横溝正史「蝶々殺人事件」
「蝶々殺人事件」
クロフツは樽に死体を詰め、鮎川はトランクに死体を詰めた。
果たして横溝正史はコントラバスのケースに死体を詰めたのだ。
戦後、探偵小説が許され本格推理の道を闊歩しだしてすぐに書かれた長編。
自身が病により空けた連載の穴を小栗虫太郎が「完全犯罪」で塞いでくれた恩を、急逝した小栗虫太郎の代役として今度は氏が本作で返した。
傑物と傑物による、傑作と傑作の交換である。
あまりに爽快なフーダニットに瞠目し、見事なアリバイトリックに唸らされる。
このフーダニットには殆どの読者が騙されるのではないか。
アリバイトリックにしても、第一の事件のものは登場人物の性格を利用した心理的トリックを巧く使っているし、第二の事件のものはとても面白い物理的トリックが使われている。
これぞ本格ミステリという傑作であり、金田一耕助ものでないといって後回しにしてはならない作品である。
「蜘蛛と百合」
正に戦後のスリラーといった作品。
解決編に意外性は無く、結局殺しの動機はよく解らない。
しかし結末は美しい。
「薔薇と鬱金香」
これまた通俗スリラーといった作品である。
乱歩のジュブナイルを思わせる犯人との対決や、現代では有り得ないトリック等、時代性がよく現れている。