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テーマ:好きな絵本教えて下さい(709)
カテゴリ:気になる絵本
二学期が始まったので、読み聞かせの本をさがしに図書館へ行きました。そしたら、ふと見つけたのがこれ。作者12歳の時の物語に、画家の父が絵をつけた作品だということです。 表紙の、ヘタウマみたいな大仏さんの顔が、まず、いいですねえ。最初から最後まで、ほとんどずっとこの上品なお顔のままです、大仏さん。これは、与謝野晶子が「美男におわす」と詠んだ、あの鎌倉の大仏さんの物語です。 夏の暑さの中、じっと座り続ける大仏さん。見物人にほめられても、たたかれても、 ・・・だいぶつさんは、ただ、じっとすわっていました。 ――岡本黄子・岡本信治郎『だいぶつさん海へいく』 そうじがかりのおじさんから初めて「海」のことを聞いた時も、大仏さんはだまってじっとすわっていました。大仏なんですから、動いたことなどない、そりゃそうですよね。 でも、大仏さんの心の中に海へのあこがれが生まれて、夏から秋へ、それはだんだん大きくなったらしく、とうとう独り言となってあふれます。 「ああ、海へいきたいなあ」 このセリフを言っている大仏さんは、やっぱり上品なお顔のまんまです。「立ち上がって海へお行きよ」とコオロギに言われても、やっぱりだまってすわっていました。 ・・・何だか、こういうタイプの人、いますよねえ。いつもまじめで落ち着いて、でしゃばらず、さわがず、平静な顔をくずさない人。目立つ行動はしないのになぜか存在感があって、みんなを安心させてくれるような人。 そんな大仏さんの内に秘めた情熱は、ある日またとうとうあふれ出します。大仏さん、この時だけは顔を真っ赤にしてふんばって、地響きをたてて立ち上がります。そして、一歩一歩、海へ向かいます! 鎌倉の大仏さんて、海に近いんですよね。たまたま去年家族で旅行して拝んできましたが、もとは建物(大仏殿)の中にあったのに、嵐で高波が押し寄せた時に木造の大仏殿だけが流されてしまい、嵐のあと大仏さまだけ残ったんだそうです。 ともかく、大仏さんは一歩一歩、大きな足で歩いてゆきます。 「だいぶつさんが、海にいくぞー!」 日頃大仏さんを見上げていた何万人の人々が、大仏さんのあとに続きます。 何万人の人々が! 大仏さんが立ち上がって歩くというのは、それほどすごいことなのです。大仏さんの静かで強いあこがれと決意とが、町中の人を動かし、みんなだまってついてゆくのです。 大仏さんと人々は、やがて海辺に着きます。みんなでじっと海を見つめます。横長のページの、見開き全部を使った海と大仏と人々の絵。海は大仏さんよりも、大きくはてしないです。 もしこれが『冒険者たち』のガンバだったら、「これが海か! これも全部海か!」と叫ぶシーンです。 大仏が立ち上がって歩いて海を見に行く。ただそれだけのストーリーなのに、何とも力強く、感動させられます。変わらぬ日常の殻をやぶって立ち上がり、あこがれに向かって一歩一歩歩き出す、それは誰にとってもすごいパワーと努力が必要なのです。それは周囲の人々をも巻き込みます。そして、夢を実現した時の静かな感動もまた、周りの人々にも伝わるのでしょう。 もちろん12歳の時の作者は、そんな意図を持ってお話を作ったのではないでしょう。でも、大仏が歩くというのを、ただの奇抜な発想としてではなく、こんなにまじめで純粋なストーリーにしたところが、すばらしいです。 私も大仏さんと一緒に、由比ヶ浜で海を見たくなりました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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