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HANNAのファンタジー気分

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May 18, 2007
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 「リンの谷のローワン」シリーズ3作目。実は4作目『ローワンとゼバックの黒い影』を先に読んでからこれを読んだのですが、相変わらず、臆病で小心者の少年ローワンががんばるお話。
 『ゼバックの黒い影』で出てきた海辺の民のパーレンが、一風変わっているけどなかなか好人物だったので、海辺の民マリスを訪ねるというこの『伝説の水晶』を、かなり期待して読んだのですが・・・

 作者のエミリー・ロッダは多作で手慣れた作家のようで、筋の組み立てはもちろん、登場人物の書き分けも見事です。今度も、ローワンたちとは違う文化・考え方を持つマリスの民を、うまく描き出しています。

  「自分の氏族の候補が勝つためなら、あの人たちは何でもするわ。盗みだって、スパイだって、ごまかしだって、うそだって、平気なの。・・・選任役を暗殺することだっていとわないわ」・・・「それが、マリスの人たちのやり方なのよ・・・ふんがいしても仕方がないの」
                        ――エミリー・ロッダ『ローワンと伝説の水晶』

 とっても感じ悪いですね、マリスの民。そんな人々のところへ、新たな指導者を選ぶ役としておもむくローワンの母。彼女はあっという間に毒を盛られて死を待つ身となり、ローワンが代役になります。怒りと不安と無力感にさいなまれながら、彼は母を救う手だてを求め、本心を見せないマリスの民と腹のさぐり合いをします。

 毒を盛った犯人は誰か、次のマリスの指導者になるのは誰か、ローワンがいかにして毒消しの薬を作るか、ハラハラドキドキが続きます。それはそれで面白いのですが・・・

 マリスの民のことが最初からあまりに感じ悪く定義されているので、私は犯人捜しのミステリーな気分を味わう前に、母の命を質にとられたローワンと同調してしまい、

  犯人は・・・ローワンを・・・道具に使おうとしているのだ。
  ・・・
  ひょっとすると、島の向こう側に行くというのも、だれかの立てた計略の一部なのだろうか?
  ・・・
  話をしたくても、信頼できる者がだれもいなかった。  ――『ローワンと伝説の水晶』

 などと、不信感ばかりがつのりました。それでも少しずつローワンの探索に同行する「候補者」3人は、信頼に足る人物だということがわかってきてホッとすると、今度は、マリスの現指導者である「水晶の司」こそが毒を盛った犯人だと分かり、しかもローワンたちを試すためだったというのです。
 ローワンならずとも、腹が立ちます。どんな大義があるにせよ、母の命をもてあそぶのは許
されません。なのに物語世界の創造主である作者は、その上手なストーリー展開の中で、「水晶の司」を罰しもしないし、反省させもしないのです。

 かと思うと、3人の候補者の中でいちばん実直そうなドスが、敵国にマインドコントロールされた裏切り者だったりします。クライマックスでのどんでん返しはファンタジーの定番だし面白いんですけど、・・・これはどうもいただけない感じがしました。

 で、やっとのことでローワンがそれを打ち破ると、ドスは新しい水晶の司になって、水晶のすごいパワーをふるって敵を一気に全滅させるのですが、これも何だかむごたらしい。

  ローワンは顔をそむけ、苦しんでいるのは敵なんだ、愛する人々に苦しみと死をもたらそうとして攻めてきた敵なんだ、と自分に言い聞かせていた。それでも、目の前に展開する恐ろしい光景を見ていることはできなかった。  ――『ローワンと伝説の水晶』

 ローワンは、そういうことを平気でやっちゃう「水晶の司」と、これでぼくらはずっと友だちだねなどと言い合って別れるのですが、うーん、民族の違いというだけでは納得がいかないですねえ。「恐ろしい光景」を見た体験をそのままにして、なぜローワンは楽しく故郷へ帰ることができるんでしょう。

 子供を主人公にしたファンタジーとしては、ちょっと割り切れないところや積み残しが気になる感じがしました。





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Last updated  May 18, 2007 10:25:43 PM
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