4246311 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

All The Things You Are

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
June 23, 2007
XML
テーマ:Jazz(1961)
カテゴリ:Album
ジャンルを超越したスティーヴィー・ミュージック
ジャズ・フュージョンの要素が大きく含まれているアルバム

キー・オブ・ライフ / スティーヴィー・ワンダー
Songs In The Key Of Life / Stevie Wonder



●(その1)からの続き

このアルバム、『キー・オブ・ライフ(Songs In The Key Of Life)』のリリースは遅れに遅れました。
その理由は、スティーヴィーがミキシングで完璧を求めたからで、
何度もミキシングを繰り返していたベリー・ゴーディのやり方を取り入れたため、
レコードをリリースできる状態になりませんでした。
スティーヴィーが手がけたアルバム制作期間は、これまでで一番長いものになっていました。
そして、予定の締め切りが過ぎたため、
モータウンは「We’re Almost Finished(完成間近)」と書いたTシャツを作って売ろうとしました。
前作『ファースト・フィナーレ』から約1年が経った1975年半ばの、
このアルバムのリリース予定のころから、
ニューヨークには、縦1.8、横8.2メートルの、
ニュー・アルバム宣伝用の掲示板が飾られていましたが、
結果的に1年以上も飾ってあったことになりました。
なかなか発表されないアルバムに、人々の期待は高まり、
アメリカでの予約注文だけで130万枚にもなっていました。
結局、モータウンが正式にこのアルバムを発表したのは、
『ファースト・フィナーレ』から2年以上も経った、1976年10月8日でした。

そして、この作品は、スティーヴィー・ワンダーの初めてのダブル・アルバムになりましたが、
曲を通常のダブル・アルバムに絞りきれずに、パッケージは2枚組LPと4曲入りEP1枚という、
かなり変則的なものになりました。

とにかく、真っ先に気になることは、
サウンドの鍵を握っていたセシルとマーゴレフ不在で出来上がったサウンドがどうなったかということです。
それは、セシルとマーゴレフが去ったということは、
このチームが使っていたシンセサイザー・システムに変わるものを使わなくてはならないということです。
このアルバムでも、引き続き至るところにシンセサイザーが使われています。
それは、新しいシンセサイザー・システムというより、電子オルガンの形のものでした。
その楽器の商品名はヤマハの「エレクトーン」、モデルGX-1が使われました。
これは、それまでのエレクトーンと呼ばれていた、普通の電子オルガンとは違い、
中身は完全に、当時としては最先端の和音が出るシンセサイザーというものでした。
スティーヴィーは、このGX-1を「ドリーム・マシン」と呼んだことからも、
いかに、この楽器が、彼の夢をかなえてくれるものだったのか、よくわかります。
さらに、スティーヴィーのバンド、「ワンダー・ラヴ」のメンバーや、
そのほかの多くのセッション・ミュージシャンを幅広く起用したおかげで、
このアルバムのサウンドは、それまでのものにも勝るとも劣らない、
雄大なスケール感とグルーヴ感が生れました。

スティーヴィーは、このアルバムのコンセプトに「人生のすべてを表現する」という、
大きなヴィジョンを持っていました。
しかし、彼は、こうした大きすぎる望みにつきものの失敗にも気づいていました。
「人生のなんたるかを、すべてカバーするなんてことは不可能だけどね。」
とも語っています。

21曲を収めた、この作品は、あらゆる面で、かなり幅広い内容になっています。
歌のテーマは、少年時代のノスタルジア(郷愁)、精神性と宗教について、黒人の誇り、
音楽界・ジャズ界の偉人へのオマージュ(敬意)、失恋、新たな恋、永遠の愛、さらなる愛への欲望、
宇宙への旅立ち・・・と続きます。

本格的なレコーディングを始めたのは、1974年の7月頃と言われていますが、
実際には10月に入ってからとのことです。

このアルバムを発売するかなり前からスティーヴィーは、次作について、
「(前作よりも)より内的な深さがある」と語っていました。
1つのコンセプトが、ひとつの曲に集約されていき、
また、新たなコンセプトがまたひとつの曲にまとまっていく・・・、
そうこうしているうちに、2枚組LP、プラス、ボーナスEPという大作になりました。

スティーヴィーは、このアルバムのために、実に多くの曲を作ったそうです。
その数は、1975年3月に来日した時点で300曲と語っていましたが、
実際には、1974年から1976年までに作曲されたものは、アイディアの断片のようなものも含めて、
1,000曲にもなるとも言われています。
そんな膨大なレコーディング・リストの中から21曲が厳選されたということです。
そして、それは、まさにスティーヴィー・ミュージックの集大成といえるもので、
ビートルズの『サージェント・ペパー』などと同様に、ポップ・ミュージックのワクを超越した、
いわゆる“スティーヴィー・ミュージック”として、音楽史上、永遠の傑作と言えるでしょう。

このアルバムは、史上3人目、全米アルバム・チャート初登場1位となり、
14週ものあいだ、1位の座を獲得するという快挙を記録しました。
このアルバムからのファースト・シングルの「回想(I Wish)」、
そしてセカンド・シングルとしてリリースされた、
彼の尊敬するデューク・エリントンに捧げられた「愛するデューク(Sir Duke)」が、
それぞれ全米ポップ・チャート1位を獲得し、
続けて「アナザー・スター(Another Star)」、「永遠の誓い(As アズ)」がシングルとしてリリースされました。
娘の誕生を祝った「可愛いアイシャ(Isn't She Lovely)」、隠れた名曲「 今はひとりぼっち(Summer Soft)」、
ミニー・リパートンの葬儀でも歌われた、しっとりとしたバラード「イフ・イッツ・マジック(If It's Magic)」など、
全21曲という大作ながら、収録された曲のどれもが傑作です。


