ジョン・ディクスン・カー「テニスコートの殺人」
カーによる足跡の無い殺人。
カーの特徴と言えば、魅力的な謎と道中の面白さが約束されている事だと思っている。
そしてカーは、傑作と凡作の差が激しい作家だと思っている。
では傑作と凡作で何が違うのかというと、魅力的な謎に解決が見合っているか否かだと思う。
そしてカーは、凡作でも楽しめる作家だ。
本書では雨のテニスのクレーコートの真ん中で起こった事件で、犯人は如何にして足跡を付けずに犯行に及んだかが問題となる。
しかし実際には犯人ではないものの疑いを持たれている二人が、保身の為現場に細工をし証言を偽証する。
そこで物語は倒叙めいたサスペンスを見せ、第二の殺人も起こって混迷していく。
サスペンスフルな展開も良く、犯人の造形も良く、探偵のフェル博士も魅力的で、読後感も気持ちの良いものだ。
しかしながら、トリックである。
第一の殺人は、殺害方法は考えられたものであるが、如何せん被害者をコート上に誘き出す方法がとんでもない代物だ。
「その単語」を読んだ時には「殺人者と恐喝者」のアレを彷彿とさせた。
無茶苦茶である。
しかし、この著者が愛しくて仕方ない自分は、それも笑って済ませられ寧ろ「ああ、カーを読んだんだ」と楽しくなった。
第二の殺人なんて著者自身が「水増しの為の蛇足」と言っているだけあって、かなり大雑把に片付けられている。
カーが好きな人以外には間違っても勧められない作品であり、個人的には印象深い作品だ。