱒の腹に埋められた桜の破片英己　05/1/28夜　生きのびるひとりひとりが孤立する木となって揺れた私たちの冬　霜の理由遠い山並みがくっきりと見える朝のラグビー場で犬を連れた神様たちがあいさつしている健二　05/1/30立つためには言葉が必要だったそのことを知るために費やした歳月　それが短かったのか長かったのかわからない黙って歳を重ねているきみの　傷ついた太い幹に手を当てると　コノホネガアルカギリダイジョウブ　ウタウココロガアルカギリダイジョウブ老いた友人はいつも私を　こう励ましてくれる豊美 05/1/31

January 31, 2005

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連詩８　

A Time to Mourn　老婆の悲嘆のように鈍くてかすかな脈拍が聞こえる暗いジャングル妨害電波の網を潜り抜けたかすかな脈拍が声になる Muy Buenos Dias! 未明の声がよびかけるとき、忘れられた朝がよみがえる暗い谷間に響くサウンドトラック英己 05/1/9アイルランドでは　妖精は「良い人たち」いたずらの上手な「良い人たち」だアジアでいたずらが上手なのはだれか？大津波にさらわれ　二週間インド洋を漂流して助かった青年が　けさのニュースの主役　健二 05/1/11 スクナヒコナは小さい神さま粟の穂をぴょんと飛んでいく蚤のような神さま波の果てにあるというまぼろしの常世の国から来て穀物の種子をくれた善意のひとでも善意のひとはつねに時代の異端者、歴史の端役波間に消えて忘れられた神さま豊美　05/1/13飢饉や戦争も一回だけってことはなかったのにね「一回性」の神話にとらわれて「悲歌」が地下室で歌われ厚着をした人たちが自分たちの神様を祭っているよ動くことが大切なのにどう動けばいいのかわからないままに　あるいは動かされるままに多くの忘却を歌いすぎたので思い出すのに疲れて英己　05/1/15むこうからも　こちらからも作戦のたてようがない　愚かさのかたまりとなって漂流する夢を見るボートも来ない　筏も来ないこの部屋の　結露でくもった窓の外をだれかが通った　自信のない神様のように通った健二　05/1/16ザラザラしたもの　カビの生えたものでノドをいっぱいにしてもう壊れるしかないという不幸戦争が終わったとき一番元気だったのは誰？信じられないだろうが一番元気だったのは飢えた蚤たちだった空腹の言葉たちだった　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　豊美　05/1/18 森の入り口で洞穴のそばで引き返せない歩みを歩む人よきみの牙はまだとがっているやさしい仕草に満ちた愛らしい獲物の罠にかかり生きているが死んでいる　死んでいるが生きている英己　05/1/20夢のなかの　洞穴の奥はテレビカメラが去ったあとの神戸だテレビの嘘を信じない瞳に見つめられきょう　さらに壊れてゆくもの――十歳ずつ年をとった　さまよう家族の心のなかに幼い死者が生きているほどに　私たちは生きていない健二　05/1/22私たちは子どもを失っただけでなく子どもたちからも失われたのではないかあけぼの色の空の下にある　あの光の国から忘れられたすれっからしの大地　ガレキの中をさまよっているすべては自分自身の影法師ではないか豊美　05/1/26

January 27, 2005

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連詩７

A Time to Mourn　老婆の悲嘆のように鈍くてかすかな脈拍が聞こえる暗いジャングル妨害電波の網を潜り抜けたかすかな脈拍が声になる Muy Buenos Dias! 未明の声がよびかけるとき、忘れられた朝がよみがえる暗い谷間に響くサウンドトラック英己 05/1/9アイルランドでは　妖精は「良い人たち」いたずらの上手な「良い人たち」だアジアでいたずらが上手なのはだれか？大津波にさらわれ　二週間インド洋を漂流して助かった青年が　けさのニュースの主役　健二 05/1/11 スクナヒコナは小さい神さま粟の穂をぴょんと飛んでいく蚤のような神さま波の果てにあるというまぼろしの常世の国から来て穀物の種子をくれた善意のひとでも善意のひとはつねに時代の異端者、歴史の端役波間に消えて忘れられた神さま豊美　05/1/13飢饉や戦争も一回だけってことはなかったのにね「一回性」の神話にとらわれて「悲歌」が地下室で歌われ厚着をした人たちが自分たちの神様を祭っているよ動くことが大切なのにどう動けばいいのかわからないままに　あるいは動かされるままに多くの忘却を歌いすぎたので思い出すのに疲れて英己　05/1/15むこうからも　こちらからも作戦のたてようがない　愚かさのかたまりとなって漂流する夢を見るボートも来ない　筏も来ないこの部屋の　結露でくもった窓の外をだれかが通った　自信のない神様のように通った健二　05/1/16ザラザラしたもの　カビの生えたものでノドをいっぱいにしてもう壊れるしかないという不幸戦争が終わったとき一番元気だったのは誰？信じられないだろうが一番元気だったのは飢えた蚤たちだった空腹の言葉たちだった　　　　　　　　　　　　　　　　　　豊美　05/1/18 森の入り口で洞穴のそばで引き返せない歩みを歩む人よきみの牙はまだとがっているやさしい仕草に満ちた愛らしい獲物の罠にかかり生きているが死んでいる　死んでいるが生きている英己　05/1/20夢のなかの　洞穴の奥はテレビカメラが去ったあとの神戸だテレビの嘘を信じない瞳に見つめられきょう　さらに壊れてゆくもの――十歳ずつ年をとった　さまよう家族の心のなかに幼い死者が生きているほどに　私たちは生きていない健二　05/1/22

January 22, 2005

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