●スティーヴィー・ワンダーとジャズ

サウンド的には、R&B・ソウル色の濃かった今までの作品よりの、ポップな感じになっています。
しかし、このアルバムでのスティーヴィー・ワンダーの音楽は、
どのジャンルの音楽にもカテゴライズできないものになっています。
スティーヴィー・ワンダーは、モータウン・サウンドを代表する、R&B・ソウルの覇者として走ってきましたが、
この作品では、そういったモータウン・サウンドとは違う、
スティーヴィー・ワンダーの世界が確立されたと言えるでしょう。
世の中の偉大なアーティストが最終的に到達する、どのワクにも入ることのない自分の世界を築き上げたのです。

スティーヴィーは自身が尊敬するアーティストとして、
デューク・エリントンとナット・キング・コールの名前を挙げています。
1975年2月のグラミー賞授賞式では、最優秀アルバム賞受賞後のスピーチで、
「賞を前年に亡くなったデューク・エリントンに捧げる」と発言しています。

その、スティーヴィー自身のジャズへの思い入れが「愛しのデューク(Sir Duke)」という曲によって見られます。
黒人の誇りで、崇拝の的である偉大なアーティストのデューク・エリントンや、
そのほかのジャズのパイオニアたちのことを賛辞したものです。
実際に、ジャズの影響は、スティーヴィーのあらゆる時期のあらゆる作品に顔を出しています。
スティーヴィーのヴォーカルは、大部分がアドリブ・フェイクのように聴こえ、
それは、偉大なジャズ・シンガーと同じ世界にいると言えるでしょう。
そして、スティーヴィーのハーモニカ・プレイは、まさにジャズのインプロヴィゼーションであり、
その、インプロヴィゼーションは、彼の作品のサウンドの、ほとんどすべてに当てはまります。
私としては、このアルバムをむりやりカテゴライズするなら、
一番適当な音楽ジャンルはジャズ・フュージョンであると言えるのではないかと思っています。
ディスク1の4曲目の「Confusion 負傷(コンチュージョン)」は、インストゥルメンタル主体のナンバーで、
まさにフュージョンそのもののサウンドです。

さらに言うならば、このアルバムは、すべてのミュージシャン、音楽ファンはもちろんのこと、
ジャズ・ミュージシャン、あるいはジャズ・ファン必聴のアルバムであるとも言えるでしょう。

多くのジャズ・ミュージシャンが、スティーヴィー・ワンダーの楽曲を取り上げていることでも、
彼の曲が、コール・ポーターやガーシュウィンなどのジャズを代表する作曲家の曲と同じように、
ジャズとの相性が、いかに良いかということがわかるでしょう。
ジャズ・シンガー、エラ・フィッツジェラルドも、
「スティーヴィー・ワンダーは、コール・ポーターやガーシュウィンのような人物。」と語っています。
エラ・フィッツジェラルドは、ポーターやガーシュウィンなどの偉大な作曲家の作品集を作っており、
実現はしませんでしたが、スティーヴィーの作品集も作りたいと考えていたということです。

私はこの作品を、リリース当時から聴いていますから、もうかれこれ30年以上の付き合いになります。
しかし、30年も経った現在、どの曲を聴いても、決して懐かしいという感覚ではなく、
自分でも信じられないくらいに新鮮に聴くことができるのです。
しかも、当時は、中には「ヘンな曲だな」とか、「変わっているな」とか、
印象が薄く、退屈に感じるような曲も、正直言って何曲かありました。
しかし、時が経つにつれて、いろいろな音楽に触れ、私自身の音楽の感覚が成長してくると、
そういう曲の良さが、不思議と、だんだんわかってくるのでした。
これらの曲は、時が経つにつれて色あせていくものではなく、
逆に、時が経つにつれ、輝きを増す、すばらしいものであるということに気が付きました。
そしていかに、この作品がすぐれたものであるかが、身にしみてわかったのでした。
いつも言っていることですが、本当に良い作品というものは、時間を超えているということです。

事実、近年、スティーヴィー・ワンダーの再評価の動きが見られます。
たとえば、このアルバムからシングル・カットされた「永遠の誓い(As)」の、
当時、36位というチャートは、まったく信じられないものです。
これは、時代の耳が、スティーヴィーの感覚についていけなかったことの表れだと思います。
1999年に、メアリー・J.ブライジとジョージ・マイケルが、この曲を取り上げたときには、
5位に入るという大ヒットを記録し、大きな話題になりました。

私に、ちょっと極端で乱暴な発言をさせてもらえるのなら、
「この作品の良さのわからない人=音楽のわからない人」ということが言えますね。
スティーヴィーも言っているように、きっと「聴けばわかる」でしょう。
どこか、なんとなくでも、良さがわかると思います。
心地いいのです。

●(その3)に続く

にほんブログ村 音楽ブログ ジャズ・フュージョンへ

【ジャズ】人気blogランキングへ





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  June 23, 2007 02:09:49 AM
コメント(0) | コメントを書く
[Album] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.