第7章 ライク ア エージェント 14
第7章 ライク ア エージェント 14 ケネシーが向かった次の行き先まで尾行するのに、あたし達は余り手間を掛けずに済んだ。 ケネシーが近くの駐車場で清算を済ますと、権藤のマンションから5km程しか離れていない有名ホテルの地下駐車場に自身の車を滑り込ませたからだ。 「セキレイ、この車をホテルの車寄せに停めて頂戴!あたしとキキョウはそこで降りてロビーで待機するわ」 「了解!だけどケネシーはこのホテルに本当に泊まるのかな?姫はどう思う?」 「泊まるかも知れないし、誰かと会うだけかも知れない。どちらのケースにも対応出来る様に行動は迅速にお願いね!」 その時、キリンから連絡が入った。 「姫、ケネシーの車は近畿運輸局のデータベースから所有者を割り出し中です。判明したらお報せします」 ケネシーが運転していた車は京都ナンバーだった。 持ち主が特定出来れば、今後の手掛かりに成るだろう。 「若しケネシーがチェックインをすれば、ホテルのデータベースに侵入して貰ってチェックインの時間から宿泊ルームの番号を割り出すから、キリンはそっちの方を優先してね」 「姫、了解しました」 「誰かに会うとしたらロビーは考え難いから、エレベーターで待ち人の部屋に直行するだろうな」 「既にチックインを済ませていた場合もエレベーターを利用するから、キキョウを投入するわ」 「ケネシーと同じ階で降りれば良いのですね?」 「そうよ。キキョウはこれから複数回の偶然を装ってケネシーに接近する役目だから面が割れても問題無いから」 「車の持ち主が分かりました。京都市左京区在住の里中博文と言う人です」 「里中博文?何処かで聞いた様な・・・権藤の甥っ子が確か里中博人だったと思う」 「権藤の甥の家族かな?」 「セキレイ、その詮索は後回しよ。キキョウ、あたし達はロビーに行くわよ!各自、作戦計画通りに行動して頂戴!」 そのホテルのロビーは、新型ウィルスが流行している為か金曜日の20時にしては人影は疎らだった。 「姫、ケネシーは今、向かって一番左のエレベーターを待っています」 ケネシーを追ってホテルの地下駐車場に入ったキリンから連絡が入った。 「分かった。直ぐにキキョウに連絡して頂戴!彼女は今、一階のエレベーターホールで全てのエレベーターが1階で一旦停止する様にボタンを押し続けているから」 「了解です」 それからやや間が有って、キキョウが向かって一番左のエレベーターの前に移動した時、エレベーターの扉が開いて中からケネシーが出て来た。 1階で降りると言う事は、彼はこれからこのホテルにチェックインをするのだろう。 ケネシーはホテルのフロントに向かう途中で、それまで被っていたキャップを脱いだ。 ロビーを行き交う人の大半がマスクを着用しているから、ケネシーがマスクを外さなかったのは残念だったが、翼の長いキャップを脱いで呉れたお陰で彼の年恰好を推測する事は出来た。 「姫、ケネシーは30歳代前半位だと思います」 エレベーターホールからあたしが座っているソファーに戻って来たキキョウが、ケネシーの年恰好に関する印象を述べた。 「それから、あの体付きは間違いなく武闘派では有りません」 「武闘派で無いとすれば、女性をたらし込む専門職とか?」 「さあ?私の眼からはただのパシリにしか見えませんが」 チェクインを済ませたケネシーが、再度、エレベーターホールの方に歩き始めた。 「キリン、今、ケネシーがチェクインを済ませわ。至急、彼が宿泊する部屋番号を調べて頂戴!」 「かしこまりました」 「姫、これからの段取りは予定通りで?」 「ええ、全て予定通りでお願い!」 ホテルの地下駐車場にケネシー尾行用のキリンの車を駐車させて、セキレイとキリンはセキレイの車の中でキリンが超強力テープで通路の天井に設置した監視カメラのモニターを眺めていた。 「ケネシーの隣の部屋が空いていてラッキーだったな」 「ええ、キキョウ班長は既に部屋に入っていて、我々からの連絡待ちの状況です」 「分かった。俺もこれまで幾度と無く仕事でこんな経験は有るが、何回経験しても同じ車の中で野郎同志が交代でモニターを監視するのは慣れないな」 「ええ、同感です。セキレイ班長!それなら、救護と男性誘惑要員のツバキでも仲間に入れてここに来させましょうか?」 「おお!それは名案・・・いや、やはり止めて置こう!若しそれがバレだら、姫からは口汚く罵られるだけで済むが、キキョウには半殺しにされかねない」 「確かに!同感です。セキレイ班長」 その時、監視カメラのモニターに部屋から出て行くケネシーの姿が映った。 「キキョウ班長、ケネシーが自室から外に出ました!」 「分かったわ、キリン」 それから直ぐに、モニターにケネシーの後を追うキキョウが映った。 今夜は徹夜を覚悟していたが、どうやら早くも姫の奢りで打ち上げ会が始まりそうだとセキレイは直感した。 「済みません!私も乗ります」 「どうぞ」 セキレイが設置した監視カメラには、盗聴機能も搭載されていたのでキキョウとケネシーの会話が聞こえて来た。 「キキョウが穿いているいる今夜のパンプスは、床の反射係数を瞬時に計測するから、スマホの重量からしてどの方向にどの位の強さでスマホを落とせばケネシーの足元に転がるかはキキョウなら完璧に計算が出来ている筈だ」 「この辺りの技の冴えは、キキョウ班長はジェファーは基よりゲルニアを含めて他の追従を許しませんね」 「まあな。彼奴はエージェントに成る為に生まれて来た様な女だからな」 「正しく同感です。セキレイ班長」 セキレイとキリンはキキョウを賞賛はしたものの、その後でブルッと身震いしてしまう自分を止める事が出来なかった。 「キキョウが無事、スマホにケネシーの指紋を付着させたわ。今日の任務はこれで終わりだから、これから反省会を兼ねてあたしの奢りで飲み食いをするわよ」 「よっしゃー!そう来なくちゃ、姫」 「あら?セキレイ、今夜は大した働きをしていない割には嬉しそうな声ね」 「またまた、そんなご冗談を!私、セキレイが責任を持ってお店を予約しますので店名を仰って下さい」 「別に冗談では無かったんだけど・・・まあ、いいわ!二人共、これからキキョウの部屋に集合ね!ルームサ-ビスで盛り上がりましょう」 「えっ?高級料亭じゃないのかよ?」 「何、寝惚けた事を言ってんのよ!終わったのは飽くまで今日の任務でしょ!任務は明日も続くの!プロのエージェントが現場から離れてどうするの?反省会が終わったら貴方達は即、監視作業に戻りなさい!いい?分かったぁ?」 「わ、分かってるよ」 セキレイはそう言うと、慌てて専用回線で繋がれている通信機器の電源を落とした。 「姫って、性格的にエージェントに向いているのかな?早くも司令クラスの風格が漂っているんだけど?」 「激しく同感です。セキレイ班長」 次へ アーカイブス(マトリックスメモリー) ←ここをポチっと押して戴けると、この作者は大変喜びます。←PVランキング用のバナーです。ここもプリっと押して戴けると、この作者はプウと鳴いて喜びます。ファンタジー・SF小説ランキング →ここまでグニュ~と押して戴けると、この作者はギャオイ~ンと叫んで喜びます。