海外でのダイビングあれこれ(6)
海の中で降る「雨」マウイ島での滞在が長かったので、普段なら行けないようなポイントでもダイビングをした。マウイ島から少し離れたモロカイ島東端の岬の先に浮かぶタートル・ロックという場所だ。当時滞在していたマウイ島カパルアのコンドミニアムからも見える特徴あるペアの岩で、タートル(亀)という名前の通り、丸みのある亀の甲羅のような岩と、その先に亀の頭のように見える岩が水面に突き出ている。マウイ島からボートで一時間近くかかるが、比較的波が穏やかで、かつ潮流の条件が整えば何週間かに一度、潜りに行くこともある。2000年1月3日、ちょうどタートル・ロックに行く条件がうまくそろったようだ。やや波があったが、ザトウクジラがところどころで顔を出す海を、「広がる水平線」号に乗って、一路モロカイ島へと向かった。タートル・ロックは近くで見ると、かなり大きな岩であった。荒波に長年削られながらも、威風堂々とした態で眼前にそびえ立っていた。最初のポイントに潜ってみると、海中は魚の天国のようなところだ。チョウチョウウオやハタタテなど小さな魚や、バラクーダなどが泳ぎ、ロブスターが3匹岩陰に隠れていた。遠くの方でクジラの鳴く声が聞こえる。その後ボートの上で50分休み、タートル・ロックの別の場所へ移動して潜った。この二本目のダイビングが圧巻であった。最初は、ヨスジフエダイの群れや、岩場にたたずんでいるオトヒメエビなどを観察していたのだが、ある岩場を越えたときにガイドが上を指差した。そこには、岸壁に沿って無数のミレットシードバタフライフィッシュが乱舞していたのだ。ミレットシードとはミレット(アワやキビ)の種のこと。その種のような黒い斑点が縦に並んでいるので、このように名づけられた。ハワイ固有のチョウチョウウオだ。このポイントは、その名も「フィッシュ・レイン」と呼ばれている。チョウチョウウオやハタタテが、まるで雨のように“降る”からだ。いつの間にか、私たちはチョウチョウウオたちの群れの中にいた。どこを見ても、魚ばかり。無数の星の中を宇宙遊泳でもしているような気持ちになる。ミレットシードに混じって、チョウチョウウオ科のチョウハンも泳いでいる。英語名ではラクーン・バタフライフィッシュ。目の周りがラクーン(アライグマ)のように黒くてかわいい。ここは魚種が豊富で、キンチャクダイやスズメダイの仲間も多く観察できた。大物こそ見ることはできなかったが、小さい魚の宝庫のような、印象深いダイビングスポットだった。