人生の終わりに。(NHS Continuing Care)
17/05/2010 比較的長く関わってきたクライエントの方の再アセスメント& 予算決定パネルに行ってきました。 イギリスでは地域・施設ともに 医療ニーズが高い方にはNHSが予算を提供する Continuing Health Careという制度があります。 このCHCの条件に当てはまる方はNHS全額負担、 一部の方は一部負担があり自治体が残りを負担します。 (もちろん利用者はミーンズテストがあり 自己負担額も相応に審査されます) Hさんご夫妻。 奥様が重度の認知症でご主人が自宅で介護されてきました。 しかし、このHさんの認知症は私もこの仕事長いけれども 最重度ともいえるほど深刻なもので状況は悪化するばかり。 ご主人は昨年、生死をさまよう大病をされたのに 奥様を思う気持ちから懸命に自宅介護をされてきました。 私たちもこのご夫婦をサポートするべく デイケアや精神科のデイホスピタル、自宅でのシッター、 ケアパッケージなどあらゆるレスパイトを試みたのですが Hさんのいわゆる問題行動が重度でどれもうまくいかず 警察やご近所とのトラブルも発生し 私自身もずっと頭を抱えていたケースでした。 何より、Hさんのご主人の介護者としてのニーズがとにかく高く 必然的にあらゆる機関と連携してサポートを試みてきたのですが とうとう「ここまで」という限界点に達し ご主人がようやく奥様の施設入りを決断されたのでした。 しかし長く関わってきてHさんご夫婦の状況や ご主人の献身的すぎる介護をみてきたので この決断にいたるまでのHさんご主人のご苦労や悔しさを思うと 何だか会議中に心は泣けそうでした。 後で聞いたら初対面だったコーディネーターさんも 「Hさんのご主人の顔を見たら泣きそうになった」と言ってました。 このCHC会議では十種類以上のカテゴリー(ドメイン)に分かれた 患者さんの医療ニーズを詳細にみていき議論するのですが 本人や家族の参加が義務付けられています。 Hさん本人は参加できないので ご主人とお子さんたちが会議に参加されたのですが 最終的な予算の決議はCHCコーディネーター (NHSスタッフでナースのバックグラウンドを持つ人)と ソーシャルワーカーの2人の投票で決められます。 10月にこの新制度になってから私はチームのCHCスペシャリストとなり 何度となくアセスメント&会議に参加してきましたが アセスメントの内容が詳細すぎることと それをご家族の前で話し合わなければならないことから 専門職者としても気遣いが普段の何倍も必要ですし ご家族にとっては耐え難いプロセスであることが多々あります。 ご家族は患者さん・クライエントご本人のニーズや状態を 楽観視したり現実をあえて無視する方が多いですが 私たちの仕事はこのニーズを現実的に多角的に分析しないと 正しいアセスメントおよび予算決議が出せないので これがこじれると家族の方からNHSへの苦情・再審査請求となり さらに手間と時間がかかるため慎重で迅速な決断が求められます。 私の仕事はどちらかというと クライエントよりのアドボケートもあるので 敵視されることは少ないですが(この仕事に限り!) でも、全く面識も知識もないクライエントの会議に 突然行くことも多々あるのでそんなときに こんな重大な決断をこんな状況で決めていいのだろうかという 疑問をもつことが多いですが これがNHSや自治体ソーシャルサービスの実態 と言ってしまえばそれまでなのですが。 Hさんのケースは予想通りNHS全額負担のケースとなりました。 イコール、私の関わりもこれでおしまいです。 施設選びから手続きまでもすべてNHSがこれから引継ぎます。 私は3ヵ月後のレビューでHさんと再会すると思いますが 施設に移ってからの最初の数ヶ月は ご本人にとってもご主人にとっても地獄となるのは間違いなく それを思うと心が痛みます。 最近は虐待専門官になったかと思うほど こうした本来のソーシャルワーカーの頭で仕事をする機会が とても少なくなっていて 虐待者などからの執拗で凶暴な苦情や脅しなどにさらされていて 恐怖とか緊張といった感情とストレスが仕事の大半を占めていました。 とくにこの半年は死ぬかと思うほど。 久しぶりにクライエントを思う気持ち、 共感というかエンパシーなどの ソーシャルワーカー的な気持ちに包まれました。 Hさんご夫婦は私が見ていた限りですが 本当に素敵なご夫婦でした。 いつもお互いを必要とし合って支えあって ご主人の介護のほとんども愛情で 問題行動なども手を握ったりなどで乗り越えてきたもので こうした介護はどんなにスキルの高い介護者でも 他人ではできないものでした。 でも、愛があるからできない介護があるのも この世界の苦しさと難しさです。 私たちの仕事のほとんどはハッピーエンドがないです。 とくに高齢者と関わっていると老いや死などの逃れられない苦しみ、 ご本人も周りの家族も地獄のような苦しみや 施設入居(家族や家との別れ)など人生の転機にさらされ そういった苦しみを少しでも緩和するべく仕事をしていますが 人は誰でも老いるのに家族の病気や老いに向き合うのに どうして高齢者へのサポートは薄いのか。 いろいろ語っていると長くなるのでこのへんで。 こんな仕事をしていますという参考になれば 老いや死について何か考えるきっかけになれば幸いです。