『よつばと!』
前サイトでオープンしていた日記を読み返すと、『x年後の自分』を対象とする読者と設定しているだけに、結構面白い記述に遭遇する。その中でも、特に『読書日記』的な記述は、我ながら読み応えがあると感じる。必ずしも各著書が上梓されたタイミングで目を通しているわけではなく、読了までにタイムラグが生じる。それだけに、自分史を振り返ったときに「この時期に、こんな本を読んでいたのか」と考えると、更に感慨深くなるのである。 実際、このサイトをオープンするきっかけの一つが、自分の『読書日記』を綴りたいという動機があったからである。というわけで、このブログには頻繁に読了後の良書(面白くなかった本はさりげなくスルーするのがエチケットである)の感想を掲載することになると思う。 初めての読者のために、私の読書傾向を紹介すると、* 活字本も漫画本も両方目を通す →一般にはどちらかをメインにされている方が多いと思うので、カテゴリーは「活字系」と「漫画系」を区別したが、両者の間には表現方法の差があるだけで、本質的に両者を区別する必要はないというのが私の立場である。* 活字本は日本の作家、特に推理小説が中心 →プロフィールにもあるように、好きな作家は東野圭吾・森博嗣など と、以上前書き。本題に移る。 今なんと言っても私が”はまっている”漫画が「よつばと!」(あずまきよひこ・角川書店メディアワークス)である。 先月、その待望の6巻が上梓された。もちろん当日一気読みである(かといって、台詞は少ないので20分もあれば、1冊はすぐに読めるのだが)。 この作品の魅力を直接的に説明するのは難しい。 夏休みに引っ越してきた小岩井家(とーちゃんとよつば(主人公))とその隣の綾瀬家の日常を淡々と描いている。登場人物はこの二家族とその友人達のみ。みんなで大冒険をするわけでもなく、大事件が起こるわけでもない。強いて言えば、プールや花火大会、夜空を見上げに外出する程度で、カエルを捕りに行った話、本棚を作る話で一話が終わることすらある。 ストーリーの骨子はこれだけである。 ところが、これが何とも癒されるのである。主人公であるよつばちゃん(5才)の斬新な視点と、垣間見せる大人びた台詞とのギャップに思わず微笑んでしまう。これがこの作品の主題であることは間違いない。 そして、目立たないが、その人間関係を支える登場人物間の優しいまなざしが何とも心地良い。 これに関連して、思い出したことがある。 佐々木倫子の「動物のお医者さん」(白泉社文庫)の解説に高橋三郎・京大教授(現名誉教授)が寄稿していたことがあった。当時、京大の総合人間学部(いわゆる教養課程)では、社会学の「W高橋は通し(=単位に甘い)」との噂(おそらく事実)がまことしやかに囁かれていたが、その片方である社会学の権威が、えらく場違いなところに登場していたので印象に残っていたのである。 きっかけは、大学の広報誌に「『動物のお医者さん』の人間関係が、わたくしの考える理想の人間関係だ」と記したことにあるという。若干、広報と解説の文章を引用したい。「この作品の魅力は、なんといっても登場人物の関係のありかたにあるような気がする。素っ頓狂な登場人物ばかりに見えるが、実は自立した個人間の、サバサバした、しかし尊敬と愛情で結ばれた間柄といったらいいだろうか。 この作品のトボけたような暖かさはそのせいだろう。」「これらの変な人たちの間には、さっぱりした、しかし温かい関係が成立しています。お互いにハタ迷惑なことばかりしていますが、『しょうがないなあ』といった感じで許し合っています。それは、本当に自立した個人が、お互いの深いところで、愛情と尊敬とで結ばれているときに成り立つものでしょう。」 社会学的見地からの興味深い考察であるが、本批評は「よつばと!」に、より当てはまる。綾瀬家から見れば、よつばちゃんは他人の子である。それを優しく見つめる家族全員の目が、何ともいえず暖かいのである。 私がこの作品を強く他人に薦めたい点は、まさにここにある。理想的な人間関係を鑑賞できるのが、この作品の最大の魅力なのだ、と強く推したい。 7月の終わりから始まったこの話も、連載(月刊誌)は40話を超え、単行本は6冊を数えるが、作品上の日付ではまだ9月に入ったばかりである。綾瀬家の三姉妹は学校が始まり、今後のストーリーテリングに苦労するのではないかと危惧するが、このまま「まったり」と連載を続けてもらいたいと願うばかりである。 なにせ、まだ「とーちゃん」と「よつば」の関係も不明のまま(作品中、よつばちゃんは「外人」と他人から見られる様子がよく描写される)で、これに対する作者の回答が待ち遠しい。