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病理検査の玉手箱

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2006.11.19
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カテゴリ:日誌
敗血症例や外傷後の感染症患者からアエロモナスの分離例が増加している.重症感染例が多く,予後不良である.同じく水系微生物と考えられるエドワルドシエラが分離された敗血症のケースも経験した.この例は抗生剤に反応し予後良好だった.詳細について知識のない病原菌なので,いささか古い文献だが熱帯魚飼育との関係が明らかになったエドワルドシエラ症の症例報告を下記に翻訳紹介してみた.自験例は熱帯魚や金魚の飼育と関係しているかどうかは不明であった.さらに調べてみると日本では養殖ウナギの感染症としてedwardsiellosisが知られていることに驚いた.ウナギ好きの日本人にとっては見逃せない事実である.とにかく発生源のよく判らない水系病原菌による感染症が多くて検査室を悩ませている.

Vandepitte J, Lemmens P, De Swert L. Human edwardsiellosis traced to ornamental fish. J Clin Microbiol 1983; 17: 165-167.
ベルギー発
Edwardsiella類(Genus)には2種が含まれる.E hoshinae, E tardaである.後者のみがヒトの感染に関係する.E tardaはヒト以外の種々の動物から分離されているが,自然界での主な棲息動物は爬虫類と淡水魚である.E tarda感染は稀と考えられており,熱帯・亜熱帯地域以外での報告は稀有である.E tarda感染は多様でサルモネラ感染に比せられる.すなわち腸管での定着保菌から軽度から重症の腸炎,深部感染症などが報告され,基礎疾患のある患者が多い.腸管外感染は血液,体液からの菌の分離同定により証明される.しかし腸管病原性については十分なエビデンスがなく,日常の下痢患者の糞便培養で散発性に検出されることが一般的である.健常者の糞便から検出されることもあり,腸管感染を惹き起こす潜在的な病原性があるのかどうか曖昧である.本報告では以下の臨床的観察がしたがってエドワルドシエラ症と判断した.すなわち繰り返しE tardaが分離される,流行地以外での分離例である,難治性下痢患者の小児から分離される,化学療法により菌の消失と臨床症状の軽快が生じる.この4点である.同じ微生物が患者自宅の観賞魚から分離されたことは公衆衛生上も重視すべきである.
 症例報告:生下時体重1600gの男児.受診時点で2.5ヶ月齢であった.St Raphael大学病院の小児科外来を訪れ,2日間の食指不振と嘔吐を訴えた.便は正常で発熱はなかった.患児は体重3750g,身長53cmで理学所見に顕著な異常はなかった.翌日下痢を起こしたので再度診察すると,黄色粘液便が観察された.全身状態は良好で外来で観察し抗生剤投与も行わなかった.便培養ではE tardaがMacConkey, SS培地で分離された.Yersinia sp, Campylobacter sp, 腸管病原性E coliの選択培地では陰性であった.RotavirusはELISAで陰性.患者は2ヶ月に渡り観察し,下痢は間欠的に起きていたが全身状態に影響するほどではなかった.3回のさらなる便培養で同じ菌が検出され,他の菌は陰性であった.2ヵ月後に便に血液を含むようになったので,全身状態は良好であったがco-trimoxazoleを処方することにした.薬剤は2週間,6mg/kg/dayの用量で与えた.これにより便は正常化し,その後の1ヶ月の便培養は陰転化した.
 この稀な菌の起源を探るため,注意深いヒストリーを聴取した.患者はLeuvenの郊外の労働者の子供であった.両親の便培養は陰性だった.ほかに子供はおらず,家禽の飼育もなかった.自宅を訪問するとお世辞にも衛生的な家庭とは言えなかった.自宅には水槽で熱帯魚を飼育しており,我々は水槽の中の魚を1匹サンプリングした.Pterophyllum scalareと呼ばれる成魚でブラジル原産である.これを水道水のジャーに入れて,排泄物を培養のために採取した.培養ではCitrobacter freundii, Aeromonas hydrophila, Edwardsiella tardaが分離された.E tardaはSS培地で発育可能で,患者由来の菌株と同様なAPI 20E profile 4544000を示した(excellent identification).すべての分離株はディスク法と微量希釈法でグラム陰性桿菌に使用する抗菌剤に感受性を示した.例外はcolistinでMIC >16μg/mLであった.コリスチン耐性はE tardaの比較的安定した性状と報告されている.分離株はパスツール研究所のC Richardに送り同定のお墨付きを得た.最後の便培養を得てから2ヶ月後の患者血清は患者から得た菌株の生浮遊液を1:80希釈で凝集した.
考 察:ヒト腸管病原菌としてE tardaは重要であるが,これまで深部感染以外ではあまり注目されなかった.下痢患者からこの菌が分離されるケースは熱帯地域の多くの国で報告されている.インド,シンガポール,ベトナム,タイ,タヒチ,オーストラリア,ザイール,チャド,マダガスカル,スペイン,キューバ,パナマ,米国からの報告がある.これらの報告では菌の分離と腸管症状の関連が不十分であったが,文献1,2,15,16の著者は健常者での分離が極めて稀であることや皆無であることを強調している.E tardaが下痢便で繰り返し分離されることが2つの国で報告されている.西マレーシアのジャングルでは血性下痢で入院した患者の30%からE tardaが分離され,健常者では1%以下であった.北マリのMoptiでのサーベイではE tardaは下痢便の9.7%で分離され,健常者からは5.4%であった.Moptiの住民の多くは漁労民であり,仮説として魚が感染源と推定された.E tardaが都会で広範に蔓延していることから,蛇,カエル,その他のpoikilothermsが感染源となっているとは考えにくい.
 最初に魚類からE tardaが分離されたときには,epizootic disease と考えられた.ベトナム,ドミニカ,米国でのその後の研究で,また我々のサーベイ(ザイール)でも,淡水産の魚類でのE tardaの分離率は極めて高く,この微生物が魚類の常在菌叢の一部であることを考慮すべきである.E tardaが熱帯魚に保菌されていることはこれまで注目されなかった.カナダのTrust and Bartlettが最初に鑑賞魚(金魚と熱帯魚)での水のサンプルからEdawardsiella spを分離した.ベルギーでの最新の研究では,金魚からの分離株にEdwardsiella spは含まれておらず,高率でA hydrophilaが分離されたことを記載している.しかし両方のグループとも魚類と水槽がヒトの病原菌のベクターとなる可能性を言及している.観賞魚を小児病棟に持ち込むことは,新生児や乳児など腸管感染に感受性のあるホストには潜在的脅威となることが我々の研究や他の研究者の実験でも明らかである.
 E tardaによる軽症の腸管感染はサルモネラ症と同様に抗生剤で治療すべきではない.しかし我々の患者では抗菌剤投与で臨床的,微生物学的な治癒を得た.この症例報告はベルギーでの,ひいては欧州でのヒトのedwardsiellosisの最初の報告例である.同じbiotypeのE tardaが患者と患者の家で飼育されていた魚から分離された事実をそのまま因果関係として鵜呑みにしてはいけない.だがしかし両親の手を通して間接的に赤ちゃんに感染したことを偶然と考えることはできない.散発的報告例で得られる逸話的な事実のみでE tardaの腸管病原性を説明することは無理である.マリやマレーシアで行われたような研究や疫学的サーベイが必要である.





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Last updated  2006.11.19 07:39:32
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